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オーバーロード ~もう一人の超越者~

作者:ALISA
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第一話 カルネ村(前編)

 
前書き
お久しぶりです。 

 
 無数の世界の無数の歴史。
 その中で無数の物語が光り輝いている。
 そして無数の悪意と絶望もまた......。

 殺戮を遊戯と称する邪悪な怪人達。
 様々な生物の異形の天使達。
 願望・欲望の為に殺し合う13人の戦士達。
 死を超越した種族。
 不死なる生物の真祖。
 人を喰らう魑魅魍魎。
 人間に擬態する地球外生命体。
 過去改変を目論む魔人。
 吸血鬼の如き存在。
 星の記憶を内包した魅惑の小箱。
 欲望の化身。
 宇宙の力を宿したスイッチ。
 絶望を引き金に生まれる幻魔。
 108体の機械生命体。
 物体の思念を纏う異界の怨霊。
 人の肉を欲する人工生命体。
 人を怪物に変貌させる水溶性の微細胞。
 実体化する未知なる病原菌。
 星を喰らう地球外の侵略者達。
 時の彼方より現れる犯罪者。

 そして......【ヘルヘイム】もまた。

 無数の怪物達が蠢く悪夢の中にナバナは立っていた。
 しかし襲われる気配はない。
 元人間であっても今のナバナの姿は怪物であった。
 怪物達が人間を襲い、殺戮を繰り返している。
 誰かに「気に病む必要はない」と言われた気がした。

 異形の姿に成り果て、人々から忌み嫌われる存在となった今、確かに人間の時に感じていた不安や苦しみは感じなくなったかもしれない。
 目の前で恐怖と絶望で震える人達の悲鳴が響いている。

「誰か......助けて」
 幼い少女が絶望の中、そう呟いて祈った。
 逃げ惑う人々の中で確かにそう聞こえた。
「気に止む必要はない......か。ふざけるな!」
 ナバナの拳が、逃げる人々に迫る怪物達を吹き飛ばした。
「たとえ僕が怪物に成り果てたとしても、それが誰かを傷付ける理由にはならない!」
 ナバナの拳が、蹴りが、怪物達に叩き込まれる。
 自分達と同じ異形の怪物が逃げ惑う人々に背を向け、襲い掛かる怪物達と対峙する。
 怪物達は躊躇うように身動きを止める。
 逃げる人々はナバナの姿を見て足を止める。
「どんなに辛くても、苦しくても......僕は!僕の信じた正義の為に、この命を使う!」

 瞬間、怪物達は逃げ足を止めた人間を放置して一斉にナバナだけに襲い掛かる。
 ナバナは持てるすべての技術と力で押し留めようとする。
「早く逃げろ!」
 逃げる人々との間に巨大な蔓の壁を作り、逃げ遅れた人々を蔓の壁の中に放り込みながら、怪物達を蹂躙する。
 物量で敵うハズはない。
 しかし、ナバナの一撃で怪物達は水風船のように弾け飛んで爆散する。
 また、ナバナだけにヘイトが溜まっている事が幸いして逃げ遅れた人々の救助も容易に行えていた。
 だが、知能の無い獣ならば、どれだけ良かっただろう。
 幼い命だけを人質に取った化け物がいた。
 死への絶望に歪む面を見るのが好きで、遅効性の毒等を打ち込んでいた怪物がいた。
 願望や怒りから生まれた怪物の中には救われる事を望んでいなかった人々もいたのか、ナバナのダメージがまったく通らない怪物もいた。
 ナバナのように特殊な能力を用いる怪物もいた。

 人々もナバナの予想に反した行動ばかりだ。
 ナバナを他の怪物と同じように見て信用していない人や殺される事を望んでいた人はナバナの救いの手を振り払う。
 勇気と蛮勇を履き違えた愚か者は武器も無いのに怪物に挑むように突撃しだす。
 
 予想外の事態ばかりが起きて、ナバナの戦いは泥沼化していた。
「怪物に助けられるくらいなら死んだ方がマシだ」
「どうせお前もアイツらと同じだ」
「最後には私達を嬲り殺すんでしょう!」

 散々な言われ様だった。
 こんな事を言われ、救おうとした者に憎悪と嫌悪の目を向けられ、救っても石を投げられて拒絶される。
 助けた場合、礼を言われることが当たり前だと思っていれば、この仕打ちは堪えるだろう。

