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それから 本町絢と水島基は  結末

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第十二章
  12-⑵

 僕は、3月末、赴任先が決まって、引っ越しをした。古いが、1DKのマンションの2階に決めていた。
卒業式があったけど、僕は出席しなかった。絢は、おそらく、着物袴姿で出ているだろう。慎二も研修が始まるからと言って出てないと思う。絢は、終わったら、直ぐにこっちへ来るだろうが、もっとも、彼女の場合3月になると、早く慣れるためとかで、もう、移っていた。絢の所は隣の町なので、そんなに離れていない。

 仲間とは、離れてしまったので、又、新しい仲間を作っていかねばと思っている。僕は、希望していた技術センターではなく、本庁勤務になった。しばらくは、こっちの水産の状況を把握するのには、丁度いいかと思うようになっていた。

 新人研修も終えて、しばらく経った頃、先輩に県内の施設を見て周っていた。その日、2件目の水産加工の会社に案内された。もしや、と思っていたが、会議室に案内されて、日焼けした男性と、その後ろにから女性が入ってきた。

「やぁ 誠一郎君 今年、入った新人だ いろいろと、施設を見せて周っているんだ」と先輩の中村課長に紹介された。

「水島です どうぞ、よろしくお願いいたします」と名刺を交換した。業務部長 神谷誠一郎とあった。僕を上から下までじっくり見ていた。

「すみません、社長は出掛けているんですわ 課長、来るなら言ってくれれば良かったのに 本町さん もっと、前に来て、挨拶しなさい」と絢の背中を押し出すようにした。絢は、背中に隠れるようにしていたのだ。

 絢は、課長の前では普通に挨拶をしていたんだが、僕も、名刺を出して、普通に「よろしく」と言ったのだが、絢も名刺を出して「はい」と小さな声で言ったまま、下を向いていた。業務部 本町絢 とあった。

「誠一郎君は、いつも前向きに色々と考えてくれてね、協力してくれるんだ。君もこれから、協力してもらえることが多いと思うから、ご懇意にしてもらうといいよ」と課長が言った。

「いや、こちらこそ、ご協力、指導いただいて助かります そうだ、本町さん、工場の中をご案内してください 本町さん、そんなに固くならないでもいいじゃぁないか」と、絢に指示をしていた。

「課長、水島君だけでいいですかね 僕は、課長に少し話があるんですわ」

 僕は、白衣を着て、工場に案内された。手を洗っていると

「なんで、来るの、言うてくれへんかったん」

「いや 僕も、知らなかった 絢が居るなんてのも」

 工場に入って行くと、みんなが挨拶をしてくれていたが、絢には、なんか別の会釈をしていた。声を掛けるものも居た。もう、すっかり解け込んでいるみたいだった。

「絢ちゃんが、ここを整理して、並べてくれたから、香辛料なんかもわかりやすくて、やりやすくなったよ」と、絢に言ってきた者も居た。

 会社を出て、車の中で、課長が

「社長の知り合いで、教師になるのを強引に引っ張ってきて、3月から居るらしいが、彼女が入って数か月なんだけど、会社内が明るくなって、雰囲気が変わったらしい。これからも、どんどん変わって行くと言っていた。さっきは、不愛想だったけど、なかなかの美人だよな」

 絢は泣き虫のお嬢さん育ちなだけで、能力はあるとは思っていたけど、不思議な魅力があって、その場その場で対応していくから、すごい奴なんだと僕は思い知らされた。
 
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