チャーチルと日本
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第四章
「一体」
「これ程自分達が譲歩しているのにまだこんなことを言うのかと」
「だからどう交渉するかだろう」
「それがわからないのかと」
「譲歩していることがか」
「まだそんなことを言うのかと言って」
そしてというのだ。
「我々は話がわからない人達だと言っています」
「わからないのはこっちだ」
チャーチルは思わず言った。
「どういう考えなんだ」
「それでここに至っては差し違えるしかないと言って」
「待て、その論理だとだ」
「宣戦布告してきました、アメリカにもオランダにもオーストラリアにもです」
「無茶苦茶だ、信じられない」
チャーチルはまた唖然となった。
「こんな連中ははじめてだ」
「それで今アメリカの真珠湾が攻撃されているとか」
「では我々にもか」
「仕掛けて来るでしょう」
「では日本とも開戦だ、しかし」
それでもとだ、チャーチルはこうも言った。
「何が何だかわからないな」
「全くですね」
高官もこう言うしかなかった、そして。
戦争が終わってだ、チャーチルは周りに語った。
「ドイツにもてこずったが」
「日本にもでしたね」
「マレーをいきなり攻められて」
「シンガポールまで失って」
「東洋艦隊も壊滅しました」
「叩きのめされた、しかもその傷でだ」
日本から受けたそれでというのだ。
「もうインドも失う、インドを失うとな」
「もう我が国の栄華もですね」
「終わりですね」
「そうなりますね」
「我々はアジアを完全に失う、日本の力は予想より遥かに上だった」
こう言うのだった。
「あんなに強いとは思わなかった」
「若しアメリカがいなければ」
「我々はもっと酷いことになっていました」
「あれだけの力があるとは」
「あれだけ強いなら早く言って欲しかった」
全く、というのだ。
「まことにな」
「全くですね」
「ドイツも強かったですが」
「日本もでした」
「マレーでは一方的にやられました」
「非常に強かったです」
「お陰でインドも失いました」
「辛いことです」
「日本人が外交を知っていれば」
チャーチルは苦りきった顔で述べた。
「こんなことにはならなかった」
「全くですね」
「彼等が交渉をしていれば」
「外交を知っていれば」
「そうであったなら」
「戦争にならなかったかも知れないですし」
「我々もこうならなかったですね」
周りも言った。
「まことに」
「我々は戦争に勝ちましたが」
「それでもですね」
「多くのものを失いました」
「痛い思いをしました」
「そうなったことを思えば」
とてもというのだ。
「日本には外交を知って思いたい」
「本当にそうですね」
「大英帝国の栄華を潰すまでに強いのですから」
「そこまで強いならです」
「そうしてもらいたいですね」
「実にな」
チャーチルは心から言った、そしてだった。
葉巻を吸った、そのうえで呟いた。
「世の中ああした国もあることはな」
「覚えておくことですね」
「外交を知らない国もある」
「そのことを踏まえてですね」
「やっていこう、そして知らないなら知ってもらおう」
その外交を知らない国にというのだ。
「そうしてもらおう」
「ですね、我が国の為にも」
「そうしてもらいましょう」
「さもないと痛い目を見る」
こう言って葉巻を吸い続けた、その葉巻は美味くはなく苦いものだった。その時のチャーチルの心境がそのまま出て。
チャーチルと日本 完
2021・8・14
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