 助ける、と一言で言っても、命を救う・守る事が必ずしも救いとは限らない。
 家族を失い、自暴自棄になった者。
 難病や奇病で苦しい闘病生活を余儀なくされて安楽死を選ぶ者達の命を救っても、それは救いとは言えない。
 辛く苦しい現実から逃げたくて死ぬ者もいる。
 ーーー本当に助ける必要があるのか?
 ーーー命を救っても賞賛される事はない。
 ーーー何も得られず、誰にも認められない。

「だからどうした!」
 ナバナは聞こえてきた幻聴に叫んで答えた。
「助けを求める声が聞こえて僕が助けたいと思った......それだけで戦う理由は十分だ。それがどんな結果になろうと後悔はないし、見返りも評価もどうでもいい!僕の心が正しいと思う方に僕は従う!」

 ーーー瞬間、周囲の景色がその姿を変えた。
 無数の悪意と絶望の中、煌めく星々が映る。

 皆の笑顔を守る為に自分の笑顔を犠牲に戦い続けた冒険家がいた。
 人々の正しき運命と居場所を守る為に戦った記憶喪失の料理人がいた。
 戦いを止める為に戦いに身を投じた雑誌記者がいた。
 人の夢を守る為に戦った狼男がいた。
 親友と人々を守る為に運命と戦う事を選んだ青年がいた。
 鍛え抜かれた鬼の戦士達がいた。
 超高速の世界で戦う天の道を征く男がいた。
 時を駆け抜ける不運な青年がいた。
 人と魔の間で苦悩するバイオリニストがいた。
 通りすがりの写真家がいた。
 2人で1人の探偵がいた。
 どこまでも届く手を求めた旅人がいた。
 数多の友人と青春を謳歌する学生がいた。
 希望の魔法使いがいた。
 お人好しのダンサーがいた。
 スーパービークルを駆る刑事がいた。
 死んで尚、命を燃やし続ける少年がいた。
 目の前のものを守ろうと必死な怪物がいた。
 ゲーム好きな小児科医がいた。
 自意識過剰な自称天才物理学者がいた。
 最高最善の王を目指す少年がいた。


 無数の世界の無数の物語、その中に光る星々が、ナバナの目の前で光となって輝き、怪物達を倒していく。
「ここは任せろ」
 誰も見捨てずに戦い続けたお人好しなダンサーはナバナに声をかけた。
「僕と同じ......?ーーーそれより貴方達は一体」
「ここにいる皆、助けを求める人達を必ず助けたいと動き出した人たちだ。お前もそうだろ?」
「......ああ!」
「ならお前も......仮面ライダーだ!」
「仮面......ライダー?」
「ああ!だからさ、その心を忘れんなよ」


 気付けば、怪物達の姿はなくなっていた。
 そして、助けを求めた少女も居なくなっていた。
 世界に、朝日が登っていた。


ーーーNow Loading......ーーー


 疲れて眠ってしまっていたのか、ナバナはモモンガから貸し与えられた【ナザリック地下大墳墓】の一室で目を覚ました。
 椅子に座ったまま寝ていたのか、腰や首に多少の痛みがある。
 その痛みに懐かしさを覚えていると、部屋の扉の前から視線を感じた。

「あまりじっと見つめられるのは困るなーーーエントマ」
 彼女......【エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ】はモモンガからナバナの御付きをするよう命令を受けたNPCだ。
 彼女も他のNPCの例に漏れず、殺意の篭った視線で見つめてくる為、良い気分はしない。

「よくお休みでしたね。そのまま眠り続けていれば良かったのに」
「まるで針のムシロだな」
「アナタは【ナザリック】を攻略した唯一の存在ですから。モモンガ様にとっては盟友でも我々にとっては倒すべき外敵である事に変わりません」
 エントマは他のNPCと異なり、ナバナに対する態度は比較的穏やかだった。
 他のNPCは言葉を交わす事すら嫌がるような素振りを見せたが、彼女は割と話をしてくれる。
「アナタを殺さないのもモモンガ様の為。だから余計な事はしないで下さい」
「......善処するよ」
 ただ、エントマとうまくやっていけるとはナバナには思えなかった。

『ナバナさん、少しいいですか?』
 そう思っていた矢先に、モモンガからコールが掛かった。
「どうかしましたか?」
『見て頂きたいものがありますので【大広間】まで来ていただけませんか?」
「......はい、わかりました」
 モモンガの口調から何かしらの問題が発生したと考えたナバナは二つ返事で答えてしまっていた。

