剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ
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082話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その9
前書き
更新します。
イリヤ編を一話にまとめたので一万文字を越えてしまいました。
長いですので注意です。
ライダーを倒したその晩に、そのままセイバーさんは起きずに眠りについていた。
せっかく敵を倒して相手の数が減ったのにここでセイバーさんが起きないとあっては大変だよねー。
やっぱり魔力が今すっからかんだからかな?
それで士郎さんは遠坂さんにセイバーさんを診てもらった後に、何があったか聞かれたので正直に「ライダーをセイバーが宝具を使って倒した」と言った。
でも、さすがの遠坂さん。仮にもいつか敵になるのだからセイバーさんの宝具がなにかに関しては聞いてこなかった。
それでも、
『このままだとセイバーは消えるわよ?』
その一言でここまで心がざわつくとはね。
士郎さんもそれで慌てて遠坂さんに突っかかっていくが、遠坂さんは士郎さんに出来る事を二つ提示した。
その1、どうにかして士郎さんがセイバーさんに魔力を供給するか。
その2、サーヴァント自身に魔力を補充させるか。
この二択。
「補充って……まさか慎二さんがやっていた!?」
「そうね。サーヴァントに人を襲わせるのも一つの手よ、ネギ」
「で、でも……あのアーサー王にそんな事させられるわけ……」
ネギ君がとてもつらそうな顔になりながらも、そう言葉を零す。
まぁ、自国の英雄にそんな事をさせるくらいならネギ君だったらそのまま消滅させてしまうかもね、それがたとえ間違った選択であっても……。
そして遠坂さんは言う。
答えは一つ。
絶対にそんな事をしないだろうセイバーさんに、それでも人を襲わせたいのなら令呪を使って命令しなさい。人を殺して魔力を集めろと……。
そんな、ヒトを助ける事を第一に考えている士郎さんにそんな残酷な提案が出来るのも、これがやっぱり生粋の魔術師である遠坂さんだからこそなんかね?
なんか、わたしが想像してるより士郎さん達の世界の魔術師ってかなり倫理が狂ってるのかな?
「リンも残酷な事を言うけどそれは正解なのよ。結局は魔力がなく宝具が使えなければセイバーはただのデクの棒……この時のシロウにも戦闘力は劣らないでしょうけど動きはかなり制限されるでしょう」
「それでも、なにか別の方法があるんじゃないですか……?」
「あるにはあるけど……ちなみにネギ、それにエヴァにも一つ聞きたいんだけど」
「な、なんですか……?」
「む?」
それでネギ君とエヴァちゃんが反応を示す。
「この世界で魔力を補充する方法って仮契約カード以外になにかある……?」
「ふむ、そうだな……。私からすればやはり“血”だろうな。吸血鬼ゆえにな」
「そうね。それじゃここにいるのはまだ未成年ばかりだけど、こう……性的な方法ってやっぱり成立するのかしら?」
なんか、いきなりぶっとんだ話題が出てきた。
性的って……つまり、そのセッッッッッッ的な!?
わたし以外にもほとんどの女子は顔を赤くさせて、正反対にネギ君とコタ君ははてな顔をしていた。
やはり、ここが子供との理解の差かっ!!
「そうだな。手っ取り早く行くならやはりキスだろうな」
エヴァちゃーーーーんッ!?
真面目な顔で答えないでよ!なんかそれだとうちら恥ずかしいじゃん!ネギ君のキス魔ぁぁぁ!!
