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おぢばにおかえり

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第六十六話 好き嫌いその三十二

「海沿いでしか食べられなかったのよ」
「お寿司も生のお魚使いますしね」
「だからね」
「だから江戸、東京で生まれたんですね」
 阿波野君はしみじみとした口調で言いました。
「馴れ寿司の代用で」
「馴れ寿司なんてよく知ってるわね」
「食べたことないですが聞いてはいます」
「昔は馴れ寿司が主流だったみたいだけれどね」
 私もこのことは八条学園にいた時に聞いたので知っているだけです、お友達にお寿司屋さんの娘さんがいてです。
「それでもね」
「作ることに時間がかかるから」
「それもかなりね」
「だからですね」
「代わりにね」
 手早く作って食べる為にです。
「出て来たのよ」
「そうでしたね」
「そのお寿司もね」
「八尾じゃ食べられなかったんですね」
「そうよ、奈良もでしょ」
「らしいですね、歌舞伎で奈良県のお寿司屋さんが出て来ても」
 そうした場面があるらしいです、私は歌舞伎には興味がないのでそうしたお話をされてもよくわかりません。
「握り寿司じゃないそうですね」
「馴れ寿司ね」
「というか柿の葉寿司だったかも知れないです」
「ああ、奈良県のお寿司ね」
「正直僕あのお寿司はいいです」
 あまり好きでないと言ったお顔でした。
「子供の頃貰うっていったらそれで」
「食べ飽きたのね」
「だってネタ同じですから」
 だからだというのです。
「柿は好きですけれどね」
「お寿司はいいのね」
「はい」
 こう私に答えてくれました。 
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