もう一つの"木ノ葉崩し"
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第十六話―復活の千手柱間
薄暗く,ただ無限に広がるだけの空間を彼はフラフラと彷徨っていた。
一体どれくらいの距離を歩いただろうか……それでもなお,出口はおろか一点の光さえも一向に見えてこない。
「ここはどこぞ……。暗い……体も思うように動かせぬ……。」
ザッ……
「……?」
誰もいないかに思われたその時,背後から自らの名を呼ぶ声が聞こえた。
「よう,柱間!」
「誰ぞ!?」
振り向くとそこには,額にバンダナを巻いた茶髪の男が腕組みをして立っていた。
その男を見た柱間は,なぜか妙に親近感を覚えた。
どこかで会ったことがある……そう直感した柱間であったが,はっきりとは思い出せない。
「俺か?俺は,そうだな……お前だ。」
「……?」
柱間の問いに対し,その男は奇妙な返答をする。
不思議そうな顔をする柱間を見て,男はまた奇妙な言い回しで訂正した。
「いや,お前が俺だと言った方が正しいか……名前はアシュラ,まあ俺のことはどうだって良い。」
「お主は……!マダラの中にいた……,」
その時,柱間はずっと抱いていた親近感の正体に気づく。
宿敵・うちはマダラとの何十回にも及ぶ死闘の中で,柱間はお互いが他の忍と一線を画する特別な存在であることに薄々勘付いていた。
それは,自分とマダラがそれぞれ有する特殊なチャクラ,そしてそのチャクラの起源となる存在――いま目の前にいるこの男――に由来するものである。
「ああ,あっちは俺の兄貴だ。やっぱうっすらとは気付いていたか。自分の中にいる方が気付きにくかったみたいだが……。それよりな,柱間お前……」
アシュラは柱間を真っすぐに見つめる。
「……何を迷ってる?」
「……!……迷って……おるだと?」
柱間は,アシュラの突然の言葉に驚く。
それは,予想外ではあったものの決して的外れではなく,むしろ核心を突く指摘でもあった。
「お前は何故そこでそうしてずっと動けずにいる?怪我か?疲労か?違うだろう。"迷い"だ。」
「……。」
「里を守るためとはいえ,夢を語り合った親友を殺して本当に良かったのか?いくら危険な存在だからとはいえ,人間の都合を勝手に押し付けて九尾を封印した行為は正しかったのか?お前の心にはまだ,自分の行動に対する迷いがある。違うか?」
柱間自身,心の奥底では分かっていつつも懸命に振り払い,考えないように努めていたことをまざまざと見せつけられたようであった。
そんな柱間の様子を見て取ったアシュラは,視線を逸らすことなく続けた。
「お前がマダラを殺したのは何のためだ?九尾を封印したのは何のためだ?……未来のためだろ?」
その言葉に,柱間はハッとする。
いつしか忘れていた自分の信念,そして自分の夢……それを今,はっきりと思い出した。
アシュラは更に柱間に語りかける。
「里で生まれ,育ち,そして未来を背負って立つ,子孫や若者たちのためだろ?……俺だって同じさ。何度も迷った。血の繋がった実の兄貴と何度も殺し合いに近い戦いをして,結果的には半ば兄貴を蹴落とす形で忍宗を継いだ。兄貴は俺よりずっと優秀だったしな……俺が兄貴を差し置いて忍宗の後継者になって本当に良いのかって悩みもあった。でも……」
アシュラは,今や何の迷いもない様子で話を続ける。
「……今こうしてお前を,お前たちを見て,俺の心には一切の後悔も無い。俺が継いだ忍宗がこうしてたくさんの弟子や子孫たちに受け継がれ,今まで立派に育ってくれたことを,俺は心から誇りに思う。お前もいつか,立派に成長した若き後輩たちを見て『自分の判断は間違っていなかった』と思える日がきっと来る。だから今は……」
柱間を見据えるアシュラの表情は穏やかだ。
「……迷うな。己の決めた道を信じて突き進め。」
「……!!」
その時……
グイッ
誰かが柱間の手を引っ張った。
「……?」
つい先ほどまで薄暗かったはず空間が,いつの間にか随分と明るくなっている。
手を引っ張る方向に柱間が目を向けると,ずっと探し続けていた一点の光がそこにはあった。
「おじーさま?」
「ツナ!?お主なぜここに……」
不思議そうな表情で柱間を見上げるのは,愛しい孫娘だ。
「何してるの?」
柱間の"迎え"が来たのを見て,アシュラは笑顔で語りかける。
「見ろ,すぐそこにあるじゃないか……お前が守るべき未来が。」
「いこう?おじーさま。」
綱手はしきりに柱間の手を引っ張り,戻ってくるように催促する。
