犬との最後の別れ
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第二章
「確かにね」
「それであの子の臓器もか」
「色々な人に渡って」
そしてというのだ。
「心臓は十七歳の子に渡るわ」
「そうか、それでか」
「ライアンはその子を助けたのね」
「あの子は亡くなったが」
「他の人達もその子も」
「そうよ、メリーも覚えておいてね」
ミシェルはモリーにも話した。
「ライアンは沢山の人を助けたのよ、だから悲しまないでね」
「クゥン」
モリーはライアンの死をまだ悲しんでいた、だが。
そう聞いて頷いた、悲しい顔だがそうした。ミシェルはその彼女の顔を見て微笑んだ。
医師はミシェルからその話を聞いて静かに微笑んだ、しかし。
今診ている老婆、アテネ=フランクが世を去ろうとしているベッドに横たわる彼女を見てそうして言った。
「もうこの人は」
「そうですね」
助手も頷いた。
「もう」
「かなりのご高齢だしな」
「だからですね」
「ご主人にもお伝えしよう」
「そうしますね」
「是非ね」
こう言ってだった。
二人でアテネの夫であるジェリド=フランク白髪の老人で眼鏡をかけた彼に話した。そうするとだった。
ここでだ、こう言った。
「あと数日です」
「そうですか」
「ですから今のうちに」
「妻にですね」
「心残りのない様に」
「わかりました」
夫は医師の言葉に頷いた、すると。
次の日スーツケースを持って病院に来た、ある看護師がそのスーツケースを見てそのうえで彼に尋ねた。
「そのケースの中身は」
「妻に快適に過ごしてもらう為のアイテムです」
「奥様のですか」
「もう長くないので」
だからだというのだ。
「それで、です」
「そうですか」
「そういうことですので」
こう言ってだった。
彼はそそくさと去った、だが助手はその彼を見て察してだった。
医師にだ、密かに囁いた。
「フランクさんのご主人ですが」
「私も気付いているよ」
医師は助手に確かな声で答えた。
「あのケースの中身はね」
「それでもですね」
「病院が許可をくれないと思ってだね」
「そうですね」
「わかっているよ、けれど最後だから」
「それで、ですね」
「ここは見なかったことにしよう」
こう助手に話した。
「そうしよう」
「それでは」
助手も頷いた、そうしてだった。
アテネの部屋を二人でこっそりと見るとだった。
夫はスーツケースから一匹のオーストラリアンシェパードの雌を出した、そのうえで妻に笑顔で話した。
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