| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

俺、ツインテールになります。外伝~追憶のテイルチェイサー~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Episode1 「起動」

 都内 通学路

 戦いを終え、帰路につく銀髪の少女。
 変身していない彼女は常に羽織っている白衣のポケットから取り出した端末を確認する。

 時計に目をやり時間を確認すると、彼女はその白銀に光るツインテールを靡かせながら、駆け足で道を進む。
 数分後、彼女が到着したのは小学校の前だった。

「3、2、1……」

 カウントダウンと同時に鳴るチャイム音。
 間もなく、ランドセルを背負った子供たちが、校門からぞろぞろと現れる。

 その内の、何人かの少女が、佇む彼女の姿に気付き、手を振りながら駆け寄ってきた。

「あ!トゥアールさん!」
「トゥアールさ~ん!」

 そう、彼女の名はトゥアール。この世界のツインテールを守護する戦士だ。
 トゥアールは手の甲で口元をぬぐうと、手を振り返す。あっという間に彼女は小学生たちに囲まれていた。

「みんな、今日も元気ですか?」
「うん!元気だよ!」
「そうですか~、それは何よりですね~」

 笑顔で少女たちの頭を撫でまわすトゥアール。
 そして、その少女たちの多くが、トゥアールを真似たツインテールだった。

 世界を守る彼女は、この世界の子供たちの人気者なのである。
 特に、一定年齢以下(具体的には13歳以下)の少女に優しいので、その歳の少女達が、日々こうして寄って来るのだ。

「トゥアールさん、昨日送った写真、見てくれました?」
「ええ、もちろん!可愛く撮れていましたよ!」
「やった!トゥアールさんに褒められた!!」
「いいな~、私も褒められたい!」
「私のメアドが欲しいならあげますよ?」

 メアド入りの名刺を取り出すトゥアール。

「え、いいんですか!?」
「はいもちろん!これで好きな時に写メ送ってくださいね?あと、何かあったらすぐに連絡すること。トゥアールお姉さんとの約束ですよ?」
「「「「「はーい!」」」」」

 名刺をどんどん配っていくトゥアール。
 傍から見れば、子供に優しいお姉さんに見えるかもしれないが、彼女の本心は別にある。

「ああ、幼女達が喜んでいる……ぐへへ」

 名刺を配り終え、喜ぶ少女達を見守る彼女の顔は密かに、だがかなりヤバい目をしていた。
 しかも、口から涎が垂れかけている。

 そう、彼女はロリコンなのである。しかも、見ての通り重度の。

「あ、あの……トゥアールさん?」
「ハッ!あ、はいはいなんですか~……ってイースナ!?」

 黒縁眼鏡に、おさげのように垂らしたツインテールの少女───イースナが、他の子供たちとは少し距離を置いた場所から、こちらへ近寄り、声をかけてくる。

「こんにちは…今日も、迎えに来てくれたんですね……」

 説明しよう。トゥアールの日課は、子供たちをエレメリアンの襲撃から守る為の、登下校時の見送り……と称して、合法的に幼女達に囲まれて歩く事である。

「ま、まあ、あなたたちを守る事が私の仕事ですから……」
「ありがとうございます……ところで、昨日のメールは読んでくれましたか?」

 ギクッ!というオノマトペが浮かびそうな表情になるトゥアール。

 実は、イースナはトゥアールのファンの中でも特に粘着質なタイプで、ストーカー紛いの行動と、大量のメール送信を繰り返しているのだ。

 今は人前なのでなりを潜めているが、登校時間は通学路の何処かを張り込んで待ち伏せては、トゥアールの自宅を突き止めるべく、追いかけストーキングする日々を送っている。

「す、すみません、目は通してるのですが、忙しくて返信できなくて……」

 もちろん、真っ赤な嘘である。本当は通販の催促メールと同じファイルにぶち込んであり、未読のままなのだ。
 普通なら迷惑メールにするところだが、知り合いな上にロリコンの彼女としては、それは忍びないので、これが一番妥当な判断なのだ。