「そうね。それでもっと追及するとチョメチョメ的な行為だとさらに効果アップ?」
「…………まぁ、そうだな。私はもちろんそんな事はしたことはないが効果は抜群だろうな。まさか、貴様達の世界ではそれが普通なのか?」
「まぁ、普通でもないけど魔術的には大いに可能性の一つね。ここだけの話だけど、魔術はとにかくお金がかかるもので実験のし過ぎでたびたび金欠になる人が多くいるのよ。それで魔術協会に自身の精液=魔力の塊を売ってやり過ごす人も多くいたわ」
なんかアダルトチックな話になってきたね……。
それにしても、士郎さん達の世界の魔術師って結構身売りに関しては容赦しないんだね。少しゾッとするわ……。
「ふむ……。シビアだとは思っていたが、まさかそういう方面までとは中々に恐れ入るな」
「ホントにね」
それでエヴァちゃんとイリヤさんが同時にため息を吐く。
そこに士郎さんの声が聞こえてきた。
《姉さん、それにエヴァ。それくらいにしておかないか?なまじ中途半端にそういう知識がある多感な中学生であるアスナ達がもう顔が盛大に真っ赤だ》
「シロウも言うわね。この後にそういう……」
《姉さん!》
「はいはい。ごめんねシロウ」
なんか意味深な話ぃ!!?
まさか最終手段、行っちゃうんですか!?
「ゲヘヘ……セイバーの姉さん、もしかして……」
《カモミール。それ以上なにかほざくと後が怖いぞ?》
「ヘイ……」
今は士郎さんの鋭い眼光はないというのに、カモ君が委縮してしまった。
それで士郎さんは話を断つように過去の光景を再開した。
究極の選択を迫られている士郎さんは、ふと……見知らぬ光景を見ている。
というか、
「これって……過去の光景の中で士郎さんが意識がある夢を見ているんですか?」
「そうね。しかもただの夢ではなく、それは契約しているサーヴァントの過去の光景……」
過去の光景の夢の中ではまだ顔つきが幼い印象を受けるセイバーさんが、ライダーさんに使った剣とは違う、でも煌びやかな剣を前に手を伸ばす。
そこにいつからいたのか杖を構えた魔術師みたいな人が、
『その剣を岩から引き出したもの……すなわちブリテンの王たるべきもの。アルトリア……それを引き抜く前に今一度考えてみるといい。その剣を手にしたが最後、君は人ではなくなるんだよ?』
どこか妖艶染みた声だった。
フードを被って顔が見えないけど多分イケメン!
そしてもしかして、この人ってあのマーリン……?
『はい。私は望んでこの剣を抜きにまいりました』
セイバーさんは勢いよくその剣を引き抜いた。
抜かれた剣はまるで主人を見つけたと言わんばかりに黄金に輝く光を放っていた。
「選定の剣……カリバーン」
ネギ君の呟き通り、多分そうなんだろうな……。
そして場面は変わりたくさんの兵士がセイバーさんを褒め称えていた。
そんな、どこか王様然としている夢を見ていた士郎さんはふと目を覚まして、今の剣は……と呟く。
でも、まさか……。
「ねぇ、士郎さん。まさかこの時無意識に解析を掛けてたりしました?」
《…………なんのことかな?ただ、あの剣を見てから無性に体が熱くなったのは覚えているよ》
つまり、そういう事ね。
もう投影魔術として目覚め始めていたのかな……?
それから少しして、士郎さんは庭で弓の調整をしているアーチャーさんに話を掛けている。
話を聞くにもうアーチャーさんは傷が癒えていていつでも戦えるという。
つまり、いつ寝返るかもわからない遠坂さんが士郎さんを裏切る可能性もないわけではないという事。
そこで士郎さんは焦りを感じつつ、その場を離れようとして、
『気づいていないようだから教えてやろう。セイバーはあの時宝具を使えば自分が消えると分かっていたはずだ。おそらく最後まで宝具を使う気はなかったのだろう……にも関わらず、宝具を使った理由は一つ。セイバーは自分よりお前を護る事を優先したんだ。それを決して忘れるな……』
アーチャーさんの忠告に、士郎さんは苦虫を噛み潰すような顔をしながらその場を後にした。
「ここが正念場でござるな」
「そうアルネ。アーチャーさんからもああも言われて士郎老師がただ黙っているのはなんか悔しいアル」
「こ、こーいう時って物語じゃなにか逆転劇的な事が起こるものですよね……」
「それかさらに追い込まれるのもありえますですよ、のどか」
みんなもここからどうなるのか不安がよぎってるんだろうね。
わたしとしてはここでイリヤさんが無防備な士郎さんを拉致ると予想しているけど、どうかな……?