「そういえば、アナタはどうやって【ナザリック】の【大広間】に移動するのですか?」
「そうだな......足を使って地道に移動するのもいいが......今回は【裏道】が機能するか試してみよう」
「【裏道】?」
 エントマは首を傾げながらそう問い掛けた。
「分かりやすく言えば......【トンネル】だ」
 ナバナが虚空を切るような動作をした瞬間、空間にジッパー状の空間の裂け目が出現した。
「これは......?」
「俺は【クラック】と呼んでいる。要するに空間の裂け目を可視化したものだ。これを開けた先にもう一つ作ると【クラック】の【トンネル】ができるーーーこれが【裏道】」
 二人が空間の裂け目をジャンプして通り抜けると、【クラック】は自然に閉じて消失した。

 モモンガは椅子に座り、マジックアイテムの使い方を確認しているようだった。
 側にはセバス・チャンの姿もある。

「それは......【遠隔視の鏡】ですか?」
「はい。実はさっきまで半径10Km圏内の存在を確認していたところ、人間を見かけました」
「人間......?」
 ナバナが【遠隔視の鏡】を確認した時、甲冑を身に纏った騎士達が村人達を虐殺している場面だった。
 村人達を助けに行かないのか?
 という疑問がナバナの頭に浮かんだ。
「ナバナさんが確認する前に既に8人殺されてましたよ」
 どうやらナバナの考えている事はモモンガには筒抜けだったようだ。
 【遠隔視の鏡】を机に戻し、モモンガは椅子に深く座り直した。
「この体になってから、私は人の死を見ても何とも思わなくなりました」
「でもそれは助けない理由になりますか?」
「助けに行く理由も価値もないと判断しています。何故村人を騎士達が殺しているのか理由は気になりますが、私達が動く程の事ではないと考えています」
 モモンガの発言は間違っていない。
 村人達を守る立場の騎士が村人を虐殺する場面は確かにショッキングだが、この世界に来る以前ほどの忌避感はない。
 モモンガやナバナが動く事のデメリットの方が大きいのは少し考えれば分かる事だ。

 虫が道端で死んでいても、気にするような人はいない。
 騎士達が村人を虐殺している理由はこの後の状況を【遠隔視の鏡】で確認するだけでも把握は出来る。
 わざわざ動く理由はどこにもない。

 だが......
『その心を忘れんなよ』
 お人好しのダンサーの声が頭の中に響く。

「でも......僕は......行かなきゃ」
「動く方がデメリットは多いですよ?」
「分かっています。でも......損得勘定では自分の心まで裏切れない」
 ナバナは【クラック】を2つ開いてトンネルを作り、村人達のいる場所までワープした。


「モモンガ様、申し訳ありません。勝手な行動は慎むよう伝えていたのですがーーー」
 エントマはすぐにモモンガに頭を下げていた。
「構わない。彼ならああすると思っていたよ」
 しかしモモンガの声色は楽しそうに上擦っていた。
「宜しいのですか?」
「そうだな......良いか悪いかで判断するのなら、良くはないかな」
 モモンガは顎を右手で撫でる様な仕草をして立ち上がり、【遠隔視の鏡】を仕舞う。
「まったく......変わらないな」
 エントマはこの時、モモンガが笑っていたように見えた。
 実際は表情筋の無いモモンガが笑えるわけもない。
「ナバナを連れ戻してくる。お前達は【ナザリック】の警備レベルを最大まで引き上げろ。それとこの村に隠密行動に長けた者か透明化のスキルに特化した者を数名送り込め。」
 モモンガは左手で虚空を切り、暗闇の空間の中にその姿を消した。
 その光景を、エントマとセバスは見送ることしか出来なかった。


ーーーNow Loading......ーーー


 エンリ・エモットは妹のネム・エモットと共にカルネ村から少し離れた林の中を走っていた。
 目の前で両親と村人達を惨殺された。
 殺戮を行っていたのはおそらく【バハルス帝国】の騎士達だろうか。
 【リ・エスティーゼ王国】と【バハルス帝国】との戦争はエンリの物心ついた時から続いている長いものだった。
 それ故に、何故こんな事をされるのかといった疑問は浮かばなかった。
「お、お姉ちゃん......足、痛いよぉ」
「ごめんね......もう少しの辛抱だから」

