イヌカレたのはホノオのネッコ
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第伍話「あの日の炎」
前書き
GW中に更新するつもりが、気づけばGW終わって一週間でござる()
というわけで久し振りのイヌカレ、今回はデート回となります。
お楽しみに!
「──以上、報告を終わります」
「そうか……。ご苦労だった」
第1特殊消防隊庁舎、大聖堂。
俺と古達ちゃんは、昼間の新人大会で起きた事件に関する報告を終え、壇上を見上げる。
腕組みしながら仁王立ちしているのは、バーンズ大隊長。
他、カリム中隊長とフォイェン中隊長、烈火中隊長もその隣に並んでいる。
あの後、落下していった俺と古達ちゃんは、バーンズ大隊長に助けられた。
身体強化の能力を持つバーンズ大隊長が、俺と古達ちゃんを空中で抱えてそのまま着地。あまりのかっこよさに、古達ちゃん共々ため息が出たくらいだ。
ちなみにアーサーはというと、第8の隊長達が広げたシートへとダイブして行った。
第8の大隊長が『臆するなアーサー!!第8魂を見せろぉぉぉぉぉ!!』と叫んでいた姿がとても印象に残っている。
間違いない、あの人は絶対烈火中隊長と同じタイプだ。
あと、筋肉ダルマ呼ばわりされた先輩らしき女性隊員が、『誰がゴリラサイクロプスじゃいっ!!』とアーサーをシートから放り投げていた。
どうやら、第8は中々騒がしい部隊らしい。森羅もアーサーも、ここなら退屈しないだろう。
とまあ、何とか助かった俺達は今回の事件の当事者として、大隊長達への直接報告を果たしている所である。
「ジョーカーと名乗った黒ずくめの男は、指名手配される事になった。君達のお陰で、幸い死傷者は出ていない」
「2人とも、よくやったな」
「いえ、隊員達を救ったのは森羅です」
「それでも、全員生きて戻って来られたのは、お前らが協力できたからだ。上出来な上出来だろうよ」
そう言って、カリム中隊長はニカッと笑った。
普段は厳しい人に笑顔で褒められるの、なんだかこそばゆいな……。
「日頃の訓練の賜物だなッ!俺も鼻が高いぜッ☆」
「ありがとうございます!私、これからも頑張りますッ!!」
古達ちゃんも烈火中隊長に褒められて嬉しそうだ。
「2人とも、大会の後だ。今日はしっかり休め」
「「ありがとうございます!」」
バーンズ大隊長に敬礼……の代わりに合掌し、俺達は大聖堂を後にする。
報告を終えれば、今日一日は非番だ。
新宿の街をブラついて、ゆっくり羽を伸ばしてこよう。
「おつかれ、古達ちゃん」
「お前もな、興梠」
互いに労い合い、俺は伸びをしながら呟く。
「大会、結局中止になっちゃったな」
「チクショー、あのジョーカーとか言うやつ、次会ったら絶対とっ捕まえてやる」
「古達ちゃん、それは俺達消防官の仕事じゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「消防官の仕事は、あくまで人命救助。悪いやつ捕まえるのは皇国軍の管轄だ。そこん所は、履き違えるべきじゃないよ」
そう、消防官の本分は人命救助だ。
焔ビトを殺す事じゃないし、それ以外でもない……。
「興梠……?顔、怖いぞ」
「……ん?ああ、ごめん」
誤魔化すように手を振ると、俺は慌てて話題を変える。
「ところで古達ちゃん、この後の予定は?」
「予定?いや、特には……」
「だったらさ、今日にしない?この前の約束」
「約束……ああ!!スイーツバイキング!!」
こうして、見事に休日の予定を埋めることに成功した俺達は、約束していた駅前スイーツの店へと向かうのだった。
✠
「それにしても、まさか消防庁の大会に侵入者とはな……」
「警備の目を掻い潜り、あれだけの事をしでかす輩です。いつまた我々の前に現れるか……」
「上に辿り着いた新人達を狙ってたみたいだからな。油断ならねぇ野郎だ」
「許せねぇ!次に出てきたら、俺の熱い拳でぶっ飛ばしてやるぜッ!せい!せい!せぇええーい!!」
「……心配が心配だな」
「ですね」
「せいっ?☆」
中隊長らがジョーカーについて話している傍で、バーンズは何やら考え込むように、顎に手を当てていた。
(52……何故お前が……。森羅日下部には、お前が目を付けるだけの何かがあるというのか?)
