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SAO(シールドアート・オンライン)

作者:ニモ船長
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第二話 ガードホリッカーとPFGB

 
前書き
 
グラント「可愛いSAOだと思った? 残念! SAOでした!」
ハルキ「これもう訳がわからねーな」

  

 
 

 「……は、な、ええ?」


 アインクラッド第一層、トールバーナ。
 迷宮区に最も近いこの街の、とある民家の二階にて、数時間前に巨大なコボルドを相手に共闘した二人の戦士……ハルキとグラントは自己紹介をした後、どういう経緯であの場で巡り合うことになったのかをお互い語ったのだが。

 まずはハルキの方から紹介しよう。
 彼はこの街と、そしてこことはじまりの街の丁度真ん中辺りに存在する「ホルンカの村」を拠点にして、このSAOというデスゲームをクリアすべく上層へ向かうトッププレイヤー達、通称「攻略組」への参加を目指してレベリングを行っていた。
 そんな時に隠しログアウトスポットの話を何度も耳に挟み、加えてそこに足を運ぼうとしたプレイヤーを目撃しては止めに入り…といった毎日を過ごすうちに、これは自分が出るしかないと思い立ったとの事であった。
 文句なしの良い人である。そんな行動を進んで取れるほどには、ハルキはお人好しな人間であるようだった。外見はリアルの顔とは思えない程に整った美少年であり、その声音も平均的な男性の声に比べれば高くソフトである。いずれ彼がこの世界において頭角を現す時が来たら間違いなく他人受けは良好だろう。

 対するは、ロングヘアーに老け顔のむさ苦しい男である。……いやまあ、老け顔とは言ったけどあくまで推定年齢との比較というだけで、ちゃんと若々しくヘアスタイル等を整えれば大分まともにならない事もないかもしれない。いずれにしても今の彼のルックスは誰がどう見ても落武者そのものである。刀は無いけど。
 そしてそんな彼、グラントがあの場にいた理由を彼自身の口から聞いたハルキが示した反応が、先程の台詞である。


 「それマジで言ってんの」

 「マジです」

 「ねえ嘘だって言ってくれ。そうじゃないと俺、グラントさんの事バカだって思わざるを得なくなるんだけど」

 「ごめんねハルくん。大マジです」


 バカ認定来たー。取り敢えずハルくん、大声でこの落武者男を罵ってあげて。
 それでこんなことになった元凶たるグラントの経緯だけれど。彼は特に隠しログアウトスポットの情報を鵜呑みにしていたわけでもなく、たまたまその辺りをほっつき歩いてたら道に迷ってあそこに辿り着いたようだった。
 ってこの時点でいろいろアレな気もするけど、これだけ広いVRオープンワールドなのだ、土地勘がなかったり方向音痴だったりするとそのようなケースもない事はないだろう。多分。
 だが問題はその後だ。あの横穴に迷い込み数時間前のハルキと同じ様にコボルド軍曹の奇襲を受けたグラントは、またまたどういう訳か必死にモンスターの攻撃から逃げ回っているうちに、モンスターを軸に洞窟の奥側に転がり込んでしまったというのだ。
 いや何をどうやったらそうなるのかね。自ら逃げ道のない方に突っ込んじゃった阿呆の図である。現に彼はそれから十分前後は、あの狭い空間でひたすらコボルド軍曹の棍棒を避け続ける羽目になったらしい。

 転機が訪れたのは、焚き火の中央に存在するレア宝箱に気付いた時。藁にもすがる思いでそれを開けると、中に入っていたのは今現在グラントが持っている、その異質な盾だった。この盾、耐久値が異様に高いようで、程度としてはさほど注意しなくとも正面からコボルト軍曹の棍棒を弾き返せるレベルの一級品だとか。


 (……そういえば)


 ハルキは思う。このゲーム内に存在するコボルド……特に上級のコボルドの中には、片手に剣や斧といった小型武器を持ち、もう片方に丸盾を持って戦うといったような戦闘スタイルをとるものも少なくなかったような。それを考えると、右手に棍棒を装備していたあのコボルド軍曹が左手に何も持っていなかったのは、宝箱の中身が彼の盾である事を暗示でもしていたんだろうか。茅場さん率いるアーガス社ってそういうとこ拘るのかな。
 そして極めつけはここからである。コボルト軍曹の攻撃を無力化する術は手に入れたものの、倒すこともできないグラントさん。だからってずっと戦闘中では心身共に疲弊してしまう……この仮想現実内において心身とは如何なるものかとも思うが。そんなジレンマに陥った彼が出した結論が、まさかの、「宝箱のなかで眠る」だったのだ。


 「だって、宝箱自体って基本的に破壊不能オブジェクトじゃん? 戦闘中とかにぶっ壊れてなくなちゃったー、なんてことはないでしょ? ね? ね?」


 まあ、確かにその通りなのだが。そういう事思いついちゃって、かつ実践しちゃう辺りやっぱりアレだって事をこの男は絶対に理解してはいないだろう。
 かくして、彼は一日のうちの殆どをコボルト軍曹の攻撃の防御に費やし、夜は宝箱の中で寝るという生活を、今日ハルキがやってくるまでの十日ほど強いられる事となった。
 もう一度言う。十日である。もう訳が分かんねーな。


