提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・78
~武蔵:コーヒー(?)~
「私は大して甘い物が好きという訳では無いのでな。それに、他の奴にコレを譲るのもルール違反なのだろう?なら、コーヒーでも淹れてくれ」
そう言って私服姿の武蔵がチケットを持ってきたのは、俺が久しぶりの休日で惰眠を貪り、ぼんやりとした頭で起きてきた昼下がりの事だ。
「しかしなぁ、わざわざ俺の休みの日に持ってこんでも……」
くぁ、と欠伸を噛み殺しながら文句を垂れると武蔵はニヤリと口角を上げ、
「なんだ?『ゆうべはおたのしみでしたね』とでも言って労ってやればいいのか?ん?」
そう。昨夜は今日が休みだと判っていたので久しぶりに、その、嫁とハッスルしていたんだよ。それで明け方近くまで起きていて、最後はお互い気絶する様に寝落ちしたモンだから何がとは言わんが、ひどい有り様だった。それで寝惚け眼を擦りながらもひとっ風呂浴びて、ついさっき武蔵に出くわしたってワケだ。
「勘弁してくれ。新入りの連中のゴミを見るような視線は中々キツいんだぞ……」
ウチの内情を知らない新入りの連中からすると俺は、とんでもない女好きの上に何人もの艦娘と浮き名を流す糞野郎に見えるらしくてな。理解されるまでのゴミを見るような視線は精神的にくる物がある。
「ふん、それはお前にも多少の後ろめたさがあるせいだろう?」
「ん、まぁ……な」
「提督よ。お前は遊びで女に手を出す様な不誠実な男なのか?」
「いや、それはない」
確かに俺は何人もの艦娘とそういう関係にあるが、『遊び』で手を出した相手は一人もいない。明確なルールを決めて、その範囲で手を出しているし、手を出せばしっかりと面倒を見る。それくらいの甲斐性はあるつもりだ。
「ふん、なら堂々としていろ。新入りの勘違いなど態度で示せばその内払拭される程度の物だ」
まぁ、俺の気にしすぎって話か。そんな話をしながら執務室のドアを開けると、中では大淀と今日の秘書艦当番の阿賀野が仕事をしていた。
「あら提督、今日は非番では……?」
「すまんな、執務室を使う用事が出来た」
と、ピラリとチケットを見せる。
「あぁ、そういう」
「じゃあ移動するね~」
この辺、理解力の高い奴等だと助かるな。2人がそそくさと居なくなった所で、執務室をいつものBarセットに切り替える。
武蔵がカウンターに腰掛けた所で、ヤカンを火にかける。その間に一品出してしまおう。冷凍庫からバニラアイスを取り出し、ソーサー型のシャンパングラスにディッシャーで盛り付ける。そこに『あるもの』をかけて、飾りにミントを添える。
「今コーヒー淹れっから、これでもつついて待っててくれや」
「なんだ、バニラアイスに……チョコレートソースか?だから私は甘い物はあまり得意ではないとあれほど……」
文句を吐きながらもアイスを口へと運ぶ武蔵。それが口へと吸い込まれた瞬間、眼鏡の奥の目がくわっ、と開かれた。
「提督よ。これは……」
「『カルーア・オン・アイス』。アイスにコーヒーリキュールのカルーアをかけただけのカクテルだ」
「しかし、あのチケットでは酒は出さないんじゃなかったのか?」
「『執務中には』、な。生憎俺は非番だ」
そう言ってニヤリと笑うと、釣られて武蔵もクスクスと笑う。
「やれやれ、狡い男だなお前は」
「そんな男は嫌いか?」
「いいや、そんな所にも惚れているさ」
「くれぐれも……」
「あぁ。飲兵衛連中には内緒、だな?」
休みの日にチケットを持ってくれば飲ませてもらえる、なんて知られた日にゃあ俺の休日は消滅確定だからな。
「さぁ、次はどんなコーヒーを飲ませてくれるんだ?」
「まぁまぁ、まずはコーヒーカクテルの定番『アイリッシュ・コーヒー』だ」
《アイリッシュ・コーヒーのレシピ》
・ホットコーヒー:150~200ml
・お好みのウィスキー:20~30ml
・白ざらめ:15g
・ホイップクリーム:適量
※白ざらめが無ければ普通のざらめでもOK!