「大隊長、どうしたんですか?」
「む……」
カリムに呼ばれ、振り向くバーンズ。
中隊長達は怪訝そうな顔で、上官を見つめていた。
「お疲れでしたら、後は我々に任せて大隊長はお休みになられた方が……」
「いや、そういうわけではない」
自分を案じてくれている部下達に、無骨な顔を緩ませる。
「ただ、“ジョーカー”とは、随分と洒落た名前を名乗るものだと思ってな」
「は、はぁ……」
バーンズがかつて、名も無き黒髪の青年とコンビを組んでいた事が明かされるのは、もう暫く先の話である。
✠
「ん~~~!!美味ぇ~~~!!」
ショートケーキにロールケーキ、タルトにムース、モンブラン。
皿に並べた色とりどりの甘味を、彼女は美味しそうに頬張り、感嘆の声を漏らす。
基本的に女の子は甘いものが好き……という噂は本当らしい。俺の不幸に巻き込んでるせいだとはいえ、普段はしかめっ面でいる事が多い古達ちゃんが、この瞬間はこんなにも笑顔だ。
「ん?どうした興梠?食べないなら私が全部取っちまうぞ~?」
「へ?あ、いや……食べるよ。俺も甘い物、大好きだし」
「ふ~ん……。ボーっとして、何考えてんだよ?」
バレてたか。
いや、隠すつもりがある訳でもないけどさ。
「その……女の子と2人っきりで出かけるなんて、初めてだから……何話していいのか、分かんなくて……」
店に着いてからずっと、必要な事しか話してない気がする。
それ以外は古達ちゃんの様子を窺うように、彼女の顔を見つめているだけだ。
い、いや、別に浮かれているとかそういうのではなく。そもそもこれはこの前のお礼なのであって、決してデートとかそういうアレじゃ……って、何を必死になっているんだ俺は。
「わ、私だって……その……男とケーキ屋くるのなんて、初めてだし……」
「そ、そうなの?」
「なんだよ。なんか文句あんのかよ?」
「いや……烈火中隊長とか、奢ってくれそうだなって」
「いや、流石の私でも、中隊長とこういう店来ようとは思わないぞ……」
「あ……確かに。あの人、スイーツより米と肉だもんなぁ」
「だろ~?それに烈火中隊長、辛党だし」
「甘党はむしろ、フォイェン中隊長?いや、フォイェン中隊長の事だし、節制してるかも」
「わかる。フォイェン中隊長、真面目だもんね」
「となると……意外とカリム中隊長辺りかな?あの能力、アイス作るのに便利そうだし」
「カリム中隊長を何だと思ってんだよ~。でも、アイス好きそうなのは分かるかも」
「でしょ?夏場は絶対困らないと思うんだよな~」
そこからは、中隊長の話題をきっかけに、会話がどんどん進んでいった。
互いの上官や先輩消防官達の話、シスターの間で話題になっているもの、最近の失敗談など、他愛も無い話をしている間にケーキは減っていった。
「古達ちゃん、楽しそうだね」
「へ?」
「隊長達の事になると、目に見えてテンションが上がってるなぁと思って」
「だって、かっこいいじゃん!強くて、優しくて、頼もしくて……私もいつか、ああいう風になりたいなぁ……って」
「なるほど……」
ふと、気づいた。
そういや俺、古達ちゃんの事あんまり知らないな……。
所属する隊が別とはいえ、彼女も同期の消防官。
普段は迷惑を掛けてしまっているが、一緒に仕事をしていく上で、もう少し彼女の事を知っておいた方がいいのでは?