 カルネ村の近くにある【トブの大森林】には【森の賢王】を始めとする強力なモンスターが住み着く危険地帯らしい。
 少なくとも帝国軍の兵士程度では太刀打ちなど出来ないだろう。
 それは勿論、力を持たないエンリや妹のネムも同じだが、無慈悲に虐殺されるよりはマシと言える。
 しかし、エンリは元よりネムの体力は既に限界に近かった。
 普段、そこまで走る訳では無いネムは既に足が棒のように硬くなっており、肺でも上手く呼吸できていなかった。
 そんな状態で足が動くはずもなく、ネムは転んでしまい、エンリの手を離してしまう。
「ネム!」
 転んだネムに駆け寄ろうとした時、エンリの視界がブレる。
 どうやら何かが頭に当たったようで衝撃から体が思うように動かなくなる。
 当たったのは石礫のようだった。
 頭から出血し、視界の左側は赤く染まって上手く周りを見渡せない。
「ったく手間を掛けさせやがって。村人は一人残らず殺すよう言われてんだから逃げんなよ」
「てか最近雑用ばっかだったから俺、体力落ちてるわ」
 すぐ近くからバハルス帝国の騎士二人が話しながらやってきていた。
「ネム......!」
 妹に伸ばそうとした手を騎士の一人が踏みつけた。
「はいはい、妹さんはゆっくり目の前で犯してから殺してやるから安心しなよ。アイツは幼女が好きだから運が良ければ殺さないかもな」
「一度も男を知らずに死ぬのが可哀想なんだな。死ぬ前に処女を散らしてやるのが紳士なんだな」
 そう言ってもう一人の騎士がネムに馬乗りになる。
「やめて......妹には手を出さないで!」
「自分の心配をしろよ。お前も妹の目の前で犯されるんだからさ」
「やめて......助けて!誰か、助けてぇ!」
 エンリはそう叫んだが、現実は非情だ。
 逃げ込もうと思っていた【トブの大森林】までまだ離れている。強力なモンスターとこの騎士達が戦う事はまず無いだろう。
 エンリの右腕は先程踏まれた事で骨が折れてしまっているのか鈍い痛みが走っている。
 これでは何かを奪って反撃するのも難しい。
「嫌!いやぁあああ!お姉ちゃん!助けてぇ!」
「ネム......ぁぐ!」
 頭を押さえられて妹が犯されそうになる場面を辛うじて右側の視界で見せつけられる。
 不意に妹と目が合った。
 妹の目には不安や絶望が混じった何かが写っているように見えた。
「(ンフィ......ごめんね)」
 エンリとネムは恐怖から目を閉じた。

 1秒後。
 2秒後。
 3秒後。

 痛みも何もやってこない。
 恐る恐る、エンリは目を開けた。
 そこに映ったのは金色と緑色とステンドグラスの装飾を纏った異形の怪物の姿だった。

 エンリとネムを押さえつけていた騎士達の姿はどこにもなかった。
「......あれ?」
 怪物は騎士によって踏みつけられて骨折したエンリの右腕に触れた。
 右腕が消失したかと思う程の激痛を感じ、目を見開いた。
 かと思うと、エンリの右腕の骨折は完治していた。
 先程まで過呼吸気味だったネムも、今は呼吸が落ち着いていた。
「まさか......あなたが【森の賢王】な......の......」
 エンリとネモは急激に訪れた眠気に抗えず、その場に崩れ落ちた。


ーーーNow Loading......ーーー


 村から離れた所にいた二人の元に着いたナバナは瞬時に【クラック】を開いて襲い掛かっていた騎士二人を排除して、二人の治療を行った。
「間に合ってよかった.....」
「良いか悪いかで判断するなら、良くはないですよ」
 少し遅れてモモンガも到着した。
「......自分勝手で軽率な行動、だと思いますよね」
「でも、それが貴方でしょう。言って止まるような人だとは思ってませんよ」
 モモンガに責められると思っていたナバナは予想外の答えに少し戸惑っていた。
「その二人は......?」
「治療は終えました。しばらくは起きないと思います。襲っていた兵士も生捕にしてますよ」
「では呼び戻して下さい」
 モモンガの指示にナバナは従った。

