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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  76 The Day 〜後編〜

 
前書き
また大分遅くなってしまいました。
皆さんはコロナ下で如何お過ごしでしょうか?
コロナが流行ったら流行ったで忙しくなった方もいらっしゃるでしょうし、テレワークで在宅の時間が長くなった方もいらっしゃるでしょう。
僕は前者ですが... 

 
「あの時の女の子がミヤだった……」

自分の心を常に縛り続けたあの日の出来事の全てを鮮明に思い出す。
それと同時にその出来事が大きな影響を与えていた事実に冷静さを保てなくなった。
もはや枯れてしまったと思っていた涙が溢れ、全身が震えた。

「あなたは彼女の心を支え続けていた。彼女にとって、あなたはヒーローだった」
「……」
「あなたにとっては、忌まわしい思い出でしかないのかもしれない」
「そうだ…僕は誰を傷つけたり、傷つけられる度にあの日の嫌な感覚を思い出して……」

今まで散らばっていたもの全て繋がってしまった。
幼い自分の心に深い傷をつけたあの日、誰かを救っていたことなど全く予想していなかった。
ただ痛くて、苦しくて、胃袋を握りつぶすような感覚を与え続けるものでしかなかったというのに、自分が傷ついた代わりに、誰かが救われていた。
誰にとっても何のプラスにもならないし、なってはいけないと思い続けてきた。
そんな複雑な気持ちが、彩斗には受け入れられられず、涙が溢れないように必死に目蓋を閉じることしかできない。
だがそんな彩斗を前に彼女も真っ向から向き合う。

「でもあなたはこの日があったから、今日まで生きてこれた」
「……」
「誰かの痛みを悲しんで、誰かの痛みに怒ることができた。もう二度と味わいたくないって、声を上げることができた」
「だとしても、僕は道を踏み誤った……」
「あなたは道を誤った。優しいあなたには耐えられないと思う。もう引き返せない。だから、少しでも正しい道へ、正解が無いとしても、少しでも誰かの為になる道へ、あなたは進もうとした」
「また間違うかもしれない…」
「大丈夫。今のあなたなら、あなたにかできないことが、あなたにか進めない道が選べるはず。きっと彼女もそれを願ってる」

彼女は彩斗の手を握り、日記の最後のページを開いた。

「目を開いて。私がついてる」

彩斗は震える吐息を漏らしながら、何度か深呼吸をした。
目を開いたら、今度こそ自分の全てが崩れるようながしているのに、開かなければそれを超えるくらい後悔するようなおかしな感覚で頭が割れそうだった。
呼吸を整え、ゆっくりと目を開く。

「…これは」

涙で曇った目の焦点が合ってから、内容を把握するまで数秒の時間を要した。
そこに書かれていたのは、全く予想していなかったものだった。
これまでのミヤが日常で見て感じたことが記された日記ではない。


『これが読まれているということは、私はもうこの世にいないのかも知れません。想像もしたくないけれど、もし本当にそんなことがあった時には、これを読んだ人は彼に伝えてください。』


ミヤから彩斗へのメッセージだった。


『きっと君は今頃、自分を責めていると思う。落ち込まないでって言っても、絶対落ち込むと思う。でも今、悔しかったり、悲しかったり、怒りを覚えているのは、君が優しいからなんだってことだけは伝えたい』

「自分の身を危険に晒してまで、何で…僕に……」

『私は私なりに君の力になろうと決めた。だから今、私はどうなっていても絶対に後悔はしない。むしろ、君の側に立たなかった方が後悔したと思う。だから私に何かがあって、それに責任を感じているなら、前に進んで欲しい。君が少しでも正しいと思う方向へ。君の優しさと才能はきっと多くの人に寄り添える』

「う…ぅ…」

『最後に。君に会えて本当に良かった。君の友より』

ゆっくりと日記を閉じた。
深呼吸しながら、最後の一文を噛み締める。
そして声を上げた。

「うぉぉぉ!!!うぁぁぁ!!!」

「!?…凄い…綺麗…」

彩斗の雄叫びと共に、闇に支配されていた世界に夜明けが訪れた。
空を覆い尽くしていた雲は吹き飛ばされ、東の空から太陽が昇り始める。
淀んだ海は一瞬で透き通り、淡い群青色に支配された。
これこそが彩斗の心の本来の「色」だった。

「僕は…もう一度やり直す…!!僕を信じてくれた人たちの為に!!」

彩斗のその想いに呼応するように左腕にトランサーが現れた。
そしてどちらからともなく、手を取り合う。

「あっ…」
「行きましょう…」

『トランスコード!スターダスト・ロックマン!!!』

二人は銀色の竜巻に包まれると、共に一歩を踏み出した。












絶望に拉がれていたデンサンシティの一角で静寂を破る音が響いた。

「えっ?」

眠り続ける彩斗を囲むアイリスとメリーは耳を疑い、顔を合わせた。
彼の左腕のトランサーからビープ音が鳴り響き、急に再起動を始めた。

「再起動…?これは…」

アイリスが彩斗の左腕を掴み、トランサーの画面を確認した。
今までに見たことがないようなコンソールが起動している。
だが、それと呼応するように部屋に設置された計器類も反応しだした。
冬眠状態にあった心拍や体温が上昇を始めている。

「兄さん…」
「彩斗くん…」

色褪せていた顔に再び赤い血が流れているのがひと目でわかった。
触れれば、さっきまで凍りついていたのが嘘のようにほんのりと暖かい。
2人の元に春がやってきた。











自室で頭を抱えていたハートレスもその騒動に気づいた。

「何よ?」

ただし彼女の場合は一足遅かった。
再起動のビープ音や計器の動作音程度の生ぬるいものではない。
床を突き破るかのような激しい足音と木材がちぎれるような音。
廊下に飛び出すと、更に何か重く大きいものが倒れたような音まで聞こえてきた。
階段をかけ下り、音が聞こえた方向に急ぐ。

「これは…」

音は2階のリビングの方からだ。
ただいつものリビングではないことは明らかだった。
西洋風な木製のドアは丁番ごと外れ、廊下に転がっている。

「一体何…が…」

リビングに飛び込むと、待ち焦がれていた光景が目に飛び込んできた。
ただあまりにも急な出来事の為に、普段の自分がするような反応ができなかった。

「…彩斗」

ハートレスの目には、腰を手に当てペットボトルの天然水を一気飲みする彩斗の姿だった。
何度も瞬きして、自分の目を疑う。
だが、やはり目に映る光景は変わらない。
しかも、目に映る彩斗はとうとう板チョコをバリバリと食べ始める始末だった。
先に駆けつけていたアイリスとメリーも同じような顔をしていた。

「はぁ…はぁ…」

彩斗はテーブルに手を付き、何度も激しく息を荒げる。
凄まじい量の発汗だった。
ポタポタと汗が床に垂れる。
ただ徐々に息は整っていき、最後に一度大きな深呼吸をした。

「あぁ…」

手で前髪をかき上げると、振り返って一度ぎこちなく笑う。
そして3人の方に歩いてきた。

「ただいま」

ポカンとした顔を浮かべる3人に彩斗はそう告げたのだった。



 
 

 
後書き
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