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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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課題

 
前書き
空からお金降ってこないかなぁ 

 
作聖学院との試合も勝利を収めた明宝学園。そこから一夜明け、彼女たちが臨んでいる強豪校との練習試合二日目も終盤に差し掛かっていた。

「そりゃ!!」

小さな身体をダイナミックに使い威力のあるボールを投じる赤髪の少女。そのボールを受けた水髪の少女のミットからけたたましい音が鳴り響く。

「ストライク!!バッターアウト!!」

ほぼ真ん中に投じられたボールだったにも関わらず、打者はその下を振り三振に倒れていた。

「ナイスボールです!!優愛ちゃん先輩!!」
「莉愛もナイスキャッチ!!」

小柄な二人はお互いを称え合いながら笑顔を浮かべていた。

「今日は当たりの日みたいだね、葉月も優愛も」
「いやぁ、それほどでも」

栞里の言葉に照れたような反応を見せる葉月。この試合は先発として葉月が三回を投げ、そこから優愛が投げている優愛も二イニング目に入っている。

「二人は球速いからね。ストライクさえ入ればそう簡単には打てないよ」
「そのストライクが取れないのが難点なんだけどね」

躍動感溢れる投球を続ける優愛を見ながら明里と伊織がそう言う。そんな彼女たちの視線は、試合から別の場所へと移された。

バシィッ

小気味いい音を立ててミットへと突き刺さる白球。それを投じた黒髪の少女は、桃髪の少女からボールを受け取ると帽子を取り汗を拭う。

「最後は陽香さんか」
「いざという時のリリーフの練習らしいよ」
「完投した次の日のリリーフってことね」

公式戦でも二日続けて登板は高校野球では日常茶飯事。その事を想定しての登板ということで、最終試合の最後のイニングを任せることにしたようだ。

キンッ

主力メンバーがベンチで話していると金属音が鳴り響く。そちらに視線を向けると、強い打球がサードを守る瑞姫を襲う。強襲ヒットになりかねない当たりだったが、彼女はそれを難なくキャッチ。一塁への送球も安定しておりサードゴロにしていた。

「瑞姫ちゃんうまいねぇ」
「おかげで一人気合い入りまくりの人がいるよ」

次の打者もしつこくバットに当て、打球は三遊間へと転がる。打球が速かったために瑞姫はこれに届かなかったが、ショートを守っていた曜子が横っ飛びでこれを止める。そのまま飛び起きるように立ち上がり一塁へ送球して見事アウトにしていた。

「春にレギュラーにようやくなったのに、一年生にスタメンをあげるわけにはいかないよね」
「それで言えば美穂も気合い入りまくりだよね」

二人とも三年生で最後の夏になる。そこでスタメンになるためにアピールできる場面は積極的になっているのだ。

「澪も恵もやる気満々だし、一、二年生も試合に出たいだろうからね。私たちもウカウカしてられないなぁ」

そうは言いつつも焦りなどは感じられない栞里の口調。他の面々もベンチに戻ってきた選手たちを迎え入れながら楽しそうな笑みを浮かべている。それを見て真田はどこか不機嫌そうな顔をしていた。

(確かに力に差があるのはわかるが……さすがに緊張感が無さすぎだろ……曜子たちがなんとかもう少し伸びてくれれば……)

主力選手たちを脅かすだけの選手がまだいない。期待できる選手たちはいるがどこまで伸びるかは未知数。そんな中で彼は多くの期待を込めて連戦の最終メンバーを決めていた。

(エースである陽香には最後にマウンドにいてもらわなきゃいけない。打撃の中心に入ってきてほしい澪も恵も重要。守備力なら曜子と美穂にセンターラインにきてほしい。だが、何よりも期待なのはこの三人だな)

防具を外し打撃の準備を行っている莉愛。そのあとに控えている瑞姫と紗枝は相手投手の方を見ながらお互いの意見交換を行っている。

(紗枝の守備力は今すぐにでも通用する。瑞姫は投手能力も高いが野手でも十分使える。そして莉愛は伸び代が十分だからな。あとは陽香と組んで結果を残せれば夏のメンバーに入れれる)

この数日で頭角を現した一年生たち。そんな彼女たちは思い切りもあり結果も残していた。それは監督から見ても選手たちから見ても驚きを隠せないものだった。

(この疲労度が高くなる連戦の終盤。ここで結果を出してくれれば最高なんだがな)

上級生でも下級生でもスタミナ的に苦しくなってくる試合終盤。それもダブルヘッダーとなればよりそれが顕著になってくる。さらに彼女たちは一年生のため、ここでどれだけの力を出せるかが連戦になる夏の大会での戦力として戦えるかの見極めになる。

ガキッ

「あ……」

そんなことを考えていると、先頭打者の莉愛がストレートを打ち上げキャッチャーフライ。期待した途端にそれを裏切るような打球に思わず顔をしかめた。
















「ボールバック!!」

期待の一年生トリオがまるで打ち合わせでもしたかのように凡退した直後の守備。マウンドにはチームのキャプテンでありエースである陽香。彼女は最後の投球練習を投げ終えると、莉愛が二塁へと送球し内野がボール回しを始める。

「さすがに身体が重そうだな」
「三連投になればそりゃあねぇ」

紅白戦から数えると三日連続での登板。おまけに前日は完投しているとあり心なしか身体にキレがない。

(二イニングだけとはいえ、これは配球に苦労するかもな)

同じキャッチャーである少女に同情しながらも、自分ならどうするかを考える莉子。他の面々も不安そうな顔をしている中試合が再開される。

(陽香さん調子悪そう……まずはストライクがほしいかな?)

