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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第七十五話 妖精

 森が持つ幻惑の機能。
 加えて幾度となく現れる魔物との戦い。
 それらのせいでタバサの探知能力があっても、森を進むことがだいぶ困難になってきた。
「タバサ。まだ妖精は見つからない?」
 迷いの森を出入りするだけなら、タバサの探知機能だけでも充分だ。
 けれどその先にある妖精郷へと進むのなら、妖精を見つけて助力してもらう必要がある。
 既に何度か魔物と大規模な戦闘をしてしまっている以上、警戒して妖精が姿を現さなくなることを充分考えられるから、すぐにでも見つける必要があった。
「なんとなく魔物でも、動物でもない気配を感じ取れているんです。それでもすぐにわからなくなって、見つかったと思ったら消えてのくり返しで」
「妖精はまだ完全には姿を消してない。けれど私達の前に姿を現す気もない」
 すでに私達は何度も魔物と大規模に交戦している。
 本当に警戒されているのなら、最初の時点でとっくに気配は把握できなくなっていだろう。
 それにも関わらず姿を完全に現わさないということは、私達はおそらく妖精にとって脅威かどうか判断されていると見ていいだろう。
「魔物と戦わなければ、わるい人じゃないってわかってもらえるかな?」
「それは難しいわね。今はまだ魔物が出現してないから大丈夫だけれど、また魔物と戦わざるをえない。そうなるとただ敵が敵と争い合ってるとしか思ってもらえない」
「妖精は子供達の前では姿を現すと聞いた。それなのに何故妖精は僕たちを警戒している?」
「タバサが気配で妖精を探っているのと同じように、妖精の方も私達を気配や物音で判断していると思うわ」
 妖精と私達の距離がどれほどあるかわからないが、少なくともだいぶ近づかないと聞こえないような小さな音では決してなかった。
 呪文の轟音や爆風、閃光は遠距離からでも充分確認できる。それなら姿を見られずにこちらの状況を把握することも可能だ。
「妖精に警戒を解いてもらうには、一番手っ取り早いのは私達の姿を見せること。けれど魔物が出てくるせいで戦わざるを得ない。逃げるにも森の幻惑の力で逃げ切れない。魔物と戦えば戦うほど妖精は警戒する。魔物が手ごわいせいと数が多いことで、どうしても物音が出てしまう」
 状況を口に出して整理するが、どれも条件が厳しい。
 その上森を踏破するために、戦闘で体力や魔力をいちいち消費していられない。
「二フラムが効いたら楽だったんだけれどね」
 残念そうにレックスはつぶやく。
 魔物を退去させる二フラムも、この森に巣くう魔物相手だと全く持って無力だ。
「これ以上闇雲に進んでも却って警戒心を強める上に、僕たちの負担も大きくなる。幸い魔法で脱出できるから、ここは日を改めよう」
「そうね。一度撤退するのが正解なのかも」
 疲れを口には出さないが、タバサはまだ幼い女の子だ。
 さっきから休憩をはさんでいるとはいえ、かなりの距離を歩かせているしずっと探知能力も使わせている。
 もちろん同じようなことはレックスにも言える。
 そうした事情もあって私はアベルの意見に賛成した。
「それじゃあ、戻りましょうか。リレミーー」
 脱出呪文を唱えようとして、タバサがある一点を見つめていることに気づいた。
「どうしたの? 何か見つけた?」
「先生、あれ……」
 おそるおそるタバサは指さす。
 その方向には一匹の魔物が歩いていた。幸いまだこちらには気づいていない。
「気づかれないうちに戻るわよ」
「違うんです」
 タバサの目は大きく見開かれていた。
「あの魔物が向かっている先に、感じるんです。気配を」
 何の気配かは言わずともわかった。
「アベル、レックス!」
 二人とも私達の会話を聞いてくれていたお陰ですぐに状況を把握してくれた。
「急いで助けなくちゃ。怪我してるのか気配が弱々しいです」
 普段落ち着いている彼女からは考えられないほど、その表情は切羽詰まっていた。
「わかった。急ぎましょう」
 妖精を助けに向かいながら、私はタバサの表情を思い返す。
 気配でしか感じ取れないものの、今にも襲われそうな妖精を必死に案じていた彼女。
 けれど私はまず手がかりが見つかったとしか感じ取れなかった。
 そんな自己嫌悪を抱きながら、私は走った。
 
 
 
 
 
  
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