DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
弱点
前書き
雪が落ち着いている期間は心が休まる
莉愛side
打席に入る一番打者。右バッターだけど足があるという莉子さんからの情報。
(ドラッグバント気味のセーフティーを決めやすくするために右打席に入ってるってことだったね。でもそれでサードを前に出すと強打もしてくると)
一塁までの距離が伸びても構わない。打席ではとにかく守備の裏を突くような打撃で塁に出てそこから得意の足を生かしてくるって話だった。なら……
(まずは外角のストレート。外れてもいいから厳しくね)
外角のボールを引っ張りにかかれば引っかける確率が上がる。かといってバントでは投手前に転がりやすくなるため、ここはセオリー通りの攻め方がもっとも有効的。
瑞姫もそれがわかっているようですんなり投球に入る。流れるような投球フォームから繰り出されるストレート。それは構えたところに吸い込まれるようにミットに入る。
「ストライク!!」
ボール気味に構えていたけど、構えたところに来たからかストライク判定をもらえた。もしかしたら外が広い審判なのかも……
(もう一球試してもいい?)
(いいよ)
今度はそこよりも少し外気味に構える。高校野球では審判の特徴が出やすいから早めに把握しておくのも一つの手だと思う。特に瑞姫も陽香さんもコントロールがいいから変な審判だと終盤苦しみかねない。
そう思って投じさせたストレート。今度も構えたところに来たボール。今度は明らかにボール球だけど……
「ボール」
さすがにこれはボール。ということは外が広めの審判である可能性が高い。
(じゃあ右打者にはスライダーが有効だね)
外が広いなら逃げていくスライダーは大いに使える。次はスライダーでカウントを取りに行こう。
ストライクからストライクへのスライダーを要求。ただ、その場合は打たれやすくなるためとにかく低くしなければならない。低めに外れてしまう分には構わないけど、浮くことだけはないようにジェスチャーする。
小さなテイクバックから投げ込む瑞姫。コースはばっちり。高さはストライクからボールへと沈んできたけど、打者が手を出したためカウントを取れた。
(瑞姫調子良さそう)
試合に出始めてからずっと安定した投球を続けている瑞姫。ここまで完璧な投球が続けられるのなら、色々試したくなってくる。
(内角のストレートで見逃し狙っちゃおっか?)
(いいんじゃない?)
外を徹底して意識させたことにより立ち位置がベースよりになってきてる打者。それに加えて球が走っている瑞姫のストレートが内角に決まれば手が出ないだろう。
意識が外に向いていた彼女は真ん中寄りの内角の球に腰を引いていた。しかし、コースも高さも甘めだったこともあり審判の右手が上がる。
「ナイスピッチ!!」
完璧な投球。それに見逃しの三振ってやっぱり気持ちいいよね。それは投げている側の同じのようで、普段無愛想な瑞姫の口角が上がっているように見えた。
第三者side
「球速いね」
「コントロールもなかなか……」
「スライダーもいい感じですよ」
試合を見ている翼星ナインは瑞姫の投球に感嘆の声を出す。それは監督である女性も同様だった。
「できればフォークも見てからアップに行きたいけどね……期待できるとすれば西川さんくらいかな?」
明宝に比べると力が落ちる白川高校。しかし、それでもいい選手はいる。その中でもどこの高校でもスタメンに入れると言われているのが三番にいる西川だ。
「去年はこの西川と永田がチャンスで打ちまくったからね。今年は西川以外に目立っている打者はいないけど、都大会ベスト16まで勝ち進んでいるから侮れないよ」
キンッ
二番打者は三球目のストレートを叩き強い打球を放つ。しかしショートの正面へのゴロ。莉子がこれを難なく捌き2アウトとなる。
「水島さん全然衰えてないじゃん!!」
「一年生が入ってきたおかげで守備も打撃も強化されてるねぇ」
元々高いチーム力を持っていたところに弱点だったポイントが補強できる新入生が入ったことでその力がより増していることは火を見るより明らか。そして打席に入ってくるのは、注目のスラッガー。
「西川に通用するかで次の試合に出てくるか決まりそうだね」
「でも間空いたからね……無難に坂本が投げてくるんじゃない?」
一、二回戦からこの三回戦までは一週間ほど間が空いている。さらには準々決勝となる次の試合はこの翌日になるため、連投は回避してくると読んでいる面々。
「それならそれでいいわよ。先に坂本さんが投げてくれたら、攻略まで時間かけてもいいしね」
後からエースが出てくると攻略するまでに打席が足りないことも考えられる。そうなれば先に好投手が出てきてから力が落ちる投手が出てくることはプラスに捉えてもいい。
「ただしっかり見ておきなさいよ。特に一、二年生はね」
「「「「「はい!!」」」」」
莉愛side
(この人が西川さんか……背は高めかなぁ)
背番号13を着けたスラッとした印象を与える西川さん。左打席に入った彼女は構えるとユラユラと前後に身体が動いている。
(体重移動を意識してるってことかな?何を狙ってるかこれで見てみよっか)
2アウトでランナーはいない。野手を長打警戒のシフトに動かしてから瑞姫にスライダーのサインを送る。
「ストライク!!」
外から入ってくるようなスライダー。ただし、高さはワンバウンドするような低めだったけど、彼女は手を出してストライク。
(もしかして見えてない?なら……)
続いて外に外れるストレート。ボール一つ分ほど外してみたけど、今度は見送りボール。
(スライダー狙い?)