受けている莉愛も本調子じゃない彼女を見て眉間にシワを寄せる。まずは無難にストレートのサインを送り、彼女も頷く。しかし、投じられたボールは彼女たちの不安を打ち砕くものだった。

「ストライク!!」

疲労もピークであるはずなのに普段の状態と変わらないボールを投じる陽香。それには心配そうに見ていた少女たちも顔をひきつらせていた。

「この局面でこれだけ投げれるか……」
「すごい気合いだね」

続く二球目も力のあるストレートを投げ込み簡単に追い込む。続く三球目、莉愛は彼女の決め球でたるスライダーのサインを送る。

(外に逃げるスライダーでいきましょう)

見せ球を使うのもありだがここは彼女の力を信じての三球勝負。右打者から外に逃げていくスライダー。ボールを要求したつもりだったが、力が入ったのかわずかに内に入る。

(でもいいコース!!)

高さもコースもギリギリの絶妙のコース。これには打者も手が出なかったのか見送る。

「ボール」
「!!」

見逃しの三振に取ったと思ったところで予想外の判定。莉愛は驚いた反応をしていたが、何事もなかったかのように陽香にボールを返す。

(コースかな?次こそは振らせて三振を取りたい)

あまりにもいいボール過ぎて審判も迷ったのかと思いながら続けてスライダーのサインを送る莉愛。今度はうまくバットを振らせて空振り三振。

「ナイスボールです!!」

予定通りの結果に満足そうな表情の莉愛。しかし、なぜか三振に取った陽香とベンチからこれを見ていた莉子と真田は不満げだった。

「あれ?莉子ちゃん何か怒ってる」
「いや……別に怒ってるわけではない」

ウソだぁ、と言いながら彼女の頬をつつく優愛。そんな彼女を莉子は睨み付けると、優愛も驚き隣にいた葉月の後ろに隠れる。

「ほら!!やっぱり怒ってる!!」
「今のは優愛に怒ったんだよ~」

同級生からの当たり前すぎる突っ込みに舌を出す優愛。その隣にいた明里はタメ息をついていたが、三年生たちは大笑いしていた。

「それで?なんでそんな機嫌悪いの?」
「見てればわかるよ」

彼女の視線の先……キャッチャーをしている少女の方を全員で直視する。何球か見ていると少女たちは違和感を感じ始めた。

「何か変だけど……」
「それがなんだかわからないんだけど……」

違和感こそ感じるがその理由がわからない栞里と伊織。優愛と葉月もその違和感の正体が何なのかわからず顔を見合わせていたが、明里はそれに気付いていた。

「キャッチングが流れてますね……でも毎回じゃないような……」

キャッチャーは際どいコースをストライクを取ってもらえるようにフレーミングという技術を習得する。莉愛もある程度それができていたはずなのに、なぜかこの局面ではそれが崩れているのだ。

「スライダーの時にミットが流れてるな」
「なんでスライダー?」
「陽香のスライダーのキレに目がついていってないんだろう」

キレのある変化球は曲がり始めが遅いと言われている。それによって打者はストレートと区別がつかず、振っても芯で捉えることができずに凡退しやすくなるというメリットがあるのだが、今回はそのキレのよさに仲間である莉愛が対応できておらず、際どいコースを取ってもらえなくなっている。

「確かにスライダーの時だけミットが先に出てる」
「陽香さんも気になってるみたいだね」

ピッチャーは投げたボールの勢いを捕球音で判断することが多い。ミットが流れているこの状態では音も出ないため、陽香は不満そうにしているのだ。

「よかったね、莉子ちゃん」

同じポジションなだけに苛立ちを感じている彼女に対し、突然優愛がそんなことを言う。その表情はとてもふざけているようには見えず、ベンチにいる少女たちは彼女がなぜそんなことを言ったのかその答えを待っていた。

「何がだ?」
「これで莉愛ちゃんいっぱいしごけるよ!!」
「プッ」

満面の笑みでそんなことを言う少女に吹き出さざるを得ない面々。中でも二年生組は笑いを堪えることができず顔を俯けていた。

「お前も一緒にしごいてやるからな」
「えぇ!?なんでぇ!?」

課題が見えた後輩にはもちろん、調子に乗っている彼女にもお灸を据えてやろうと悪者のような笑みを浮かべる莉子。その顔から本気であることを感じ取った優愛は青ざめ、葉月と明里は巻き込まれないようにと顔を逸らすのだった。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
これにてゴールデンウィークの試合期間は終了です。
次は合宿でもやって夏の大会に即効入れればなと思ってます。 
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