取り柄は
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第三章
「それじゃあ彩はそのままね」
「いたらいいの、私は」
「そうよ、そうしていってね」
「お母さんが言ってることよくわからないけれど」
その言いたいことがとだ、彩は美里に言った。
「兎に角こうした人みたいにはならないで」
「今のままの彩でね」
「いればいいのよ」
「そうなのね」
「それが彩の取り柄だから」
「私の?」
「だからね」
それでというのだ。
「このままね」
「お母さんがそう言うなら」
「きっとね、じゃあ今からご飯よ」
丁度学校から帰ったばかりの妹に言った、実はこの日もクラスでも部活でも周りに人が大勢いて囲まれてもいた。
「一緒に食べましょう」
「うん、じゃあ後片付けはね」
「彩がしてくれるの」
「駄目?」
「いいわ、一緒にしましょう」
「それじゃあね」
母は笑顔で言ってだ、そうしてだった。
彩は母の後片付けの手伝いもした、そしてその次の日。
皆学校である男子生徒、小柄でパーマを当てて丸い目は随分目つきが悪く蛸坊主みたいな顔の短ランの彼を見て言った。
「あいつまたやったらしいな」
「ああ、ボクシング部だよな」
「何か先輩に色々吹き込んでな」
「先輩に自分の後輩いじめさせたらしいな」
「自分も弱い相手にはそうしてな」
「強い相手にはへらへらするんだよな」
その彼を見て言うのだった。
「それで自分より成績が悪いと馬鹿にして」
「人の物真似したり昔のことほじくり出して」
「人にはあれこれ言うけれどな」
「自分のことは知らないふりで」
「陰口は言って」
「嫌がらせもよくするし」
「一緒にいたくないわね」
男女共に言っていた。
「全くだよ」
「幾らボクシングしてて成績がよくても」
「あんな奴とはな」
「一緒にいたくないわ」
「一緒のクラスだけれど最悪」
「本当にそうよね」
こうしたことを話してだった。
その生徒は嫌われていた、だが彩は。
今も周りに多くの人がいた、そして彼女に声をかけて助けもした。しかし彼女はそれが何故かわからないままだった。しかし。
「池田さんならな」
「本当にいい娘だから」
「一緒にいたいな」
「そうよね」
「癒されるし性格もいいし」
「そうした娘だから」
彩は気付いていなかったが皆そんな彼女だから彼女の傍にいた、そうして今も多くの人に囲まれているのだった。
取り柄は 完
2021・2・11
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