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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  圏内事件~二人目の犠牲者~

とりあえずシュミットを手近な道具屋で待たせ、キリトとアスナは出された条件について手短に話し合った。

ちなみにレンは後ろでいつもの煙管を吸って、会話に加わる気はさらさら無いらしい。

「危険は……ないわよね?あるのかしら?」

「う、うーん……」

アスナに問われ、キリトが唸る。

仮にシュミットが──あるいはほとんど有り得ないだろうがヨルコが昨日の圏内事件の犯人だったとすると、どちらの場合も一方がもう一方を次の標的にしている可能性は高い。

引き合わせたその場で謎の《圏内PK技》が炸裂し、新たな死者が出てしまうという展開だって絶対にないとは言えない。

「………俺達が眼を離さなければ、PKのチャンスはないはずだ。──でも、それが目的じゃないとすると、そもそもシュミットの奴は何で今更、ヨルコさんに会わせろなんて言い出すんだろ?」

キリトが両手を軽く広げると、アスナも大きく首を傾げる。

「さあ……実は片想いしてた、とかじゃ………ないわよね、うん」

「えっ、マジで?」

キリトは、不思議な青緑色の煙をくもらせているレン越しにシュミットを見ようとしたが、アスナにコートの襟を引っ張られ、カエルが潰れたような声を出す。

「違うって言ってるでしょ!………ともかく、危険がないなら後はヨルコさん次第だわ。メッセージ飛ばして確認してみる」

「は、はい、お願いします……ェホッ」

アスナはウインドウを開くや、猛烈な速度でホロキーボードをタイプした。

この《フレンド・メッセージ》は離れている相手と即座に連絡がとれる便利な機能だが、たとえ相手の名前が判っていても、フレンド登録しているか同じギルドのメンバーか、あるいは結婚していないと利用できない。よってグリムロック氏への連絡はできない。

一応、名前を知っているだけで送れる《インスタント・メッセージ》というものもあるが、同じ層にいなくては届かないし、相手に届いたかどうかを確認することもできない。

ヨルコからはすぐに返信があったらしく、アスナは開いたままのウインドウを一瞥するや頷いた。

「OKだって。じゃあ……ちょっと不安だけど、案内しましょう。場所はヨルコさんが泊まってる宿屋でいいわよね」

「うん。彼女を外に出すのはまだ危険だからな………レンはそれでいいか?」

「おまかせ~♪」

レンののほほんとした返事を聞き、キリトは背後の道具屋で待っているシュミットに向き直った。

OKマークを作ると、重武装の大男は、あからさまにほっとした顔になった。










四人で五十九層から五十七層主街区【マーテン】へと転移し、青いポータルから出た時には、街はすでに夕景に包まれていた。

数分で目指す宿屋に到着し、二階へと上がる。

長い廊下の一番奥が、ヨルコが滞在──あるいは保護されている部屋だ。

キリトがドアをノックし、名乗る。

すぐに細い声でいらえがあり、キリトがノブを回す。《フレンドのみ開錠可》設定のドアロックが、かちんと軽い音を立てて解除される。

キリトが先に入る。レンは扉の脇から部屋の中を覗き込む。

引き開けたドアの正面、部屋の中央に向かい合わせに置かれたソファの片方に、ヨルコが腰掛けていた。

す、と立ち上がり、暗青色の髪を揺らして軽く一礼する。

キリトは扉の近くに立ったまま、ヨルコの張り詰めた表情、そして背後のシュミットの同じく強張った顔を順番に見て、言った。

「ええと……まず、安全のために確認しておくけど、二人とも武器は装備しないこと。そしてウインドウを開かないことを守ってほしい。不快だろうけど、よろしく頼む」

「………はい」

「解っている」

ヨルコの消え入りそうな声、シュミットの苛立ちの滲む声を聞き、キリトが横に身体をずらし、レンとアスナ、そしてシュミットを導き入れた。

随分と久しぶりに対面するはずの、元【黄金林檎】メンバー同士の二人は、しばし無言のまま視線を見交わしていた。

先に口を開いたのはヨルコだった。

「………久しぶり、シュミット」

そして薄く微笑む。対するシュミットは、一度ぎゅっと唇を噛み、掠れ声で答えた。

「ああ。もう二度と会わないだろうと思ってたけどな。座っていいか」

ヨルコが頷くと、アーマーをがしゃがしゃ鳴らしながらソファに歩み寄り、向かい側に腰を下ろした。

キリトはしっかりとドアを閉めてロックされたことを確認し、向き合って座るヨルコとシュミットの東側に立った。その反対側にはアスナが、ロックされたドアにはレンがもたれ掛かるようにして立つ。

数日間の缶詰を強いられるヨルコのために一番高い部屋を借りたので、五人が入っても、まだ周囲は広々としていた。ドアは北の壁にあり、西には寝室に続くもう一つのドア、東と南は大きな窓になっている。

南の窓は開け放たれ、春の残照を含んだ風がそよそよと吹き込んでカーテンを揺らしていた。もちろん窓もシステム的に保護されており、たとえ開いていても誰かが侵入してくることは絶対に無い。

「シュミット、今は聖竜連合にいるんだってね。すごいね、攻略組の中でもトップギルドだよね」

六王には負けるけどさ、と言った。

シュミットは眉間の辺りにいっそうの険しさを漂わせ、低く答えた。

「どういう意味だ。不自然だ、とでも言いたいのか」

刺々しいにもほどがある返事にも、ヨルコは動じなかった。

「まさか。ギルドが解散した後、凄く頑張ったんだろうなって思っただけよ。私やカインズはレベルアップに挫けて上に行くのを諦めちゃったのに、凄いよね」

肩にかかる濃紺の髪をそっと払い、再び微笑む。

フルプレ装備のシュミットとは比較にならないが、今夜はヨルコも相当に着込んでいた。厚手のワンピースに革の胴衣を重ね、更に紫色のベルベットのチュニックを羽織って、肩にはショールまで掛けている。金属防具はなくとも、これだけ着込めばかなりの防御力が加算されているはずだ。

