福岡からのメール
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一章
福岡からのメール
いきなりだった、札幌で主婦をしている大林久美子のところにメールが来た、そのメールの主はというと。
「沙織からよ」
「ええと、大学時代の同級生の?」
丁度仕事が終わって家に帰っている夫の裕一郎が応えた、二人共黒髪で久美子はボーイッシュなショートにしていて裕一郎はスポーツ刈りに近い感じだ。久美子は顔立ちもボーイッシュで一六四位のすらりとしたスタイルでズボンが似合っている、夫は穏やかで優しい顔立ちで一七四位の背で痩せていて今は普段着だ。
「和田さん?」
「今は結婚して榎田さんになってるわ」
「そうだったんだ」
「福岡にいるそうよ、ご主人のお仕事の関係でね」
「それは俺達と同じだな」
「神戸の大学にいたのにね」
これは夫もだ、三人共神戸の八条大学に通っていた。久美子はそこで夫と巡り合って結婚して夫が神戸から札幌に転勤になって今はこの街にいるのだ。
「皆バラバラになったわね」
「そうだよな、俺も札幌で働くなんてな」
夫は妻に笑って話した。
「思わなかったよ」
「私もよ、しかし何でまた急にメールを送ってきたのかしら」
久美子は沙織のこのことを思った。
「あの娘も結婚して神戸から出て会わなくなってね」
「連絡もだね」
「ずっとなかったのに」
それがというのだ。
「何でまた」
「とりあえずメールの中身読んでみたら?」
「そうね、まずはそれからね」
妻は夫の言葉に頷いた、そうしてだった。
メールの文章を確認した、そのうえで唖然となって言った。
「沙織怒ってるわ」
「何でまた」
「いや、街で会って挨拶したのに何で無視したのって」
「街!?」
「福岡のね」
「それ何時の話?」
「今日らしいわ」
夫に自分のスマートフォンのメールを読みつつ話した。
「今日のお昼ね、私仕事してたわよ」
「そうだよね」
「私も働いてるし」
スーパーでパートをしているのだ。
「そうしてるのに」
「福岡に行ける筈ないよ」
夫もこう言った。
「幾ら何でも」
「それ沙織に言うわね」
久美子は首を傾げさせながら夫に答えた。
「そうするわね」
「うん、札幌にいるってだね」
「今もね、絶対に私じゃないって」
こう言ってだった。
久美子は沙織に返信を送った、今札幌にいて福岡にいる筈がないそれは絶対に他人だと。そうしたが。
すると今度は直接電話が来た、沙織は久美子に眉を曇らせて言ってきた。
「あんたじゃないの?」
「だから私今札幌よ」
久美子は電話の向こうの沙織にこう返した。
ページ上へ戻る