イベリス
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十七話 完成させることの大切さその五
「小山さんも読んでみてね、ただ政治での嘘でも吐いたらいけない嘘はあるわよ」
「それはあるんですか」
「そう、国益の為の嘘はいいけれど」
政治は国益を求めて手に入れるものだ、だからその中での嘘はいいというのだ。これもまた政治である。
「けれど自分の為にはね」
「嘘を吐いたら駄目ですか」
「辞めると言って辞めないでずっと居座るのはね」
「ああ、昔の総理大臣でいましたね」
咲もそれが誰かすぐにわかった。
「あの人ですね」
「ああした嘘はね」
「駄目なんですね」
「最低だから」
自分の為に吐く嘘はというのだ。
「幾ら政治家でもね」
「嘘を吐くことが必要なお仕事でも」
「辞めると言って辞めないでね」
「ずっといることは」
「最低よ、だからもうかなりの人から愛想尽かされたかもね」
当時の国会を観ると閣僚は殆ど誰も彼と共に出ていない、一人出ていても決して顔を向けようとしていない。
「本当に」
「吐いていけない嘘を吐いたから」
「そう、あの人色々やらかしてたし」
「それで余計にですね」
「ああした嘘は醜悪よ」
そうしたものだというのだ。
「本当にね、だからね」
「私も気をつけることですね」
「そう、自分に誓ったことはね」
「破らないことですね」
「誇りがあったら」
それならというのだ。
「自分に誓ってね」
「わかりました」
咲も頷いた。
「そうします」
「じゃあ今から誓う?」
「そうします」
咲は副部長だけでなく自分自身にもだった。
今誓った、そのうえで副部長に話した。
「何か描かせてもらいます」
「そういうことでね」
「やらせてもらいます」
「それじゃあね」
「はい、ただ何を描くかは」
肝心のそれはというのだ。
「考えていいですか?」
「いいわよ、何を描くか考えることもね」
このこともというのだ。
「大事なのよ」
「そうなんですね」
「だって何を描くか決めないと」
そうしないと、というのだ。
「何も描けないでしょ」
「そうですね」
言われてみればとだ、咲も頷いた。
「確かに」
「そう、だからね」
「考えることですね」
「何を描くかね、そしてね」
「決めるんですね」
「そうしてね」
「そうします」
実際にとだ、咲も答えた。
「何を描くか」
「そうしてね。そして描きはじめて」
「終わらせることですね」
「うちの部は終わらせることを第一に考えているから」
「まずはですか」
「名作駄作以前よ」
それこそというのだ。
「未完の作品はね」
「出来以前ですか」
「そう、明暗だってそうでしょ」
「夏目漱石の作品ですね」
「あの人の最後の作品で」
それでというのだ。
ページ上へ戻る