「ツナ……。」
「さあ,もう長話もしまいだ。みんな待ちくたびれているみたいだぞ……早く行ってこい。」
自分の役割はここまでだとばかりに,アシュラは柱間に最後の言葉をかけて送り出す。
柱間は一度アシュラの方へ視線を向けてから,この先の里を担っていく,今は幼き未来を再び見る。そして,しばし目を閉じて沈黙した後,意を決したように口を開いた。
「アシュラどの……かたじけない。」
――
パチ……
「おじーさま。」「あなた!」「火影様!」「火影様!」
ゆっくりと目を開けると,周囲から自分を呼ぶ声が次々に聞こえてくる。
「ツナ……ミト……皆……ワシは一体……」
目覚めたばかりで未だに視界がぼやけている中,自らを取り囲む人々を柱間は何とか認識する。
「ずっと眠っておられたのです。マダラとの戦いで傷付き……。」
「マダラ……そうか……そうであった。すまぬ,皆……心配をかけたようだな……。」
長い眠りにつく前のこと,そして眠っている間に見た夢……柱間はそれらを徐々に思い出す。
「おじーさま。」
周りの人々の中でとりわけ小さい孫娘に気づいた柱間は,ベッドの上からゆっくりと手を伸ばしその頭の上にポンと乗せる。
「ツナ……お主が,ワシの目を覚まさせてくれたのだろう?かたじけない。」
「あなた……。」
「ミト……お主にも,心配をかけてすまなかった。」
「あなた,あなたは何も間違ってはおりません。」
ミトは,自らの夫に対して優しく話す。
その,あたかも全てを見通しているかのような言葉に,柱間も思わずふっと笑みがこぼれる。
「かたじけない……ワシも今しがた……そう思うことに決めた。」
少しずつ目が覚めてきた柱間は,ふと周囲の状況に気が付いた。
「……ん?何やら里の様子がおかしいように感じるが……?」
(……!!)「い,いえ何もございません。どうか今は安静になさってください。」
周囲の忍たちはハッとして,その驚異的な感知能力に舌を巻きつつ何とか誤魔化そうと努める。
しかし,病み上がりとはいえ忍の神を相手に,そう簡単に嘘は通じない。
「嘘を申せ。あちこちでチャクラが乱れておる……それだけではない。里外の者が大勢おるようだ。妙なチャクラも感じる。いったい何が起きておるのだ,申せ。」
先ほどまでずっと眠っていた柱間が,早くも上体を起こす。周りの忍たちは慌ててそれを制止しようと柱間に掌を向けた。
「いえ,その……」
「申せ!」
「う……。」
返答に困り,柱間の鋭い口調に気圧された忍は助けを求めるようにミトの方へ目を向ける。
ミトは小さくため息をついた後,諦めたような表情で静かに頷いた。
それを見た忍は,仕方なく話し始める。
「実は,他里の忍から襲撃を受けておりまして……」
「何だと!こうしてはおれん!」
話を聞き終わらないうちに立ち上がろうとする柱間を,周囲の忍たちはまたしても慌てて止めにかかる。
「お待ちください!いけません,火影様。まだ目を覚まされたばかりです。安静になさらねば……。」
「そういう訳にはいかぬ。ワシはもう決めたのじゃ。里に仇なす者は何びとたりとも許さぬ。止めるでない。」
柱間は少し落ち着きを取り戻した様子で静かに話す。周囲の心配をよそにベッドから降り,柱間は力強く立ち上がった。
「ほ,火影様……。」
「あなた。」
部屋の扉へ向かう柱間に対し,ミトが呼びかける。
「止めるな,ミト。行かねばならぬのだ。」
「ええ,分かっております,あなたの性格くらい……。止めません。どうかお気をつけて。」
ミトはまたしても全てを見通しているような言葉で柱間を送り出す。
自らの夫が戦場で身を危険に晒すことを,彼女は忍の妻として,そして自身も一人の忍として,とっくの昔に覚悟している。
「案ずるな。」
建物の出口へ向かう柱間の後を追うように周囲の忍たちが付き従う。
「火影様,どうか無理はなさらず……。それに,火影様が本気をお出しになると,里が……。」
「分かっておる。ワシとて本調子というわけではない。大技は使わぬ。」
そう言いつつ,いよいよ病院の外へ出た柱間は素早く印を結んで唱える。
バッバッバッバッ!
「木遁!木人の術!!木龍の術!!」
ゴゴゴゴゴ!!!
すると,凄まじい轟音とともに木製の巨人と木製の龍が召喚される。
「なっ……!」(火影様にとっての大技のラインはどこにあるんだ……!?)
「参る!」
後書き
神,帰還。
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