タクシーで一周
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第二章
「あそこまでだとな」
「さて、今度は何の騒動を起こすか」
「出来れば我々とは関係ないところで起こして欲しい」
「騒動を起こすなら起こすでだ」
「遠いところでやってくれ」
こう言われる始末だった、兎角クレンペラーの人格は評判が悪かった。その存在自体がまさに爆弾だった。
それで常に騒動を起こし今回もだった。
ブタペストでニュルンベルグのマイスタージンガーを指揮することになっていた、ワーグナーの作品でもかなりの大作である、この作品の指揮を練習の時に執っていると。
不意にだ、まだ十九歳だったオーケストラのコンサートミストレスのワンダ=ウィウコミルスカがうとととしてしまった。
それを見てだ、クレンペラーは即座に怒鳴った。
「そこの小娘!」
「!?」
「どうしたんだ!?」
「またマエストロの癇癪か?」
「ミストレスがうとうとしたみたいだが」
「マエストロそれに怒ったか」
「あの人らしいな」
その場にいた誰もが思った、そして。
その思った通りにだ、クレンペラーはミストレスにさらに叫んだ。
「ワーグナーは子供の音楽ではない!さっさと帰るんだ!」
「ほらきた」
「本当にマエストロだな」
「毒舌で癇癪持ちでな」
「今は女癖は出していないが」
「やれやれだ」
「困った人だ」
誰もがミストレスを咎めるのではなくクレンペラーの行動に思うのだった、まただと。そして彼はさらにだった。
そしてリハーサルの時もだった。
彼はまた怒ってだ、こう叫んだ。
「タクシーを呼べ!私は帰る!」
「はい、まただ」
「またマエストロの癇癪が爆発したぞ」
「本当に怒りっぽい人だな」
「こんな癇癪持ちの人いないぞ」
「本当にな」
誰もがやれやれだった、だが。
ここでだ、劇場支配人は言った。
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