DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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継投
前書き
ようやくコロナワクチン二回目を打ちました
バシィッ
「ストライク!!バッターアウト!!」
外に逃げていくスライダーで空振り三振に仕留めた陽香が意気揚々とベンチへ帰ってくる。その圧巻のピッチングに翼星学園の選手たちは呆然としていた。
「ギア上がってきたかな?」
「初回にもっと攻めておくべきだったかもね」
ピッチャーゴロ、サードファールフライ、空振り三振と力でねじ伏せた印象のあるこの回の投球。前の回がよかっただけにそこで追加点を奪えなかったことに悔いが残る。
「はいはい!!ネガティブなことばっかり言わないで!!切り替えていきましょう!!」
「「「「「はい!!」」」」」
佐々木に急かされ守備へと急ぐ少女たち。そのうちの一人、マウンドに向かおうとした山口を佐々木が呼び止める。
「光、この回までよろしくね」
「わかりました!!」
継投策を使ってくる翼星は投手の交代のタイミングをしっかり見極めながらそれを行ってくる。ここまでの内容からまだ山口を引っ張ることを佐々木は決めたのだ。
「桃子、途中からもあるから準備だけお願いね」
「はい!!」
ブルペンに向かおうとしていた遠藤には如何なる場面でも最高の投球ができるように準備をキッチリさせておく。それぞれの位置へと着いた彼女たちを見届けてから、彼女は自身の飲み物へと手を伸ばした。
「まだ山口がくるみたいだな」
二回の守備を早々に終えた明宝学園はベンチの前でマウンドに登ったサウスポーを確認した後、真田の方へと向き直る。
「一巡目で見てみた感想は?」
「左打者に外のストレートは遠く感じました」
「スライダーは多分届かないと思いまっす」
葉月と優愛が打席に立った感想を述べる。伊織のように大きく踏み込めば届くことはわかったが、それをすると内角の球を捨てることになるため選択が難しい。
「ナックルは相当動いてきますね」
「スラーブは変化が大きくて点で打ってる印象になります」
予想よりも遥かに高い完成度を見せる投手。さらには継投もあることから短いイニングでの攻略が必須になる。
(その焦りが今までの相手を翻弄してきたんだろうな)
戦ってみて初めてわかる相手の実態。そして彼女たちからの言葉を受けて、真田が指示を出す。
「ナックルはまだ打ててないからな。追い込まれるまで捨てていい」
「でもあと少しならどんどん投げてくるんじゃないですか?」
莉愛のもっともな意見に全員が頷く。しかし、真田はそれを待っていたかのように不敵な笑みを浮かべる。
「ならナックルを投げにくくしてやればいいだけだ」
「「「「「??」」」」」
彼が何を言いたいのかわからず首をかしげる少女たち。それを見て、真田はさらに円陣を小さくさせる。
「ナックルの弱点を突いてやればいいだけだ。いいかーーー」
打席に入る栞里。彼女は真田からのサインを確認すると、彼は大した動きも見せず、栞里もすぐに目を切る。
(ここでも大した策はなしか。大した自信だよ)
サインが出なかったと判断した岡田は先程の打席のことを思い出しながらサインを送る。
(グッチーはこの回までだろうから、ナックルを連投させても問題ないはず……)
初球からナックルで勝負に出るバッテリー。このボールを栞里は振っていくが当たらない。
(狙い球変えてきたかな?緩い球に的を絞ってくれるならストレートが生きる)
ボールの変化には対応できていなかったがタイミングは合っていたことから緩い変化球に照準を合わせていると読んだ岡田。
(次はストレートでいこう。それも内角のね)
身体に近いところに速い球。緩い球を狙っていればその緩急に仰け反ってしまうはず。
クロスファイアーでの投球を挟み次のナックルをより生かすことを考えた。その思惑通りの投球だったが、ここで栞里が動きを見せる。
コッ
右足を後ろへと引きながらセーフティバント。ドラッグバント気味のそれは投球後に行われたため、定位置で守っていたサードが慌ててダッシュするものの、送球まで行うことはできなかった。
(やられた。ドラッグバントだったからナックルにタイミングが合ってたのか)
通常のセーフティバントなら投手の踏み込む足が着地したタイミングで構えに入るがドラッグバントはボールが来たところに下ろすようにバットを出す。そのため、初球のナックルの時はタイミングが合わず、仕方なしにスイングした結果タイミングが合っているように見えただけ。
(次は丹野か……こいつには前の打席の残像を利用させてもらうか)
一打席目にビーンボールを見せたことを利用して再び内角にストレートを……ただし今度はストライクを取りに行こうと考えた岡田。
(あれ?丹野ってこんな構えだったっけ?)
