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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第三百三十六話 初詣をしてその十三

「それでね」
「入らなかったのね」
「そうだったんだ」
 この人もだ。
「まあこの人は評判が悪いからね」
「脚気のことよね」
「これがあんまりにも酷いから」
 多くの犠牲者を出してしまった。
「一度信じた人は絶対に見捨てない山縣有朋も激怒してね」
「あの元老の」
「麦飯が脚気にいいって海軍が食べてるから」
 陸軍を預かる山縣にしてみたらそれで脚気が減るならこれに越したことはない。
「麦飯を送らせたみたいだし」
「もう見捨てたのね」
「人間としては見捨てなかったみたいだけれど」
 この辺りは山縣も信念を通したと言うべきか。
「けれど脚気については」
「もう見捨てたのね」
「その学説をね」
 脚気菌があるだの和食と洋食は栄養的に変わらないだのだ。
「そうだったんだ、桂太郎も」
「その人も」
「そうだったんだ」
 山縣と共に陸軍を預かっていたこの人もだ。
「やっぱり現場が大事だから」
「脚気がなくなったら」
「もうそれに越したことはないから」
 食事で治るならだ。
「海軍で脚気がないことを見たらね」
「もう一目瞭然ね」
「実際いなくなったんだよ」
 海軍でも脚気に悩んでいたのにだ。
「それじゃあね」
「もうよね」
「うん、食べものが関係あるってわかるから」
 それこそだ。
「だからね」
「山縣さんや桂さんは」
「脚気菌があろうがなかろうが」
 そんなことは関係なくだ。
「麦飯を食べればいいならね」
「もうそれでよくて」
「決めたんだ」
 森鴎外、軍医である森林太郎が何を言ってもだ。
「そうしたんだ」
「現場を預かる人にしてみれば切実ね」
「脚気になったら戦えないよ」
 足がむくんで動けなくなってだ。
「死ぬことすらあるし」
「それじゃあね」
「麦飯入れるよ」
「そういうことね」
「森鴎外って人はね」
 僕が思うにだ。
「衛生学はしっかりしていても」
「それにこだわり過ぎだったのね」
「権威主義で傲慢で地位にこだわる人だったというし」
 それで嫌っている人もいたらしい。
「小説家、翻訳家としてはよくても」
「お医者さん、人間としては」
「褒められた人じゃなかったみたいだよ」
「そうだったのね」
「学校の勉強は抜群に出来て」
 それでだ。
「チートとか言う人いるけれど」
「肝心のお医者さんとしては」
「人間としてもね」
「そうしたところも観ないと駄目ね」
「そんなことをキャーキャー言ってたら」
 それこそだ。
「人を見誤るよ」
「そうなるのね」
「森鴎外がどんな人か」
 詳しく調べてだ。
「わからないと」
「チートだとかしか思わないのね」
「そうなるよ、じゃああったまったら」
 僕は香織さんにあらためて言った。
「その後はね」
「ええ、次はね」
「教会に行こう」
 こう言ってだ、御神酒で温まってから次の場所に案内した。大晦日からの外出もいよいよ最後であった。


第三百三十六話   完


               2021・6・15 
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