士郎さんはいつぞやの公園で一人悩んでいた。
言葉には出さないけど、仕草だけで葛藤しているのが分かる。
そこに、やはりというべきかイリヤさんがやってきていた。
士郎さんは今は話し相手にはなれないとイリヤさんを邪険に扱うけど、イリヤさんは分かっているらしく、
『セイバーが消えかかっているんでしょ?』
と、本命ど真ん中な事を言い当ててきた。
それで慎二さんの殺害を匂わす発言とともに、イリヤさんの瞳が光り出していて、
「まずいわよ!なんか嫌な予感がする!」
アスナが叫んだけど、これは過去。
もうどうしようもない。
案の定、士郎さんは身体が一切動かせなくなっていて、淡々とイリヤさんは今の士郎さんの状態を伝えながらも、
『おやすみなさい、お兄ちゃん……』
そこで士郎さんの意識は一旦なくなる。
それを見ていた一同は、
「イリヤさん、こわ……」
「ただの一睨みの魔術だけで金縛りと意識の混濁とは……」
「マスター、やるなぁ」
うんうん。やっぱイリヤさん怖いよね。
わかるわー。
そしてしばらくの後、士郎さんは目を覚ますとそこはどこかの寝室の中で、しかも士郎さんは椅子に手足を縛られて動けなくされていた。
なんとか抜け出そうとするが、抜け出せずに、そこにさらに最悪な事にイリヤさんが部屋の中に入ってきた。
士郎さんは殺すなら公園で殺せただろ?と問うが、イリヤさんは士郎さんを殺す気はないらしく、
『シロウ、私のサーヴァントにならない?そうすれば殺さずに済むわ』
サーヴァント……本来の意味は奴隷。つまりそういう事?
と、ここでわたしの頭にキュピーン!と来るものがあった!
おそらくこの感覚はバッドエンドの一つだろう。
おそらくここで士郎さんが素直にサーヴァントになる、とか言った瞬間に今度こそ士郎さんの身体の感覚はすべて途切れて、次に気づいた時には人形に魂を移されているんだわ!
イリヤさん、恐ろしい子……ッ!!
抵抗をする士郎さんだが、
『十年も待ったんだもん。簡単に殺しちゃうなんてつまらないでしょ?』
それって……やっぱり切嗣さんの事なのかな?
しかし、やっぱり士郎さんはイリヤさんの誘いを断った。
それでイリヤさんは『また裏切るんだ……』と言って、今からセイバーさん達を殺しに行くと言って出ていこうとするが、殺しはダメだとなんとか引き留めようとする士郎さんだけど、イリヤさんはもうマスターは殺しているんだと発言する。
『私、あいつはお兄ちゃんが片付けると思っていたのに……ごめんね。シロウがやらないから代わりに私がやっちゃった』
と無邪気に話している。
この時のイリヤさんってホントに無邪気と残酷が合わせあったような性格だったんだなぁ……。
士郎さんはどうにかしようと自身に魔力を流してイリヤさんの魔眼の効果を洗い流そうとする。
その手段はとても痛々しく士郎さんは喀血をしてまで抜け出そうとしていた。
「士郎の兄ちゃん、ここが踏ん張りどころやで!」
「頑張ってください!」
「いやな? 坊主共。これは過去だぞ?って言うだけ無駄か……」
ランサーさんももうネギ君とコタ君に関しては達観しているのか諦めている感じ。
もう二人はある種映画を見ているかのような感覚で応援しているのだろう。
まぁ、わたし達も下手すると同じ感覚になっちゃうんだろうけどね。
そして、窓から差す夕焼けの明かりももう暗くなっている中でようやく士郎さんは抜け出すことに成功して、扉をあけて飛び出そうとするが、誰かの足音を感じ警戒をしていると扉が開いてセイバーさんが飛び込んできた。
どうやら士郎さんの魔力を辿ってきたみたい。
遠坂さんとアーチャーさんも一緒にいた。
これで勝てるって訳でもないけど、なんとか勝機が見えてきたかな?