表面上は平静でも、やはり彼女も不安なのだろうか。

こちらは緊張を隠そうともしないシュミットが、がちゃっと鎧を鳴らして身を乗り出した。

「オレのことはどうでもいい!それより……、訊きたいのはカインズのことだ」

トーンを押し殺したものに変え、続ける。

「何で今更カインズが殺されるんだ!?あいつが……指輪を奪ったのか?GAのリーダーを殺したのはあいつだったのか!?」

GA、というのがGOLDEN APPLE、つまりギルド【黄金林檎】の略称であることはすぐに解った。

低い叫びを聞いたヨルコの表情が、初めて変わった。微笑を消し、正面からシュミットを睨み付ける。

「そんなわけない。私もカインズも、リーダーのことは本心から尊敬してたわ。指輪の売却に反対したのは、お金に変えてみんなで無駄遣いしちゃうよりも、ギルドの戦力として有効利用すべきだと思ったからよ。ほんとはリーダーだってそうしたかったはずだわ」

「それは……、オレだってそうだったさ。忘れるな、オレも売却には反対したんだ。だいたい……指輪を奪う動機があるのは、反対派だけじゃない。売却派の、つまりコルが欲しかった奴らの中にこそ、売り上げを独占したいと思った奴がいたかもしれないじゃないか!」

がつっ、とガントレットを嵌めた右手で膝を叩き、頭を抱え込む。

「なのに……、グリムロックはどうして今更カインズを………。売却に反対した三人を全員殺す気なのか?オレやお前も狙われてるのか!?」

怯えるシュミットに対して、再び平静さを取り戻したヨルコが、ぽつりと言葉を投げかけた。

「まだ、グリムロックがカインズを殺したと決まったわけじゃないわ。彼に槍を作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたら………」

虚ろな視線を、ソファの前に置かれた低いテーブルに落とし、呟く。

「リーダー自身の復讐なのかもしれないじゃない?圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーにできるわけないんだし」

「な……………」

ぱくぱくと口を動かし、シュミットは喘ぐ。そして微笑むヨルコを呆然と見やり、言った。

「だって、お前さっき、カインズが指輪を奪ったわけがないって………」

すぐには答えず、ヨルコは音もなく立ち上がると、一歩右に動いた。

両手を腰の後ろで握ると、こちらに顔を見せたまま、南の窓に向かってゆっくり後ろ歩きしていく。

「私、ゆうべ、寝ないで考えた。結局のところ、リーダーを殺したのは、ギルメンの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。あの指輪がドロップした時、投票なんかしないで、リーダーの指示に任せておけばよかったんだわ。ううん、いっそ、リーダーに装備してもらえばよかったのよ。剣士として一番の実力があったのはリーダーだし、指輪の能力を一番活かせたのも彼女だわ。なのに、私達はみんな自分の欲を捨てられずに、誰もそれを言い出さなかった。いつかGAを攻略組に、なんて言いながら、ほんとはギルドじゃなくて自分を強くしたいだけだったのよ」

長い言葉が途切れると同時に、ヨルコの腰が南の窓枠に当たった。

「ただ一人、グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ。あの人だけが自分の欲を捨てて、ギルド全体のことを考えた。だからあの人には、たぶん私欲を捨てられなかった私達全員に復讐して、リーダーの敵を討つ権利があるんだわ………」

しん、と落ちた沈黙の中、冷たい夕暮れの風がかすかに部屋の空気を揺らした。

やがて、かちゃかちゃかちゃ、と小さな金属音が鳴り響いた。

音源は、細かく震えるシュミットのフルプレート・アーマーだった。歴戦のトッププレイヤーは、蒼白になった顔を俯け、うわごとのように呟いた。

「…………冗談じゃない。冗談じゃないぞ。今更……半年も経ってから、何を今更……」

がばっ、と上体を持ち上げ、突然叫ぶ。

「お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生き抜いてきたのに、こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」

シュミットとキリト、アスナ、そしてレンの視線が窓際のヨルコへと集まった。

どこか儚げな雰囲気を纏う女性プレイヤーは、視線を宙にさまよわせながら、しばらく言葉を探すようだった。

やがてその唇が動き、何かを言おうとした───

その瞬間。

とん、という乾いた音が部屋に響いた。

同時に、ヨルコの眼と口が、ぽかんと見開かれる。

続いて、細い体が大きく揺れた。がく、という感じで一歩踏み出し、よろめくように振り返ると、開け放たれたままの窓枠に手をつく。

その時、一際強く風が吹き、ヨルコの背中に流れる髪をなびかせた。

ヨルコ以外の全員は固まって、動くこともできなかった。

その元凶は、ヨルコの着ている紫色の光沢のあるチュニック、その中央から突き出している黒い棒のようなもの。

それはあまりにもちっぽけで、瞬間、いったい何なのか解らなかった。

だが、その棒を包み込むように明滅する赤い光を認識した途端、戦慄が部屋中に走った。

それは───

投げ短剣(スローイングダガー)の柄だった。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「おー」
なべさん「何故か知人の間に広まっちゃってます。この小説」
レン「おや何で?」
なべさん「いやー、口を滑らして小説書いてるーって言ったら、はやっちった」
レン「はやっちった、じゃねぇー。完全な自業自得」
なべさん「書いた文章を他人に読まれるって恥ずいよネ」
レン「まーねー」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued── 
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