 空間から【クラック】が現れて中からロープのようになった蔦に絡み取られた騎士が二人出される。
「な、なんだこの植物は!?」
「離れない......身動きができない!」
 【ヘルヘイム】の植物はあらゆる次元・あらゆる環境でも生息・繁殖できるよう凄まじい繁殖力と環境適応能力がある。
 それだけに留まらず、常に空気中の水分を吸っている為、湿気を帯びており、燃えにくく、ゴムのような伸縮性とダイヤモンドのような硬度を持つ性質があり、反魔力物資である為、魔法による攻撃にも耐性がある
 その為、北極のような極低温や溶岩地帯といった高温多湿な環境でも成長し、適応できる。

 そんな【ヘルヘイム】の植物を自在に操作できるのは、YGGDRASILL全サーバー内でもナバナだけだ。
 理由は単純明快。彼が全サーバー内で唯一の【インベス】プレイヤーだからである。
「【ヘルヘイム】の植物はいつ見ても凄いですね」
「えぇ、それだけが取り柄みたいなものですから」
 モモンガは左手を騎士に向けて魔法を発動した。
「ちょっと魔法を試します。【心臓掌握(グラスプ・ハート)】」
 心臓を握りつぶされるエフェクトが一瞬発動したように見えた次の瞬間、騎士の一人が断末魔を上げて生き絶えた。
「流石にこれが通用しなかったらすぐに撤退するつもりでしたが、効いてよかった」
 モモンガは少しホッとしたような口調でそう言った。
 それを見たもう一人の騎士は恐怖から来る声で上擦らせながら震えていた。
「煩いぞ」
 少し黙らせるつもりで植物で首を縛ると、簡単に千切れ飛んだ。
「えぇ......弱過ぎる。かなり手加減したんだが」
「【中位アンデッド創造】、デスナイト」
 モモンガがそう呟くと、どこからか現れた黒いモヤの様なものが、先程絶命した騎士に宿ってその肉体を変化させた。
「えぇ......死体に宿るの」
「ここら辺......YGGDRASILLとは違うな」
 モモンガとナバナは興味深くデスナイトが出来上がる瞬間を眺めていた。
「デスナイトよ。同じような兵士を蹂躙せよ」
 モモンガが指示を出すと、デスナイトはそのまま何処かへ走って行ってしまった。
「あれ?騎士が主人を放って先行するのか?」
 ナバナのツッコミにモモンガは心の中で同意した。



ーーーNow Loading......ーーー


 カルネ村から兵士が引いたのはそれから30分位経ってからだった。
 デスナイトが適当に近辺の騎士を蹂躙してくれるので、ナバナとモモンガは歩きながら村へと向かっていた。
 流石に見た目が見た目だったので、ナバナは人間の姿に擬態し、モモンガは仮面を被っていた。
「その仮面って、クリスマスにログインしてたら貰える【嫉妬の仮面】ですね」
 確か、クリスマスにログインしたプレイヤーに運営から強制的にプレゼントされる代物で、所持している事=非リア充確定の悲しきアイテムである。
「知ってるなら聞かないで下さいよ」
「いやぁ、だって僕はクリスマスも仕事してて貰えなかったので。12回目のクリスマスは迎えられなかったからなぁ......」
「ぼっち確定アイテム欲しがるなんて相当ですよ」
「ははは。......話は変わりますが、この世界の通貨とかってYGGDRASILLと同じなんでしょうか?」
「分かりません。同じであれば、お金に困る事はないとは思いますが......」

 村に着くと、数人の騎士がデスナイトに蹂躙されている最中だった。
 全員殺す前に、モモンガはデスナイトを静止させる。
「そこまでだ。デスナイトよ」
 村人達も騎士も全員がこちらを向いている。
「お初にお目に掛かる。我が名は......そうだな、アインズ。アインズ・ウール・ゴウンである。
君達には生きて飼い主に伝えてもらう。この辺りで騒ぎを起こすなら、次は貴様らの国にも死を告げてやる、とな」
 地面に降り立った二人を見て、騎士達は足を震わせていた。
「行け!そして確実に我が名を伝えよ!」
 モモンガがそう言うと、蜘蛛の子を散らすように騎士達は撤退していった。

 その後、ナバナとモモンガは金銭目的で村を助けたという名目で朴訥な村長夫妻と話をした。
 モモンガとナバナは僻地で研究していた世情に疎い魔法伝道師(マジックキャスター)とその弟子という事で信じてもらえた。
 僻地から出てきたばかりのタイミングで村人が襲われているのを見て、助けたと言って先程の少女二人を村長に見せると、すぐに話を聞いてくれた。

