ものを取ってくれるのは
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第一章
ものを取ってくれるのは
国崎洋介はこの日仕事から帰ると夕食と風呂を済ませてからふわりと遊んだ、部屋の隅におもちゃを置くとだった。
「ワンワン」
「ああ、出て来たな」
自分のケージ、扉は開いたままのそこから出て来たふわりを見て言った。
ふわりはケージから元気よく出るとだった。
おもちゃの方に駆けて行ってそうしてそれを咥えるとだった。
洋介のところに駆けて彼にそのおもちゃを差し出した、洋介はそのふわりを見て今はリビングでテレビを観ている母に言った。
「ふわりって何も言わなくてもな」
「おもちゃ取って来てね」
「俺達に差し出してくるな」
「そうよね」
「ああ、おもちゃだけじゃなくてな」
それだけでなくというのだ。
「俺達が探してたり欲しいと思っていたな」
「そうしたね」
「ものを取って来てくれるからな」
「そうよね」
「何も言わないでも」
「おもちゃ取って来ることも」
このこともというのだ。
「自然とね」
「やってくれるな」
「まさかな」
ここでだ、洋介は。
少し考えてから母に言った。今度は別のおもちゃをふわりに与えて彼女がそれで遊ぶのを観ながら話している。
「あの夫婦がな」
「ふわりに教えたとか?」
「そうしたのか?」
「あいつ等がそんなことするか」
焼酎を飲んでいた父が言ってきた。
「間違っても」
「やっぱりそうか」
「あいつ等はふわりをおもちゃと思っていたんだぞ」
ふわりを前に飼っていた彼等はというのだ。
「ふわりを飼っていたんじゃないんだ」
「おもちゃで遊んでいただけだな」
「服を着せたりおもちゃあげたりケーキ飼ったりもな」
「散歩もご飯もな」
「全部おもちゃで遊んでいただけだ」
家族として一緒に暮らして可愛がっていたのではなくというのだ。
「それだけだったんだ」
「だから赤ちゃん産まれたらずっとケージに閉じ込めて鳴いたら五月蠅いから保健所に捨てたんだな」
「そうだ、もういらないでな」
「自分も子供も鳴き声で参るとか言って」
「どうして鳴くかとかどうしたらなおるかとか考えるだろ」
「家族だったらな」
「それで家族を平気で捨てるか、殺処分ある場所に」
父は焼酎のロックを柿ピーナッツを肴に飲みつつさらに言った。
「それを親戚の法事や会社で平気で言うか」
「そんな筈ないよな」
「そうだ、本当におもちゃとしか思ってなかったからな」
「そうしたんだな」
「ああ、そんな連中が教えるか」
「ふわりにこんなことをな」
「遊ぶだけだ、それは習性なんだよ」
父は息子そして妻に語った。
「トイプードルのな」
「水に入ることと同じか」
「そうだ、トイプードルは元々狩猟犬だぞ」
ここでもこのことを話した。
「だからものを取って来るだろ」
「そうね、飼い主さんが撃ち落とした水鳥をね」
妻が言ってきた。
「それをね」
「咥えて飼い主のところに持って来るな」
「元々そうした犬だったわね」
「スタンダードプードルはな」
「そのスタンダードプードルが小さくなったんだ」
トイプードル、この犬はというのだ。
「だからな」
「教えられなくてもなの」
「ものを拾って持って来るんだ」
「おもちゃでもか」
息子は自然とケージの中におもちゃを咥えて帰ったふわりを見つつ話した。
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