紗枝を確認しながらサインを送ろうとしたところ、違和感を感じ手を止める。しかし、その違和感の正体がわからない。
(気のせいか?ここは直感を信じる)
何が違和感を引き起こしているのかわからない以上対策の打ちようがない。岡田は予定通り内角のストレートから入ることにする。
キンッ
だが、紗枝はそれを待ち構えていた。クロスするそのボールを押っつけるように一、二塁間へと低い打球を放つ。
「抜かせない!!」
「届け!!」
ファーストとセカンドが飛び込むものの打球はその間を嘲笑うように抜けていき、ライト前ヒットになる。ただ、ライトがすぐに打球を処理したことで栞里は二塁を回ったところで止まり、ノーアウト一、二塁の形となった。
(まだ狙いはストレートか?次の水島は前の打席でクロスファイアーに対応していたしーーー)
莉子の前の打席を思い出していた岡田は、打席に入った彼女の構えを見てタメ息をついた。
(さっきの丹野に感じた違和感はこれか)
その理由は彼女の立ち方。一年生の頃から何度も対戦したことのある彼女だからこそその違いに気付くことができた。
(クローズドスタンス……左のサイドスローの角度に対応するために足場を変える作戦か。これじゃあ角度をつけるグッチーのピッチングが生きない。)
ストレートとスライダーに対応するための立ち方。それならばとその球種を使わずに攻めることにシフトする。
(スライダーに近いスピードのシンカーなら決め球としても有効なはず。ならナックルとスラーブでカウントを整えて……)
まずはナックルから入ろうと集中力を高める岡田。山口もスッポ抜けないようにしっかりとボールを握り投球を行う。
「走った!!」
「「!?」」
繊細さが求められるため投球に集中が傾いてしまうナックル。それを読んでいたのか、足が上がるか上がらないかのタイミングで栞里と紗枝がダブルスチールを仕掛けてきた。
(ギリギリ刺せるか?)
送球の体勢を整える岡田。しかし、投球は現代の魔球ナックル。ただでさえも捕球が難しいそれを中腰の姿勢から捕ることは困難を極める。
ガッ
「やべっ」
送球に意識が向いてしまったことによりボールがミットに収まりきらず弾いてしまう。幸い大きく逸らしたわけではなかったが、スタートを切っていたランナーにはそれぞれ進塁を許してしまった。
(最悪……ノーアウト二、三塁かよ……)
二巡目に入ったことで対策してきた明宝サイド。それが完璧にハマった結果翼星サイドは大ピンチを招いてしまう。
「真理子!!」
カウントも1ボールと非常にまずい状況で佐々木が動く。その横にいるのは先程までブルペンにいた遠藤が指示を受けていた。
「すみません、ピッチャー代わります」
「この継投は遅いかな?」
「頭から代えてればよかったものを……」
スタンドから見ていた東英学園の面々が新たにマウンドに上がった小柄な少女を見ながら口々にそう言う。
「先のことも考えて遠藤をギリギリまで休ませておきたかったんだろうな。ただ、これで余計に負担をかけることになってしまったがな」
冷静に状況を分析している大河原。その視線はマウンドにいる少女へと全て注がれている。
「そういえば瞳はあの子にいいようにやられてたもんね」
「それ言うならみんなが……ですよね?」
緑色の髪をした少女はそこまで言ってから慌てて口を抑える。彼女のその言葉は相当気になっているらしく全員の表情が厳しいものになっていた。
「なんであんなに打てなかったんだろうね?」
「球が遅すぎたのかな?」
笠井と大山が不思議そうに話している。他のレギュラー陣も同様で、なぜ自分たちの打棒が爆発しなかったのか、いまだに理解できていない。
「山口の後だからなのか、何か仕掛けがあるのかはわからないが……できることならここで打たれて消えてほしいな」
「めっちゃ他力本願じゃん」
珍しい大河原の弱音に事の重大さに気付く下級生たち。彼女たちはこのピンチで果たしてどのような投球をするのか、マウンドの少女に全神経を注ぐことにした。
その東英学園の選手たちと離れたところ……スタンドへの出入口の前で試合を観戦している三人。そのうちの二人……銀髪の少女と黒髪の少女は胸元に桜華と書かれたユニフォームを着ている。
「えぇ!?なんか球遅くない?」
銀髪の少女が思わずそう口走る。その言葉を赤髪の青年は否定することなく言葉を紡ぐ。
「俺もそう思う。けどよぉ、あいつは他の投手と同じように無失点で切り抜けているんだ。何かあるって思わねぇか?」
「何かって何よ」
黒髪の少女の問いに首を振る青年。彼がわからないのであればお手上げといったように二人は視線を交わした。
「ただ、恐らくこいつがこのチームでもっとも信頼されている投手のはずなんだ」
「え?二番手なのに?」
背番号1で先発を務める山口。二年生ながらストッパーを任されている大場。試合を作る役割を与えられる先発と試合を終わらせる役割の抑え。その役割から外されている背番号10が重要人物だと、二人は到底思えなかった。
「俺もそう思っていたが、ここまでの記録を見るとこいつだけ登板のタイミングが決まっていないんだ」
「というと?」
「山口は先発だから試合に間に合うように肩を作ればいい。抑えの大場は最後の二イニングしか出てこないからそこに照準を絞ればいい。だが、遠藤だけはそうじゃない。
一回戦は4、5回を投げたが二回戦は3回からの三イニング。昨日の三回戦に関しては2回の途中から1アウト満塁でマウンドに上がってるんだ」
「あ!!もしかして継投が遅れたのって……」
「昨日山口を引っ張れなかったからなんだろうな。遠藤に昨日の疲れが残ってる可能性を踏まえると、少しでもフレッシュな山口を投げさせたいと思う気持ちも頷ける」
前日短い間イニングで降りた山口。そんな彼女がこの日は調子もよかったため、佐々木はギリギリまで引っ張り遠藤を休ませたかったのだ。
「だが予定とは違う展開になっていることは間違いない。遠藤がきちんと抑えられるか、はたまた明宝がこのチャンスを活かすか……見物だねぇ」
まるで悪者のような笑みを浮かべる青年。そんな彼を見ていた二人の少女はクスクスと笑いながら、試合へと視線を戻した。
後書き
いかがだったでしょうか?
日帝大の選手も絡ませたいのに絡ませられずめっちゃストレスかかる……
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