 この村はカルネ村といい、長閑な村だった。
 悪く言えば、自衛手段の無い能天気な村。
 近隣に【森の賢王】率いる多くの凶悪な魔獣が跋扈する森に近い事もあって、冒険者が寄り付かず、外敵から攻められた経験がなかった為、自衛手段がなかった......というより、自衛手段を持たなくても困らなかったといったほうが正しい。
 村長に話を聞いてわかった事は現時点で3つ。
①この大陸には大きく分けて3つの国があり、それぞれ【リ・エスティーゼ王国】【スレイン法国】【バハルス帝国】という名前らしい。
 このカルネ村は【リ・エスティーゼ王国】内で、領土範囲的にナザリックがある場所も【リ・エスティーゼ王国】にあるようだ。
 南北に広がる巨大な山脈を挟んで隣接する【バハルス帝国】と両国との国境を挟んで南方に【スレイン法国】があるらしい。
②この世界の通貨は独自で、YGGDRASILLの通貨は使えない。金としての価値はあるが、正体不明の金が出回ると不都合が多い為、金貨を溶かして延棒にすると言った手段は取るべきでは無い。
③村を攻撃していたのは【バハルス帝国】の騎士と思われる。【リ・エスティーゼ王国】と【バハルス帝国】は慢性的な戦争状態にあり、打開策を見出せずに膠着状態が続いている。
 国境近くにある城塞都市【エ・ランテル】近隣の平野で毎年のように争っているらしい。
 兵農分離が行われていない為、随時農民が徴兵されており、村には戦闘能力の乏しい女子供と老人ばかりである事。

 一通り話を聞いて、ナバナとモモンガは村長と別れて村の広場に居た。
 村人達は死者の弔いや家屋の復興作業に取り掛かり、忙しそうにしている。
「さっきの話を聞いて......どう思いますか?」
「何にも魅力がない、位ですかね。兵農分離がされてないなら国としての生産力も徴兵の度に削れているわけですし」
「国の生産力削ってまで作った軍隊が優れているかも望みは薄そうだ」

 元々農民だった者たちをある程度使える兵士として活用できるようになるには、最低でも3〜4年はじっくりと訓練と経験を積ませる必要がある。
 だが、慢性的な戦争状態であれば、そんな期間はほとんど与えられずに戦場に投入されるだろう。
 そんな素人に毛が生えた程度の兵士をいくら投入しても戦況が変わるハズも無い。あるのは無駄に死人を増やすだけの悪循環だけだ。
 つまりこの国の軍事力は素人に毛が生えた程度の兵士で人海戦術を行うだけ。それでは自衛手段が乏しいのも納得だった。

「なんか......この村は、王国の今の状態を縮小したモデルみたいな感じがする」
 ナバナの言葉にモモンガは右手を顎に当てながら納得した。
「......なるほど。労働者の少ない村人、自衛手段のない状況......王国の現状の縮小版らしい要素は確かにありますね」

「そういえば、村長達は襲っていた騎士が紋章から帝国の人間だと言ってたけど......あの時、捕まえた騎士を殺すべきじゃなかったな......」
「......そうですね。帝国を偽装して王国との内乱を図ろうと動いていた法国の仕業かもしれませんでしたし、情報を引き出すべきだった。うっかりしてました」
「まぁ、後の祭りってやつですね。それよりーーー」
 ナバナは村長達が困ったような顔で相談している様子を伺っていた。
「また面倒事でしょうか?」
「聞いてみましょう」
 ナバナとモモンガは村長達に近付いて話を聞くことにした。
「どうかしましたか?」
「ナバナ様、アインズ様。実はこの村に騎士風の者達が近付いているそうで......」
 さっき虐殺の被害に遭ったばかりだ。不安になるのもしょうがない。
「あぁ......分かりました。村長以外の方々は屋内にいて下さい。村長は私達と一緒に広場で待機しましょう」
 モモンガは軽く溜息を漏らすとそう言った。
 村長達の顔に安堵の表情が浮かんでいた。


 暫くして、村には王国の騎士団がやって来た。その中には王国戦士長【ガゼフ・ストロノーフ】の姿もあった。
 ナバナとモモンガはガゼフに挨拶すると、村長が経緯などを軽く説明してくれた。
 ガゼフは二人に礼を言ってくれたが、すぐに部下らしい者から村を囲むように騎士が集合している事を伝えられた。 
 

 
後書き
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