 「で、でもさほら、これでスゲー盾も手に入ったし、一層の迷宮区攻略にはだいぶ貢献できるってモンだぜ」

 「……もう終わってるよ、第一層迷宮区の攻略」

 「……はぇ?」


 グラントは目を見開いて身を乗り出す。


 「……もう突破しちゃったの……?」

 「ああ。あんたがあんな所で引きこもってる間に、攻略組はもう二層の迷宮区を制圧して、昨日三層の転移門がアクティベートされたよ」

 「えぇ……まじっすかぁ……」


 ハルキからそれを聞かされた自業自得男は、部屋のベッドにバフンと座り込むと、不貞腐れたようにウィンドウを弄り始める。
 そして、それに気付き、動きを止めた。


 「出遅れた……完全に出遅れた……あ?」


 まあ確かに、よく考えたらそれは妥当なんだよね。自分よりずっと高位のボス級モンスターの攻撃を、ずっと盾で受け続けていたのだから。


 「……今度は一体何なんだよ……?」

 「た、盾の」


 半ばうんざりしたように尋ねたハルキに目も合わせず、自分のステータスウィンドウを凝視したまま、グラントは言った。




 「盾の熟練度が……350になってる」









 2022年、12月21日。アインクラッド第三層迷宮区。
 「森」がテーマであるらしいこの層も、迷宮区の造りは他の層と大して変わらず石畳の回廊が続いていた。そしてそこを踏破すべく行軍するのはわれらが攻略組…当然みんな大好きキリトさん達もその先頭辺りにいる。
 そんなトッププレイヤー達の最後尾の少し後ろをハルキとグラントは、なるべく周りの注目を集めないように縮こまりながらついて行っていた。
 「最後尾の、少し後ろ」……これ大事である。つまり二人はフロアボス攻略会議にも参加していなければ、当然他の誰にも攻略組として認知されていないのである。


 「ねえ、これホントにいいのかね。せめて自己紹介ぐらいはした方が良いんじゃね?」

 「いや、あんた自己紹介したら総スカン食らうだろ。武器なし盾使いなんてよ」


 知り合ってから一週間、ハルキさんもなかなかグラントに対して言うようになってきていた。まあパーティーを組んであげているだけ優しいというものではあるか。


 「そういうハルくんだってソードスキル結局使う気ないじゃん? そこんとこどうなのよ?」

 「俺は別にソードスキルがなくたって攻撃も防御も出来るし。誰かさんみたいなガードホリックじゃないんで」


 ガードホリック。
 それがこの数日間パーティーを組み共に戦ったハルキの、グラントに対する印象である。
 戦闘を開始するや否や相手の出方を伺い、襲い掛かってきたら回避する事なんてまず考えずに盾で受け止める。たまにパリィをして相手をノックバックさせる事はあっても、追撃する武器がないんだから全く意味がない。そうしていつまで経っても終わる事のない戦闘を繰り広げながらこの男、笑っているのである。ましてや一度に複数の敵の攻撃を捌き続けている時の恍惚とした表情なんぞ、まさにB級ホラー映画のゾンビメイクをした悪役のそれである。結局最後は、見るに耐えなくなったハルキがモンスターにトドメを刺してしまうのだが。

 それではグラントはハルキに対してどの様な印象を持ったかと言えば。


 「まあ確かに俺はそういうやつかも知んないけどさ。ハルくんもまだまだ、ゲームを知らないよねー」

 「うっせぇ」


 そう、ハルくん全然ゲームってものを知らないのだ。言うならばプロファイター・ゲームビギナー。略して「PFGB」とでもするか。
 と言うより厳密には、ここをゲームとして認識していない様な印象である。テイミングスキルも餌も(そもそもこのゲームにその様な仕様があるのかはまだまだ不明だが)ないと言うのに、プレイヤーを倒す事しかプログラムされていないであろうボアとかトーラスとかを撫でに行ってしまうのだ。しかも「可愛いじゃん」とかそう言う理由で。
 それだけではない。第三層から始まっている一大キャンペーンクエスト、通称「エルフクエスト」の開始時に起きたイベント戦闘では、本来戦っている二人のNPCどちらかの味方に着くことで進むシナリオになっているところを、げんなりするグラントを抑えながら三十分近くに渡って二人の仲裁をしようと声をかけ続けていたり。
 だが、そんなNPC二人、通常ではとても倒せる強さではないNPC二人の間に入って二人の剣を同時に捌き続けることが出来るくらいには、ハルさんマジもんのプロソードマンなのである。

 ……つまり一体全体何なのかと言うと、この二人、絶妙にそのポイントは被ってはいないとはいえ、それぞれ一般プレイヤーが確実にドン引きする様な要素を持ったアウトローなプレイヤーであると言うことである。さらにたちの悪いのは、そんな自分の特徴を考える時に。


 「ハルくんよりはましだろ」
 「グラントよりはましだな」


 ……こう、思っているというところにあると言うわけなのだ。


 さて、そんな下らない話をしているうちに、どうやら攻略組の先頭がフロアボスの居る大部屋前の扉に到着した様である。二人は列の先から、何やらボスの情報をのせた言葉が耳に届くのを感じたのだが。


 「ぜんっぜん、聞こえなくね?」

 「奇遇だなハルくん。俺もそう思っていたところよ」


 これはひどい。本当にほぼ何も聞こえないのだ。いや厳密には回廊の壁中に反響した声の残響の様なものが、具体的には「〜ちゅう」「〜ねん」の様な妙な言葉が聞こえるのみである。そんな状態にハルキは少々の心配を覚えたのだが。


 「……まあいいや、確かに三層のフロアボスは『ネリウス・ジ・イビルトレント』だったか、とにかくなんかでっかい木のバケモンだろ?」

 「……は?」


 ハルキはグラントへと振り返った。


 「なんでまだ見たこともないフロアボスの事知ってんだよ?」

 「ん? ああ、だって俺」


 ……そう、この時のグラントは、丁度攻略組でその話題が物議を醸していたその時に宝箱の中に引きこもってたこの男は、知らなかったのである。



 「実は俺、ベータテスターだったんだよねん」



 そのカミングアウトが、何を意味するのかを。







 そして第三層フロアボスへの道が、今開かれた。

 
  
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