でも、やっぱりセイバーさんは戦えないほど消耗しているのか、途中で膝をついてしまう。
それでもなんとか正面入り口までやってきた一同はそれでなんとか抜け出そうとして、しかし、
『なんだ、もう帰っちゃうんだ』
イリヤさんが待ち構えていたのか全員が見えるように佇んでいた。
バーサーカーも現れて絶体絶命な感じになってきたけど、遠坂さんがアーチャーさんに足止めをしてと命令する。
それでアーチャーさんは前に出る。
士郎さん達はアーチャーさんの身を案じるが、今はこれが最適解だよね。
まともに戦えるのはこの中でアーチャーさんだけだから。
『ところで凛、一つ確認をしていいかな?時間を稼ぐのはいいが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう……?』
と、アーチャーさんは宣っていた。
それにわたしは素直に感心した。
この人が本当に士郎さんの未来の姿だとしたら、とてもカッコいい姿だと思う。
今現在の士郎さんも強いけど、このアーチャーさんは英霊になるほどになった士郎さんの果ての姿。
だから恐らく今の士郎さんよりも強いんだろうな。
『ええ。遠慮はいらないわ!』
『では、期待に応えるとしよう』
そして対峙するアーチャーさんとバーサーカー。
士郎さん達は後ろ髪を引かれる思いをしながらも、アーチャーさんをその場に残して逃げていこうとするけど、士郎さんが足を動かそうとした時だった。
『衛宮士郎。いいか?お前は戦うものではなく生み出すものにすぎない。余計なことは考えるな。お前に出来る事は一つ。その一つを極めてみろ』
そして士郎さんのいつものお得意の武器である干将莫邪をその手に出しながら、
『忘れるな。イメージするのは常に最強の自分だ。外敵などいらぬ。お前にとって戦う相手とは自身のイメージに他ならない』
そう言い残してアーチャーさんは天井の壁を破壊して退路を塞ぐ。
「……なんていうか、アーチャーさんかっこいいね」
「ま、アーチャーらしいな。もうてめぇの役目の終わりに薄々気づいていたんだろうぜ?士郎に託せるもんは託した感じか」
「ではやはりアーチャー殿は士郎殿の……」
「まぁ、そんなところね。私もこの時はまさかアーチャーの正体がだなんて思いもしなかったから……」
そういうイリヤさんの顔は少し愁いを帯びていた。
この戦いでなにかあったのかな……?
そうして外に逃げていく士郎さん達は突如としてお城から上がった光の柱を見て、遠坂さんを止めようとするが、遠坂さんは握りこぶしを作って手を震わせながら、
『私達は絶対に逃げきらなきゃいけないの……』
そう言ってまた後ろを見ないで走り出していた。
絶対に悔しいんだろうな。
自分のサーヴァントがやられるかもしれない瀬戸際だから余計にそう感じる。
だけど、突如として遠坂さんは足を止めた。
そして、腕を掲げて、その腕には令呪が宿っていたのか紋様が描かれていたけど、その令呪が綺麗に消えてしまった事その事実に、
「アーチャーがやられたか……てめぇとは決着をつけたかったぜ?なぁ、アーチャー……」
ランサーさんが悔しそうにそう呟いた。
確かにランサーさんにとって好敵手みたいな感じだったからね。
「でも、ここでアーチャーさんがどうやられたか見れないのもなんかモヤモヤするです」
「そうだね、ゆえー」
「イリヤさん、どうにかできないですか……?」
「あたしも気になるかも」
みんなが気になるところでしょうがないみたい。
そこで静観していた刹那さんとこのかがおずおずと、士郎さんとは別にこの世界を見せてくれているアルさんに話しかける。
「クーネルさん。イリヤさんの記憶を途中で見せる事ってできますか?」
《構いませんが、よろしいですか?イリヤさん》
「いいけど……待って。まずはシロウの聖杯戦争までの記憶を全部見終わってからでもいいかな……?」
《構いません。わたくしとしましても途中で他人の記憶に干渉するのは骨に来ますから》
そして記憶は再生されて、士郎さんはもう走れなくなったセイバーさんをお姫様抱っこして抵抗するセイバーさんを担ぎながらも、とある一つの廃墟が見える。
そこでセイバーさんを休める事になったんだけど、遠坂さんはここでなんとしてもバーサーカーを倒す事を決意していた。
方法はどうするのかという事になったけど、わたしとしてはここでエロイ事でもするのかなー?と期待したんだけど、
『セイバーに士郎の魔術回路を移植するのよ』
そ……ッッそう来たかぁ~~~ッッッ!!