そんな考えから、俺は一つ質問を投げかけた。
「なあ古達ちゃん。古達ちゃんは、どうして消防官になったんだ?」
「消防官になった理由?うーん……」
古達ちゃんは、少し考え込むような仕草で唸ると、やがて困ったような笑みを漏らした。
「なんとなく、かなぁ」
「なんとなく……?」
「特に理由は無いんだ。ただ、たまたま第三世代能力者だったから、周りの皆に言われてこの道に進んだだけで……。第一を選んだのも、パパとママが聖陽教の教徒だから」
「周りに流されたってこと?」
「そうなっちゃうのかな~……。ああ、でも皆の役に立ちたいって気持ちはホントだからな!?」
誰かの役に立ちたい、か。
確かに、この能力を誰かの為に使いたいって気持ちは俺にも分かる。
大いなる力には大いなる責任が伴うって、爺ちゃんも言ってたもんな。
すると、古達ちゃんは俺の方を真っ直ぐ見つめて聞いてきた。
「興梠は、どうして消防官になったんだ?」
「ん?俺は……」
俺が消防官になった理由。
それは、あの日から明確に俺の心で燃え続けている炎そのもの。
「会いたい人が居るんだ」
「会いたい人?」
「俺の命の恩人だよ」
首を傾げる古達ちゃん。
俺はあの頃を思い出しながら、言葉を紡ぐ。
「小さい頃、俺の爺ちゃんは学校の先生でさ。研究であんまり婆ちゃん家に戻ってこないから、よく学校まで遊びに行ってたんだ」
250年前の大災害と、大災害で失われた大昔の文化について研究していた爺ちゃん。
爺ちゃんから、失われた昔の文化の話を聞くのが大好きだった俺は、飼い犬のリンを連れて、よく爺ちゃんの研究室へ遊びに行っていた。
「でも、あの日学校が燃えて……不幸な事に、俺は閉じ込められたんだ」
後で聞いた話によると、出火の原因は焔ビトだった。
そして、焔ビトになったのは……爺ちゃんだった。
「取り残された俺は、炎と煙の中でただ死ぬのを待つしかなかった。そんな時……リンと、そしてあの人が俺を救ってくれたんだ」
消防隊員に俺の居場所を知らせようと、リンは炎の中を走り抜け、そして死んだ。
でも、リンのお陰で消防隊員は俺を見つけ、助ける事が出来たのだそうだ。
『もう大丈夫だ。絶対助けてやるからな』
そう言われ、優しく頭を撫でられた感触を、今でも鮮明に覚えている。
「だから、俺はあの人にもう一度会いたい。もう一度会って、お礼が言いたい。そして、リンとあの人に救われたこの命で、もっと多くの人を救いたい」
「それが……興梠が消防官になった理由?」
「ああ。それが俺の目標だ」
「そっか……」
古達ちゃんの方に視線を戻すと、何やら沈んだ顔になっていた。
「あ……ごめん。スイーツ食べてる時に、こんな重たい話して……」
「いや、そうじゃなくてさ……その……ちょっと見直した」
「見直した?」
「そう。私なんかよりずっと、色々考えてるんだなってさ」
「そんな事ないよ。古達ちゃんもいつか、自分の目標が見つかるはずだって」
「そうかなぁ……」
自信なさげに溜息を吐く古達ちゃん。
「きっかけは何となくでも、その後の事はいくらでも後付け出来るさ。配属されてまだ半年も経ってないんだし、気楽に行こうよ」
「興梠……」
気づけばあれだけあったスイーツは、殆ど消えている。
お互い、喋っている間に意外と食べていたらしい。
「ケーキのおかわり、取ってくるよ。何がいい?」
「じゃあ……クリームタルト」
「りょーかい」
こう思ってるのは俺だけかもしれないけど……古達ちゃんとの距離が、前より少しだけ縮んだ気がした。
この後床のタイルに足を滑らせて、取ってきたクリームパイを古達ちゃんの顔にスマッシュしてしまい、その上ラッキースケベられで胸元に手を突っ込んでしまう事故さえなければよかったんだけどなぁ……。
後書き
さて、次回はどうするか……。
このまま第一調査にするか、それとももう何話か挟むか……。
でも優先すべきは伴装者かな。
7月までには更新開始出来るくらい書いておかねば。
次回もお楽しみに!
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