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歪んだ世界の中で

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第十話 思わぬ、嬉しい転校生その十一

 顔を思いきり顰めさせてだ。クラスの端からこんなことを話していた。
「何よ、あの女」
「あんなのと付き合ってるだけじゃなくて」
「私達にあんなこと言って」
「何様なのよ」
 こうだ。忌々しげに言ったのである。
「絶対に許さないからね」
「喧嘩売ってくれて。それならよ」
「やり返してやるわ」
「それでどうするの?」
 永田がだ。野田に問うた。
「あいつに。何してやるのよ」
「決まってるわよ。女は一人敵に回したらね」
「二十人は敵に回すってね」
「そのことを思い知らせてやるわ」
 こう言ったのである。千春を見ながら。
「見てらっしゃい。ここからがお楽しみよ」
「そうよね。それであのデブ」
 まただ。二人は希望を見たのだった。
「また絶望のどん底に落としてやりましょう」
「そうね」
 ここでだ野田がだった。その希望を見てだ。
 そしてだ。こう永田に言ったのだった。
「私にデブの癖に告白してくるなんてね」
「あの時ね」
「身の程知らずもいいところよ」
 こう言うのだった。
「それで思い知らせてやったのに」
「またああしてね。彼女なんか手に入れて」
「それが許せないのよ」
 野田の目には悪意があった。それも明らかな。
 そしてその悪意のままだ。希望を見て言ったのである。
「この私に告白した身の程がね」
「素子に似合うっていったらね」
「顔がよくて背が高くてすらりとしててね」
「それで成績もよくてね」
「あんなデブで馬鹿の筈がないわよ」
 とにかくだ。己のプライドを汚した希望を許せないのだった。
「よくもまあ。告白してくれたわ」
「そうよね。それによ」
「喜美もよね」
「あいつ許せないから」
 そのだ。永田も希望を見て言ったのである。
「デブが彼女なんかできる筈ないでしょ」
「そうそう。デブヲタがね」
 外見だけを見てだ。話す二人だった。
「じゃあ今度こそね」
「死ぬまで追い詰めてやりましょう」
「少なくとも学校辞めるまでね」
 こんな話をしていた。そしてだ。
 居川と田仲もだった。二人で話していた。
「じゃあまずは俺からいって」
「それから俺だよね」
 こう二人でだ。千春を見ながら話していた。
「声かけような」
「まああんな馬鹿よりはさ」
「俺達の方がずっといいからな」
「そうそう。何であんな馬鹿に彼女がいるんだよ」
 野田や永田と同じことをだ。話していた二人だった。
「俺達が声をかけたら絶対にな」
「あんな馬鹿諦めるって」
「それでまた笑いものにしてやろうな」
「失恋した馬鹿を」
 こんなことを話していた。不穏な空気があった。
 そして実際にだ。野田と永田はだ。
 千春が一人にいった時にだ。女友達を連れてきて彼女を囲んでこう言った。
「ねえ、夢野さん?」
「ちょっといいかしら」
「何が?」
 囲まれてもだ。千春は何でもないといった顔でだ。 
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