と、なんか変な武闘家の顔が連想されたけど無視して、そんな方法もあったんだね。
でも、
「魔術回路の移植って……そんな簡単にできるものなんですか?」
そんなネギ君の疑問に、
「できないことはないわ」
と、イリヤさん。
「でも、一般の魔術師にはお勧めできる提案でもないけどね……」
「と、いいますと……?」
「ネギ。考えてみなさい。たとえば魔術回路はこの世界では謂わば魔力タンクと同時に魔法や気を扱うためのキーのようなもの。それを他人に譲るものとなればそうなれば自身の使える魔力量や術の数も減少することを意味する」
「あっ……!」
ネギ君も理解したのか少し顔を青くする。
「しかも、シロウのまだ開き切っていない魔術回路は初代で27本もあるから数はある方だけど、それでもシロウにペナルティは着いてしまうんだけど……ねぇ、シロウ?あなたはやっぱり特異だったんだろうね……」
《そうだな、姉さん》
なになに?その意味深なやりとり。それじゃ士郎さんが普通じゃないみたいな言い草じゃん?
《俺の魔術回路は確かに27本と少ない。だが、普通なら魔術師にとって魔術回路とは疑似神経に過ぎないんだけどな。俺の魔術回路はほぼ全身の神経と言っても過言じゃないんだ》
は……?
なにそのチート。
全身って……つまり神経を鍛えれば本数に関係なく魔力量を増やしていけるって事?
「つまり、士郎殿の今の魔力量は……」
《ああ。聖杯戦争後に姉さんとの間にパスを繋げて無理やりに他人の魔力を流し込んでもらって神経を頑丈に鍛えていったんだ》
…………うーわー。なに、その血も吐くかのような苦行。
士郎さんはまさかのMだったのかー?
「そこまでしないといけなかったんですか……?」
《ああ。……いや、ある日まではそんな事はしていなかったんだ。でも、強くならないといけない理由が出来てしまってね……》
そう言った士郎さんの気配はどこか辛いものでも思い出しているかのような感じだった。
それにしてもある日、ね……。ターニングポイントみたいなものかな?
《とにかく先に進めるぞ》
そして記憶は再生されて、
遠坂さんはいきなり士郎さんにキスをした。
はい?
儀式だっていうけど、なんかやっぱえっちぃ。
セイバーさんの上に士郎さんが覆いかぶさって、遠坂さんは魔法陣を浮かべて呪文を唱えていく。
すると士郎さんの意識は急にどこかに飛ばされて、次の瞬間にはマグマが煮えたぎっている場所にいた。
そこには巨大な赤いドラゴンの姿があって、そのドラゴンは士郎さんの腕をなんと食いちぎった!?
移植ってすごいなぁ!
