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ネクロノミコン

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第三章

「実はね」
「違っていたね」
「そうだよ、だからね」
「魔導書にしても」
「そんなものだよ、そしてその魔導書の中でも」
「今僕達が話しているネクロノミコンは」
「完全な創作の産物だよ」 
 シュテファンはこのことを間違いないとした。
「そうだよ」
「そうだね」
「だからあるという話が出ても」
「それは間違いだね」
「ラグクラフト自身が明言していることだよ」
 書いた彼自身がというのだ、ネクロノミコンが出て来るクトゥルフをはじめとした異形の不気味な神々の世界を書いた彼が。
「そんなものは存在しないとね」
「もっと言えば彼の書いたもの全てがだね」
「創作の産物だよ」
「そうだったね」
「彼は唯物史観だったからね」 
 そうした考えの持ち主でというのだ。
「無神論者だった」
「実はそうだね」
「だからだよ」
「彼が書いた話のどれもが創作だね」
「全てね、彼が見て知っているものじゃないんだ」
「彼が考えて生み出したものだね」
「全てはね」
 こうヤンに話した。
「そうしたものだから」
「ネクロノミコンも実在しない」
「創作の産物だよ」
「その通りだね」
 ヤンはシュテファンの言葉に頷いた、そのうえでこの日の講義を受けてだった。
 大学から出るとその足でアルバイト先の本屋に入った、市街地にあるもの静かな古本屋で密かに品揃えがいいことで知られている。
 その店に入ったがここでだった。
 店の入り口でネクロノミコン入荷、アラビア語の原典とあった。彼はその貼り紙を見てからだった。
 店主の中国系の初老の男性であるチャーリー=ワン少し腹が出た眠そうな顔立ちの彼店のカウンターにいる彼に尋ねた。
「店長、あの貼り紙は」
「ネクロノミコンのだね」
「ジョークですよね」
「最近何か面白いことをしたいと思っていてね」
 店長はヤンに笑って答えた。
「それでだよ」
「ああした貼り紙をしましたか」
「そうしたよ」
「実際はないものですよ、ネクロノミコンは」
「だからジョークだよ」
 店長もこのことを知っていて述べた。
「あくまでね」
「それだけですね」
「実際はラグクラフト全集が入ったんだ」
 ネクロノミコンでなくこちらだというのだ。
「それも最初のもので初版だよ」
「マニア向けですね」
「それが入ったからね」
「ネクロノミコン並に価値があるとですね」
「ジョークで宣伝したんだよ」
「そういうことですね」
「そうだよ、それにアメリカでアラビア語読める人がどれだけいるか」
 英語を喋るこの国でというのだ。 
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