「そうなんですか……でも、返事はいつでも待ってますから……」
「あはは……では、そろそろ行きましょうか」

 笑って誤魔化すと、いつも通り幼女達を引き連れ、家の近くまで送っていくトゥアールなのであった。



 数十分後 都内ショッピングモール

「さて、確か牛乳がそろそろ切れていたような…」

 幼女達を無事に自宅まで送り届けたトゥアールは、いつものように買出しに来ていた。

 一人暮らしだから、というのもあるが、実はストーキングして来るイースナを巻く為の手段でもある。

 歩く度に時折、チラッと後ろを振り返る。
 一瞬遅れて、物陰に隠れる頭が見えた。

「まだ付いてきてますね……もう少し歩き回りますか……」

 新商品の広告を見る振りをしながら、背後を伺う。
 家電製品の広告の前まで来た頃、ふと目に付いたある広告に目を奪われる。

「ロボペット……ですか……」

 それは、ひと世代前に流行った、犬の形をしたロボットの広告だった。

 ペットに生き物を飼うと世話に手間がかかるが、ロボペットには餌をやる必要がなく、抜け毛やトイレの世話もない為、最近復刻したのだそうだ。

 どれだけ豊かな世の中になっても、人の寂しさ、心細さは埋めることが出来ない。
 そして、科学による発展を突きつめ、合理性を重視したこの世界の社会では、ロボペットが推奨される日が来るのは必然だった。

 しばらく広告を見つめ続け、やがてトゥアールは、自分に言い聞かせるように呟く。

「………いや、いりませんよね!例えどんなに精巧に作られていても、所詮はロボット。表情も温もりも、そこにありはしないんですから……」

 広告から目を逸らし、食料品コーナーへと足を運ぶトゥアール。

「トゥアール……さん……?」

 イースナは物陰から出て、移動しようとしたところで、トゥアールの後ろ姿を見て思わず立ち止まる。
 心なしか、その背中は少し哀愁が漂っていて、揺れるツインテールはどこか寂しげだった。



 夕刻 トゥアールの自宅

 あんまり人気のない通りに、ぽつんと佇む一軒の建物。
 他の民家に比べれば遥かに大きな邸宅は、私の研究施設だ。

 住居スペースの玄関の鍵を開け、中に入る。

「ただいま帰りました……」

 答える声はない。当然です。ここには、私一人しか住んでいないのですから。

 玄関のドアを閉め、靴を脱ぎ、そのまま台所へと直行する。
 買ってきた食料品を冷蔵庫に詰めると、溜息をついた。

 いつからだろうか。寂しい、と感じるようになってしまったのは。

 アルティメギルからこの世界を守れるのは、私しかいない。とはいえ、独りで戦い続けていると、少し心細くなってくるものです。

 街に出れば、私に憧れた子ども(ようじょ)たちが寄ってきてくれますけど、こうして家に帰れば私は独り。

 出迎えてくれる者もなく、ただ夕食を食べ、テイルギアのメンテをして、お風呂に入って、寝室で眠りについて。
 朝が来れば朝食の後、幼女たちの見送りをしたらラボに篭って研究に打ち込んで。
 エレメリアンが現れれば出撃して……。

 この繰り返しにも慣れていましたが、それでも寂しさだけは消えなかった。

 なら、さっさといい男でも見つければいいのかもしれませんけど、私は幼女の方が好きなので。
 正直それは今のところ、選択肢にありませんし。

 ………だから、ロボペットの広告を見た時に、ちょっと立ち止まってしまったのかもしれませんね。

 それに、ラードーンギルディの属性玉がツインテール属性だったと知った時、私と一緒に戦ってくれる仲間が欲しい、なんて一瞬考えてしまったのも……。



「属性玉エレメーラオーブ……ロボペット……仲間………ですか……」



 その時、私の頭脳に光明が走った。

 何気なく呟いたこの三つが結びつき、一つのアイディアへと結実する。

「そうだ……その手がありましたか…!」

 ラボに駆け込むと、すぐに私は製作に取りかかった。
 食事を取るのも忘れ、時間がどんどん過ぎていくのも気にせず、ただ、この作業に没頭した……。



 次元の狭間 アルティメギル移動艇

「ラードーンギルディが敗北した、か……」

 移動基地の中央会議室に集まったエレメリアン達。
 その中心に立つ、竜を模した漆黒の甲冑をまとった、一際巨大なエレメリアンが呟く。

「美しさに重きを置きすぎるな、とあれほど言っておいたが……馬耳東風であったか…」

 呆れたように、それでいてどこか哀しげに溜息をつく。

「帰還要請が来ておりますが、如何致しますか?」

 雀のような姿をしたエレメリアンが、隊長に近づく。

「無論、応じる。到着を待つように伝えておけ」
「はっ!」

 雀型のエレメリアンは、早速その旨を伝えるための手紙を書き始める。

「致命的な弱点を抱えていたとはいえ、副官を任せられる程度には強かった、あのラードーンギルディが敗れ去ったのだ。その世界のツインテールの戦士との戦いは、いくらか楽しめるかもしれんな……」

