姥桜
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第三章
「健さんとはまた違ったね」
「小田切さんの恰好よさは」
「それね。今風ね」
言うならというのだ。
「あの人は」
「今風の恰好よさですか」
「そうなるわ」
「五十年前とはですね」
「違っていて」
「彼みたいな人はなんですね」
「本当にいなかったから」
だからだというのだ。
「惚れ惚れするわ」
「そうですか」
「おかしいわね」
美代子は笑ってこうも言った。
「もう八十近いお婆ちゃんが若い人を好きになるなんて」
「おかしいですか?」
「だってお祖父さんがいなくなって」
長年連れ添った夫がというのだ。
「後は自分もっていうのに」
「いえ、女の人はずっとです」
恵美はそう言う義母に確かな声で答えた。
「そうだと思いますと」
「誰かを好きになるの」
「はい、今もお義父さんお好きですね」
「好きだから結婚してね」
そしてとだ。美代子は恵美に答えた。
「健かもしたけれど」
「五十年の間ですね」
「ずっと一緒にいたわ」
「そうですね、五十年の間ですね」
「ずっと好きだったわ。七十を過ぎてからも」
古稀を越えて老人と言っていい年齢になってもというのだ。
「好きだったわ」
「そうですね、私も今でも若いアイドルの子とか興味ありますし」
「恵美さんもなの」
「はい、老人ホームでも恋愛がありますよ」
その場所でもというのだ。
「三角関係とかも」
「そうなのね」
「ですからお義母さんも」
「小田切さんが好きでもなの」
「おかしくないですよ」
こう言うのだった。
「全く」
「そうなのね」
「はい、むしろ女の人って恋をしないと」
「駄目かしら」
「そう思います、浮気は駄目ですが」
これはというのだ、恵美もそうした考えであるし美代子もだ。二人共浮気については極めて否定的なのだ。
「それでもです」
「小田切さんが好きでもよくて」
「それで、です」
「応援してもいいのね」
「そうですよ、ですからこれからも」
「応援して」
「出演しているドラマや映画を観てもいいです」
そうだというのだ。
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