猫が頑張っているのを見て

　　　　　　　　　　　　　　　猫が頑張っているのを見て
　渕上巧は黒髪をショートにした一七〇位の背で大人しい顔立ちをしている、通っている高校の陸上部に所属している。
　母親が持病を持っていてその治療費で家はあまり裕福でない、それで母はよく自分の夫や息子である彼に言っていた。
「お母さんの身体が悪くてね」
「そんなこと気にするな」
「身体のことは仕方ないよ」
　二人で母に言った。
「だからそんなことは気にしないで」
「ちゃんと治療するんだ、家計は任せろ」
　働いている父はこう言った。
「何とかする、巧の学費もな」
「何とかなるの」
「幸い公立だ」
　巧の通っている高校はというのだ。
「だからな」
「何とかなるの」
「そうだ、あとお前もだ」
　父は息子である彼にも言った。
「心配しないでだ」
「高校行けっていうんだ」
「そうだ、ちゃんと卒業しろ」　
　学費のことは気にしないでというのだ。
「いいな」
「働かないでいいんだ」
「そうだ、そして大学もな」
「大学はいいよ」
　巧は実は大学に通ってある資格を取りたいと思っている、だが学費のことを考えてこう言うのだ。
「別に」
「公立や国立なら大丈夫だ」
　やはり学費が安いからだ。
「それに行ける成績だろう」
「うちの学校進学校だし」
「お前も成績は悪くないしな」
「だからなんだ」
「そうだ、気にしないでだ」
　大学のこともというのだ。
「そしてだ」
「そのうえでなんだ」
「大学にも行け、いいな」
「それじゃあ」
「それに母さんは持病だが」
　母の病気のことも話した、治療費がかさみそれが一家の財政を圧迫していると母自身が気にしているそちらのことも。
「きっとだ」
「治るんだ」
「そうだ、不治の病じゃないんだ」
　そうしたものではないというのだ。
「だからな」
「それでなんだ」
「諦めるな、諦めないでな」
　そうしてというのだ。
「勉強しろ、いいな」
「わかったよ」　
　巧は父の言葉に頷いた、だがそれでも大学進学はどうすべきかと真剣に考えていた。だがそれでもだった。
　出来ることをしようと勉強に励んでだった。
　部活も励んでいた、その部活でもだ。
　彼はいい成績を出していた、それで私立だがある名門大学からだ。
　スカウトが来た、しかしそれでもだった。
　彼は戸惑いを見せて交際相手である中山京花切れ長の目で薄茶色のロングヘアで見事なスタイルの彼女に言った。
「学費免除の特待生で取りたい資格も揃ってる大学なんだよな」
「じゃあ迷うことないじゃない」
　京花はこう巧に言った、今二人は高校の屋上で共に昼食を食べながら話している。巧の制服は黒の詰襟で京花は青のブレザーにグレーのミニスカートと白のブラウスそれに緑のネクタイというものだ。
「もうね」
「スカウト受けてか」
「その大学行くべきよ」
「そうすべきか、けれどな」
「けれど？」
「いや、俺が若し怪我したら」
　大学に入ってとだ、彼は京花に言った。