それから 本町絢と水島基は 結末
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9-⑷
結局、光喜と茜ちゃんは、高校の時の集まりの方に行くつもりだという。僕と慎二と絢、葵のメンバーになってしまった。美波と詩織は地元に帰ると言っていた。
式典は、11時からだったので、僕と慎二は会場の前で待っていたら、絢がやってきた。いつものように、小走りだ。ごく薄い青の白生地に織刺繍がしてあって、大きな牡丹だろう花を金糸と赤糸で飾ってある。襟元は紅色で、花模様の着物の中では、目立つ。
「だから 絢 いつも、そーやって走るなって 転ぶやろー」と、僕はいつものように言った。
「でも なんか 顔見ると、走ってしまうねん ちょっとでも待たせるの悪いなって」
「絢ちゃん 綺麗になったなぁ 着物のせいかな」と、慎二が言ったが、絢がなにか言おうとしたら、葵の姿が見えて、そっちに手を振っていた。
葵は、何人かに、手を小さく振りながら、こっちに来た。葵も、明るい紺地に上から下までの葵花の刺繍がしてある、目が覚めるような着物だった。葵は化粧していないけど、目鼻だちがハッキリしているので、おそらく、綺麗になるんだろうなと、僕は、思った。
「ごめんね 待った? 家の人に送ってもらったんだけど」
「いや 別に それより、あっちはいかないで良いの?」と、僕は聞いたけど
「いいの あんまり、仲良くしてなかったから」と、葵は素っ気なく言っていた。
少し、離れたところに、大勢のグループの中にスーツ姿の光喜が居た。何人かは、羽織袴の男も居る。そして、吉川すずりも。相変わらず、きれいだ。周りの女の子の中でも、ひときわ、めだつ存在だ。目元がハッキリしていて、唇も薄いせいだろうか。
会場への移動が始まった時、茜ちゃんが絢のそばにやってきて、「絢 後で 一緒に写真撮ってね」と言って、グループに合流していった。彼女は女子高だったので、女の子だけなんだが、僕も、びっくりした。学祭で見てから、あの時から、又、女っぽくなるのかと。あんな幼顔だったのに・・。
僕と慎二は、遠慮して後ろの方に座ったが、絢と葵は、ふたりで、前の方に行った。気まずいんだろうなと思っていたが、出てくるときには、笑顔で、なにか話し合っていた。言ってたように、茜ちゃんが、絢と一緒のところの写真を誰かに撮ってもらっていた。最後に、僕等みんなと、撮ってもらって
「ごめんね 今日は みんなとは、あんまり、会う機会が無いからね」とバイバイして行った。
市街地の居酒屋目指して、歩き始めて、絢は僕の腕を組んできた。後ろから、慎二と葵が並んで、付いてきているんだけど
「ねぇ 慎二 手つないでもらってもいい?」と葵が言っているのが聞こえた。
「おう 気づかんかった 葵 便所行って、手洗ったかぁー」
「あのねー 慎二こそ洗ったの」
「うん お互い様や」と言って、手を取っていた。
お店に着くと、それなりに混んでいたが、席に着くと、女の子には店側から前掛けを用意してくれた。
「こんな着物の美人を前にして、飲むことって、二度とないと思う。成人 乾杯」と慎二が音頭を取った。
「私 良かったわ こんな仲間が居て 中学も高校も 私、泳いでいたばっかりで、親しい人居なかったから 絢もこんなに気やすいって、今まで思ってなかったから」
「ウチもなぁ 葵って、冷たそうで、授業で一緒なんだけど、話掛けれんかったんや キリリとしてるもん」
「そんなことないよ 絢こそ、真っ直ぐに座って、先生の方だけしか見てないし、同級生の中でも美人って言われてたし、近寄りがたくって、でもね、吉川さんとは違って、・・あの人は周りを気にしているようで、みんなに愛想ふりまいて、ああいう人は、私、嫌いなタイプ」
「そうか 僕は、君達が打ち解けてくれて、一安心だよ もう、名前で呼び合ってるものな なぁ 慎二」
「そうそう 最初、取っ組み合いになるんかって思ったよ 葵が来た時、絢ちゃんの眼付き怖いんだもの」
「ごめんなさい 私、葵ってモトシのタイプみたいに思えるんだもの 美人だもの 警戒してたの」
「あらっ 美人っていわれたの初めて 絢 ありがとう」
「いや 僕も 化粧したら、すごい綺麗な顔立ちだと思うよ 淡麗って感じ 今まで、言わなかったけど」と僕も続けたら
「葵はさ こんな愛嬌もないのに、化粧なんかすると・・俺は、そのままの方が良いよ」と意味深なことを言ってきた。
「私 どうすれば、良いのよ ほんと慎二って、そういう言い方、ずるいよね そんなことばっか言って 女の子の気をひいて だから、下の子も騙されちゃうのよ!」
「ねぇ 下級生っていったら、水泳部の細い子 葵に感じの似た子 って、どうなの いつも、モトシの側に居る」と、絢が突然言い出した。
「絢、酔っているのか あの子とはなんでもないよ」と僕は、慌てていた。
「ああ 宏美のことだろう 二人は出来ているよ 心配だったら、絢ちゃん、別れろ」と慎二は又、あいつ流の冗談を言ったら
「絢 心配しないで モトシはあの子を女としては相手してないから たぶん、憧れているだけだから あの子も、高校の時、水泳一本だったからね そういう方面は大学に入って、気が緩んでいると思う」と葵はしみじみと言っていた。僕は、絢の心配を、又、言っているだけと思って、弁解もしないでいた。
「葵 気使うこと無いよ 絢ちゃんはね そんなことでモトシが揺らぐような奴でないことを信じているから 言っているだけ むしろ、宏美のことを気遣っているのかも知れないから」
「慎二君 私そんなに出来た女じゃないわよ 君の彼女は大変だね 葵の苦労 わかるわ こんな男の側に居て」と絢も返していた。
「そうなんよ この人、馬鹿みたいなこと言っているけど、たまに、ポンと真面目なこと言ってくるから、みんな、それに、魅かれちゃうのよね 私も、最初は、モトシみたいな真っ直ぐな人がいいなって、思ってたけど、絢が居たから、かなわないなと思ってね」
「ごめんね 私は、モトシから離れない。モトシに嫌われないように必死なんよ」
店を出て、絢は電話していた。お姉ちゃんに迎えに来てもらって、一緒に泊るんだと言っていた。お母さん達は先に行っているらしい。
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