 腕を組みながら、スクリーンを見上げる隊長エレメリアン。
 送られてきた映像で戦うトゥアールの姿を見ながら、隣にいる雀型エレメリアンの名を呼ぶ。

「スパロウギルディ」
「はっ。なんでしょうか、ドラグギルディ様」
「到着したとしても、スワンギルディだけは出撃を控えるように伝えておけ。奴はまだ若く、まだ鍛え甲斐のたる戦士だ。万が一にでも失うわけにはいかん」
「わかりました。伝えておきましょう」

 真っ赤なマントを翻し、会議室を去るドラグギルディ。
 そう。この世界の終わりは、見知らぬところで着々と歩みを進めていたのだった。



 深夜0時数分前 ラボ




「……」

 起動する(めをさます)と、まず見えたのは蛍光灯の明かりに照らされた、白い天井の研究室だった。

 カメラアイからの画質は良好、集音システムにも異常無し。感度良好。
 次は動作の確認だ。

 起き上がると、私は金属製の作業台の上に寝かされていたことを確認する。動作にも異常はなさそうだ。

 そして辺りを見回すと、白衣を着た銀髪のツインテールのヒトが、目を大きく見開き、両手で口を抑えて立っていた。
 顔を認証する。なるほど、この人が私の製作者(マスター)で、名前はトゥアールというらしい。

「おはようございます。あの……何をしているのですか、マスター?」

 トゥアールは私をじっと見つめ続け……やがて一言、こう言った。

「おはようございます、シルファ」
「……いえ、夜明けまではまだ5時間以上ありますね。『おはようございます』では不適切だったでしょうか?」

 これで合っているのだろうか……と思い、首を傾げる。

「ああ、そうでした。今はまだ真夜中でしたね……って、もうこんな時間!?」

 今度は驚きながら時計を眺めるトゥアール。
 表情の変化の多い、忙しい人だな。と思った。

 そして、最初の会話として、ひとつ確認する。

「あの……」
「は、はい?なんですかシルファ?」
「シルファ……と、いうのは?」

 私の問いに対して、トゥアールは笑顔でこう答えた。

「あなたの名前ですよ。今日からあなたは……私の家族です。よろしくお願いしますね、シルファ」
「………シル…ファ……」

 自分で、自分に与えられた名称を復唱する。

「わかりました。私はシルファ、ですね。マスター」
「ああ、それとシルファ…マスターって呼び方は辞めてくれますか?」
「……何故です?」

 しばらく考えたが、その意図が理解できず、聞き返す。

 私はこの人の制作物だ。なら、マスターとか、クライアントとか呼ぶのが当然ではないのか?

「私とあなたは……家族なんですから。私のことは気軽に、トゥアールと呼んでください」

 家族だから。トゥアールはそう言った。

 理解……する事は出来なかった。
 家族とは、人間が有する社会関係のひとつで、主に血の繋がりを表す言葉だ。

 造られた存在、機械の私を“家族”と呼ぶ彼女の心理が、私には理解できない。
 何故この人はそんな事を言ったのだろうか?

 でも……悪い気はしなかった。そうだ、私はまだ完成したばかりだ。
 これから彼女と過ごすうちに、沢山の知識を学べるはずだ。この言葉の意味も、そのうち理解していけるようになるだろう。

「わかりました。これからよろしくお願いしますね、トゥアール」

 私が名前を呼ぶと、トゥアールはとても嬉しそうな表情で微笑んだ。
 これが、私の起動し(うまれ)た日。私にとって、とても大事な……最初の記憶になった。 
 

 
後書き


シルファの外見です。
私服は基本的にトゥアールのおさがり(by空魔神さん) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