八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百二十六話 歯は大事その六
「そう思うだろうね」
「そうなるのね」
「人間長生きはするものだと思うよ」
それに越したことはない。
「けれど長生きすること自体はよくても」
「いいことばかりじゃないわね」
「人生で出会いと別れは常だから」
「親しい人と別れることも」
「長生きすればする程だよ」
それこそだ。
「あるものだよ」
「それは避けられないわね」
「どんな生きものも死ぬから」
この世の絶対の摂理の一つだ。
「だからね」
「自分より先に死ぬ人はいるわね」
「どうしてもね」
それがどれだけその人にとって大切な人でもだ、あらゆる生きものは絶対に死んでしまうからに他ならない。
「だからね」
「長生きすればするだけ」
「そう、別れがあって」
そしてだ。
「その時にね」
「そう思うのね」
「何で自分がってね」
親しい人が先に旅立ったのを見てだ。
「そうしてね」
「それでよね」
「後悔することもね」
「あって」
「その人もね」
「思っていたのかもね」
「だから結婚を申し込まれても」
それでもだ。
「断わったのかもね」
「自分はもう廃人だって」
「ヒロポン中毒は治ってたんだ」
畑中さんが言われるにはだ。
「それでもね」
「廃人って言うには」
「うん、覚醒剤よりも」
それよりもだ。
「自分だけがってね」
「思ったのかしら」
「戦争でも沢山の死を見て来ただろうし」
このことも想像出来る、畑中さんにしてもお話されないけれど戦場で多くの死を見て来たのは間違いない。
「それで尚更ね」
「自分だけがって後悔して」
「断わったんじゃないから」
「折角のお話だったのに」
「あえてね」
「悲しいことね」
「そうだね、ただその人が亡くなって」
そうしてだ。
「畑中さんは悲しんでおられたことはね」
「わかるのね」
「残念そうにお話されていたから」
その畑中さんを見た、穏やかにお餅を召し上がっている。
「だから」
「その人が亡くなって」
「今度は畑中さんがなんだ」
「悲しい思いをされたのね」
「お友達だったからね」
「お友達ね」
「戦友だったから。畑中さんも長生きされて」
そうしてだ。
「それだけだよ」
「多くの別れを経てきてこられたわね」
「それで悲しい思いもしてきたと思うよ」
「長生きされて」
「本当に長生きはするものだよ」
このことは心から思う、長寿こそ幸せの第一というけれどこのことは僕も紛れのない事実だと考えている。
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