女赤龍

　　　　　　　　　　　　　　　　女赤龍
　某地方都市にある居酒屋信濃はこの日も繁盛していた、それで店の主である真田正寅はこう言った。
「いや、今日も忙しくてな」
「何よりよね」　
　妻の映見が応えた、正寅は四十になったばかりで背は一八〇程で色黒の長方形の顔で小さな明るい感じの目と引き締まった唇を持っている。趣味のジム通いと日々の仕事のお陰で筋肉質だ。髪の毛は茶色で短くしている。
　映見は顎の先がやや尖った卵型の顔で波がかった黒髪を伸ばし後ろで束ねている、やや濃く奇麗なカーブを描いた眉に優しい感じの二重の目に赤い大きめの唇を持っている。背は一五七程で動きやすい服の下は大きな胸と見事な腰がある。
　それに実は左股に多くの黒子があるがこれは彼女の両親と夫だけが知っていることだ、二人は働きながら話していた。
「本当に」
「暇だとな」
「お店続けられないわよ」
「ああ、それで俺達も飯が食えない」
「そうなるからね」
「だから繁盛していて忙しくてな」
　それでというのだ。
「何よりだよ」
「そうね、ただうちのお店ってね」
　映見はここでこう言った、それも小声で。
「そんなに繁盛する様なお店かしら」
「親父の頃も祖父さんの頃も普通だったんだよ」
「普通にやってたわよね」
「ああ、味には自信があるさ」
　出す料理にだ。
「酒はいいのを揃えてるしな」
「値段も手頃でね」
「それで場所もいいさ」
「駅の近くで国道沿いで」
「本当にな、ただそれでもお前が店に来てからだよ」　　
　最初は高校を卒業して店員として来て彼と結婚してだ。
「それからこうだよ」
「そうなのね」
「お前がいるからって言ってな」
「私昔から自然と周りに人が集まるのよ」
「子供の頃からだな」
「不思議とね、どうしてかしら」
　映見は首を傾げさせて述べた。
「何かあるのかしら」
「お前の性格がよくて美人だからだろ」
「ものごころついてから？」
「その頃からか」
「それはおかしいでしょ」
「それもそうだな、けれどお前が人気で店に人が来るならな」
　正寅は笑顔で話した、店の主として。
「願ったりだよ」
「人が来てくれるならね」
「ああ、お客さんが来てこその客商売だからな」
　妻の周りにどうして人が集まるのか不思議だったが店は繁盛してしかも彼女は浮気をしないししかもこれまた不思議と言い寄る男もいないのでよしとした。だが。
　ある日のことだ、正寅はまだ店が開いていない時に妻に店でもある自宅の中でこっそりとこんなことを言われた。
「私の左股一杯黒子あるでしょ」
「そうだな」
「それで幾つあるかこの前数えたら」
　そうしたらというのだ。
「お風呂に入った時にね」
「幾つあったんだ？」
「七十二あったのよ」
　それだけあったというのだ。
「これがね」
「七十二もあったのか、そういえば」
「そう、七十二ってね」
「あれだろ」　
　まさにとだ、夫は妻に言った。今はズボンに覆われている彼女の左足のその股の部分を見ながらである。