「あれが、セイバーさんの……アーサー王の力の源である赤いドラゴンだったんですか……?」
「まぁ、そうね。セイバーには竜の因子が流れているから」
「竜の因子……なんか盛大ですね」
「伝承がどうだったか知らないけど、マーリン辺りが人工的に竜の因子を埋め込んでセイバーが生まれたんでしょうね」
つまり、セイバーさんはなるべくしてブリテンの王になったと……。
やっぱ歴史って奥深いねぇ……。
そして翌朝になって、士郎さんが目覚めると、そこには頬を赤くしたセイバーさんがいてどこか恥じらいを感じているようで、
「なぁんかどこか様子がおかしいっすね?まぁさかセイバーの姉さんはなにかに自覚が芽生えたってところっすかね?」
そんな卑しい顔をしているカモ君。
いや、そう口に出されるとやっぱ少しセイバーさんに中で意識の改革が起こっている感じ?
以前は、
『私は女である前に騎士……そしてサーヴァントです。ですから恥ずかしがる必要など皆無かと(キリッ!』
だったのに、えらい変わりようかもしれない。
「こりゃ、士郎さんを意識し始めたのかもしれないね!なんか滾るねぇ!」
『そうですか?朝倉さん……でも、なんかそういうのも分かります。士郎さんと繋がった時になんかポワッとしましたから』
「さよちゃん!?繋がったってどういうこと!?」
『あ、わたし士郎さんと使い魔の契約をして実は地縛霊から解放されてるんですー』
「あ、繋がったってそーいう…にしてもいつのまに……士郎さんも隅に置けませんねー。後で取材させてもらいますからね」
《お手柔らかにな……》
まさかの幽霊ちゃんにも手を出していた士郎さん!
こういうところが士郎さんらしいっていう奴……?
そしてセイバーさんも回復したところで作戦会議を始めた。
作戦としては遠坂さんが奇襲をしてそこを叩くと言った感じ……?
士郎さんには後方支援をしてもらうというが、どうするといった感じだけど、そこで士郎さんがある提案をした。
それは、そこら辺に落ちている木の枝を拾って強化でもしたのか、いや変化かな?木の枝が弓に変化した!
コツを掴んだっていうけど、なんのコツだろう……?
それと、士郎さんはセイバーさんとある約束をした。
宝具は使わないでくれという事。
まぁ、使って消滅しちゃ元も子もないからね。
だけどそこでセイバーさんが足元をふらつかせて士郎さんが支えるとやはりと言うべきか意識しているのか頬を赤くしているセイバーさん。
ははーん……?
「なんか、いいでござるな……」
「うんうん。恋の芽生え始めって感じアル」
あの恋に鈍感そうな楓さんと古ちゃんにも気づかれるんだから相当だよね。
と、そこにイリヤさんの『見ーつけた!』という声が響いてくる。
ついに戦闘開始ってところかな……?
いくつかの問答のあとに、イリヤさんの身体の刻印が服越しに全身に浮かびあがり、戦闘開始の合図となった。
バーサーカーと戦うセイバーさんをしり目に士郎さんは枝を矢に変えて打つが、そんなものはただのバーサーカーの気を逸らす手段でしかなく、セイバーさんは追いこまれていく。
そこに遠坂さんが草陰から飛び出してきて、宝石魔術を飛ばすがバーサーカーは構わず遠坂さんをその太い腕で捉えて捕まってしまうけど、遠坂さんは最初からその気でいたのか宝石に最大限の魔力をこめて、それは一気に放たれた。
爆音とともに顔をやられて倒れていくバーサーカーだけど、イリヤさんは一回殺せたねと言った。
え、つまり……どういう事?
