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潮騒の中で

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第一章

               潮騒の中で
 三島由紀夫の代表作の一つに潮騒という作品がある、その作品を読みながら高校生吉永幸太郎は今考えていた。
 これから自分は果たして勝ててそして掴めるのか、思うのはこのことだった。
 それでだ、本を一旦閉じて彼は友人の井口信孝に言った。
「まさか告白してな」
「その相手からだよな」
「ああ、勝負挑まれるとかな」
 それはとだ、彼は友人に言った。
「流石にな」
「思わなかったよな」
「だってな」
 吉永はさらに言った、背は一七〇程ですらりとしている、黒髪は短めで目は小さい。やや面長で顎は四角い。
「普通な」
「普通はないだろ」
「いや、この小説読んでるとな」
 その潮騒を井口に見せて話した、井口は茶色にした髪をセンターに分けている。顎の先は尖っていて目は切れ長で眉は長い。背と体格は吉永に似ている。
「恋敵が出てな」
「水泳で勝負してか」
「それで勝ってな」
「恋人と結ばれるんだな」
「そうなるだろ」
 こう井口に言った。
「普通は」
「まあな、そう言われるとよくある展開だとな」
 井口は吉永のその言葉を受けて言った。
「そうなるな」
「やっぱりそうだろ」
「ああ、物語だとな」
「俺も告白する時断わられるとかな」
 それかとだ、吉永は言った。
「もう相手がいるとかな」
「もう一人告白している相手がいるとかか」
「そうは考えていたよ」
「それでもか」
「付き合いたかったら勝負してな」
 そしてというのだ。
「勝ったら付き合うなんてな」
「思わなかったか」
「ああ、こんなことあるんだな」
「ギリシア神話であっただろ」
 井口は吉永に少し考えてから答えた、先程まで自分の席で本を読んでいた彼の前の席に座ってそうして語っている。
「勝負して勝ったら付き合うでな」
「負けたらなしか」
「いや、負けた奴を殺すんだよ」
「おい、殺すのかよ」
「ギリシア神話の登場人物はすぐに人殺すからな」 
 これは人も神も同じである。
「かっとなったら相手をバラバラとかな」
「かっとなってサイコ殺人かよ」
「何人もな」
「すげえな、それ」
「それで相手が誰でもぐっときたら迷わずに襲うしな」
「下半身にも節操ないんだな」
「誰でもな」 
 やはり人でも神でもだ。
「だから血縁関係無茶苦茶だぞ」
「ギリシア神話ってそうだったんだな」
「それでそのギリシア神話だとな」 
 井口はあらためて話した。
「そうした話があってな」
「負けたら殺されるんだな」
「ああ」
 実際にというのだ。
「そうなるんだよ」
「じゃあ俺もかってな」
「そんな筈ないだろ」
「ギリシア神話じゃないからな」
「そうだよ、現代日本であるか」
 自分と勝負して負けた相手を殺すことはというのだ。 
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