(作り方)
温めたホットカクテル用のグラス(もしくはマグカップ)にざらめとウィスキーを入れ、ホットコーヒーを注いでステア。ざらめが溶けたらホイップクリームを浮かべて出来上がり。
「うむ、これは身体が熱くなってきそうだ」
「飲み物自体が熱いし、カフェインとアルコールが効いてくるからな」
味としてはコーヒーのコクとウィスキーの香ばしさが口一杯に拡がる。冷え込んでくる秋の夜長のお供には最高だぞ?
「さっきのアイリッシュ・コーヒーは美味かったが……やはり、冷たい方がだな」
「解ってるって。俺だってこの糞暑い中、何杯も熱いモンは飲みたくねぇよ」
確かにアイリッシュ・コーヒーは美味かった。が、夏場の昼下がりに飲む物ではなかったな。ちょいと反省。次からは冷たいカクテルだから、安心しろ武蔵。
《ビター・カルーア・ミルクのレシピ》
・カルーア:30ml
・牛乳:90ml
・インスタントコーヒー:1tsp
(作り方)
氷を入れたロックグラスに、カルーアと牛乳を注ぎ、ステア。仕上げにインスタントコーヒーをティースプーン1杯入れて軽くステア。
「カルーアは甘いから苦手だったが……これはいいな!」
「まぁ、甘いのが駄目ならコーヒー足しちまえって安直な気もするがな」
味は……まぁ、大体想像通りだ。
《カルーア・ウーロンのレシピ》
・カルーア:45ml
・烏龍茶:適量
(作り方)
氷を入れたタンブラーにカルーアを入れ、烏龍茶を注いでステア。お好みでレモンを加えても◯。
「……どういう化学反応なのだ?これは」
「不思議だろ?」
烏龍茶とコーヒーリキュールを混ぜるとどうなるか?意外や意外、スパイスが隠し味のエスニック風味な紅茶の様な味に化けるんだ。たから爽やかさを求めてレモンを加えると、レモンティーの様な味になる。
《カルーア・コーラのレシピ》
・カルーア:30ml
・コーラ:適量
(作り方)
氷を入れたタンブラーにカルーアを入れ、コーラを注ぎ、ステア。
「これはまた……好みが別れそうな味だ」
「そうか?割と俺は好きだけどな」
「お前の炭酸の好みは人と大分ズレているからな」
「え、美味いだろ?ドクペもルートビアも」
コーヒーとコーラってどうなん?と思われるかも知れないが、爽やかな口当たりでくどくはない。ただ、発泡するコーヒーが許容出来ればの話だが。※作者は意外とアリだな、と思いました。
《カルーア・コラーダのレシピ》
・マリブ(ココナッツ・リキュール):45ml
・カルーア:10ml
・パイナップルジュース:45ml
・牛乳:45ml
(作り方)
材料を全て合わせてシェークし、氷を入れたタンブラーに注ぐ。お好みでカットパインやチェリーを飾れば完成。
「これは……香りがいいな!」
「ココナッツもコーヒーも、香ばしさがウリな所あるしな」
以前紹介した事のあるトロピカル・カクテルの『ピニャ・コラーダ』にカルーアを加えたのがこの一杯。ココナッツとコーヒーの香ばしさが掛け合わさると、こんなに美味いのかと軽く感動的。ピニャコラーダがトロピカルな味わいなだけにコーヒーの風味が加わると、さながら南国リゾートでコーヒーを楽しんでいる気分に浸れる。
「ふぅ……軽く酔ってしまったな」
「おいおい嘘だろ?お前程の蟒蛇がこれ位で酔っ払うかよ」
「ふふ、酒にではないさ」
そう言うと武蔵の顔が近付いて来て、柔らかい物が俺の唇に触れる。
「お前の優しさと愛情に酔いしれているのさ」
「……顔が赤いぞ?武蔵」
俺がそう言ってからかってやると、
「さ、酒のせいだっ」
と言ってそっぽ向いた。可愛い。
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