記憶のイリヤさんは説明していく。
バーサーカー……もといヘラクレスはかつて十二回の試練を乗り越えて不死になった。
だから十二回殺さないと死ねない身体なんだと……。
その宝具の名は『十二の試練』。
「うわっ、逸話通りだけど改めてチート体質じゃねーか!?ただでさえ強いのに反則だろ!」
思わず千雨ちゃんがそう叫んだ。
「そう。本来なら最強なんだけどね……」
そうイリヤさんは呟いた。
遠坂さんを握りしめて潰して殺そうとしているバーサーカーだけど、セイバーさんが何度も斬りかかっていき、我慢の限界だったのか士郎さんも駆けて行っちゃうんだけど殴り飛ばされてしまう……。
そこで士郎さんとの約束を破って宝具を使おうとしたセイバーさんを士郎さんは二回目の令呪を使って無理やりに止めた。
分かっていたけど、こうしなくちゃ共倒れだもんねー。
でも、そこでまたしてもわたしの脳内で音が鳴った。
これって、やはりセイバーさんの宝具を止めない選択をしたら、セイバーさんは消滅し遠坂さんも殺されて士郎さんは結局人形にされてジ・エンドって感じかな?恐ろしい……。
そこで士郎さんは何かの覚悟を決めた目をして、そこでついに士郎さんの投影魔術が開花する。
アーチャーさんの言葉を思い出しているのか、剣を用意するという。
そして士郎さんの手に握られているのは夢の中で出てきた黄金の剣だった。
「まさか投影したのですか!?」
「ヒュー♪ここでやっと使うようになったか!土壇場にしてはいいタイミングじゃねーか!まさかあのバーサーカーの腕を切り裂くほどとはな!」
そう、ランサーさんの言葉通り、士郎さんはその剣で遠坂さんを握りつぶそうとしている方の腕を斬り裂いてしまっていた。
士郎さんの腕、と言うよりやはり剣の質がすごいという事か。
だけど反動で黄金の剣は砕けてしまった。
だけど士郎さんは再度投影してまたしても黄金の剣を作ろうとする。
「士郎老師は武器屋泣かせアルナ。何度でもその場その場で最適な武器を投影してしまうんだから」
《返す言葉がないな……》
士郎さんはまるでうわ言の様に、こう呟く。
『創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし、
ここに、幻想を結び剣と成す――――ッ!』
そして、今度こそ折れない黄金の剣が輝きとともにその場に顕現した。
だけど、それでも士郎さんの腕では扱えきれないその剣に、セイバーさんが手を添えて、二人でその剣を握り、その剣はさらに黄金に輝き、バーサーカーの剣を粉砕し、ついにはバーサーカーを貫いて、そして……、
少しの静寂とともに、
『それが……貴様の剣か?セイバー』
『これは勝利すべき黄金の剣……王を選定する岩の剣。永遠に失われた私の剣……』
『所詮はその男が作りあげた幻想……二度とは存在せぬ剣だ。しかし、その幻想も侮れない。よもや、ただの一撃でこの身を七度も滅ぼすとはな……』
そう言って、ついにヘラクレスは魔力に溶けてその体を霧散させた。
バーサーカーを倒されたイリヤさんは呆然自失状態になって、士郎さんもとどめを刺そうとするセイバーさんを止めて、そのすぐ後に士郎さんも気を失った。
「はぁー…………やっと一旦は決着がついたのね。手に汗握る展開だったわ……」
そう言ってアスナは手をひらひらさせて暑そうにしている。
こういう時ってこういう幻想空間でも変わらず服を着れているからいいけど、話に聞いたけどネギ君の魔法の時は素っ裸だったらしいじゃん?
アルビレオさんには感謝しないとなー……。
「これが……士郎さんの投影魔術が開花した瞬間だったんですか?」
「まぁ、そうね……。私もまさかバーサーカーが倒されるだなんて微塵も思ってなくて少し……いや、かなりショックを受けてしまっていたわ」
「まぁ、その気持ちも分かるアル。絶対と信じたものが打ち砕かれるほどショックなものはないアルからナ」
「古菲師匠に同感や。オレもそう感じるからな。にしても士郎の兄ちゃん、あんな土壇場でこんな博打を打つのは素直にすごいわ……」
《まぁ、遠坂が殺されてしまうかもしれないってあってでがむしゃらだったからな……》
そんな感じで話は次の段階に移行していく事になる。
士郎さんはイリヤさんを庇った事でまた一悶着あるんだろうなー……と思うわたしなのであった。
後書き
アーチャー渾身のカッコいいポーズはお預け。
次回はキャスター編ですかね。
その前に吸血鬼になったエミヤも書こうかな…。
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