ストレートに一切の反応を見せなかった西川さん。対してスライダーはかなり低いところでも手を出して来たということは、狙い球を絞っているからと考えられる。
(瑞姫のストレート走ってるからね。ならこれで……)
今度も外角へのストレート。ただし、今度はゾーンへしっかり入れて追い込む。そう思ったところ……
カンッ
「!!」
ミットに入る寸前で白球が三塁線へ飛んでいく。それはライン線を詰めていた優愛ちゃん先輩の横を抜けていった。
「ファール!!」
審判が両手を挙げる。ライン線を詰めていたところでそこを抜けていくってことはファール以外には考えられない。ただ、今度はストレートを完璧に捉えてきた。
(でも追い込んだことは追い込んだ!!)
1ボール2ストライク。瑞姫にはフォークという絶対的な決め球がある!!これを使えば間違いなく三振にーーー
「いや……」
思わず声に出かけたところで急いで言葉を飲み込む。誰にも気付かれていなかったようで安堵の呼吸を漏らした後、もう一度頭を切り替える。
(せっかくだから……)
咄嗟に思い付いたことを試したくてサインを送ると、それを受けた彼女の眉が動いたのが遠くからでもわかった。それでも首を縦に振ってくれる当たり、瑞姫の優しさが伝わってくる。
(意味わかってる?)
(何となくね)
一度フェイスとして立ち上がった後、外へとミットを構える。次のボールも外へのストレート。ただし……
(外にボール一つ分外してね)
二球目と同じ外へのボール球のストレート。もし見送られてもカウントには余裕がある。逆に狙い球を変えているのだとすればこれに手を出してくるはず!!
(三遊間に飛んでもあの二人なら対応できる)
優愛ちゃん先輩も莉子さんも先程のファールで警戒度を高めているはず。それならそちらに打たせてしまった方がいいに決まってる。
瑞姫もそれをわかっているからかこのボールは目一杯腕を振って投げる。似たようなコースに同じストレート。それを待っていたかのようにスイングに入る西川さん。
キンッ
快音とまではいかないもののしっかりと芯で捉えた金属音。でもそれは先程のような勢いはない。サードの優愛ちゃん先輩が難なく処理し一塁へ送球。ちょっと高かったけど許容範囲のため無事にアウトになった。
第三者side
「じゃあアップ行こうか。先生はもう少し見てるから」
「「「「「はい!!」」」」」
初回の攻防が終わったところで翼星学園の選手たちがスタンドを後にする。残ったメガネの女性はベンチに戻るショートボブの少女を見つめている。
「フォークはなしか……調子良さそうだし、ストレートで押したって感じかな?」
自身が取りたくて声をかけたにも関わらずライバル校へと進学してしまった彼女を見て不満げな表情を浮かべている。
「あの子が来てくれてればもっと投手力に厚みが出てたのになぁ……まぁ、そんなこと言っても仕方ないか」
投球練習が終わり打席に入る明里。彼女は初球のスライダーをセンター返し。またしてもノーアウトからランナーが出塁する。
「あの子のバッティングを見たかったけど、菊地さんが出たからバントかな?」
点差はついているもののまだ安全圏とは言えない点数。打席に入るなり背番号20はバントの構えを見せる。
「やっぱりバントか。無難な選択をするというか……消極的というか……」
相変わらずの攻め方に嫌気が差していたその時、フィールドにいる二人の少女が予想外の行動に出た。
「走った!!」
一塁ランナーの明里が盗塁。さらにバントの構えをしていた莉愛がバットを引く。
「バスターエンドラン!?」
全く頭になかった攻め手。バントが頭にあったシフトには穴が生まれる。そこを狙うためのバスター戦法を取った明宝学園。しかし……
「ありゃっ」
あろうことか莉愛がそれを空振りしてしまう。
「ちょっと!!」
「やばっ……」
これには走っていたランナーも守っていたキャッチャーも想定してなかったのか慌てたようにすぐに次のプレイに入る。
ランナーの足とキャッチャーの肩の勝負。捕球と同時に二塁に送球をしたが、慌ててしまったのか高く逸れ明里の足が先に入り込んだ。
「いいスタートだったし、キャッチャーが握り損ねてたわね。それにしても今のボールを空振りか……」
外されたわけでもない至って普通のストレートを空振りしたバッター。これは監督からすればいただけない点である。
(この子は典型的な打てないキャッチャーなのかもしれないわね。となると相当守備力が高いとも考えられるわ)
打撃能力が皆無でもレギュラーになるということはそれを補って余るだけの武器があるということ。そう考えた彼女は再びバントの構えに入った少女を睨み付けるように見つめている。
(一年生でキャッチャー……狙うならこの子ね)
後書き
いかがだったでしょうか。
いよいよ次からは本気の試合です。
ここから三試合はとにかく長くなる可能性が考えられるので温かい目で見守ってくださいm(__)m
ページ上へ戻る