戦国異伝供書
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第百三十話 時が来たりてその六
「それはそのままじゃ」
「あの方の中にあるんだ」
「そうじゃ」
「それで傾いておられるんだ」
「今もな」
「そうなんだね」
「あの方はそうした方じゃ」
信長、彼はというのだ。
「今もな」
「傾いておられて」
「そして天下をな」
ここをというのだ。
「必ずじゃ」
「泰平にしてくれる」
拳は静かだが強い声で言った。
「だからこそ」
「これより織田様の御前に行くのじゃ」
こう言ってだった。
居士は自分が育て上げた飛騨者達を信長の前に行かせた、すると信長は居士の言った通りにだった。
全ての飛騨者を笑って己の家臣とした、そうしてだった。
飛騨者達はそれぞれ十石取りとなってそれから信長のあっという間の天下の三分の一近くを掌握し七百二十万石の大身になるとだった。
飛騨者達もそれぞれ百石取りになった、そしてそれぞれ屋敷も与えられたが。
煉獄は目を丸くして岐阜の己の屋敷で兄弟達に言った。
「おい、みなし児のわし等がだ」
「うん、お父の言った通りにね」
大蛇が応えた。
「おいら達は織田様に迎えられてね」
「家臣にして頂いてな」
「その働きでだよ」
「あっという間に百石取りだ」
「それどころかだよ」
大蛇はさらに言った。
「織田様いや殿が言われるには」
「ああ、千石だってな」
「夢じゃないとかね」
「信じられないね」
「食うものも着るものもな」
絡繰りは笑って言った。
「そういったものもな」
「不自由しないな」
「そうだ、白い飯だけじゃなくてだ」
「味噌でも何でも食える」
「そんな身分になった」
まさにというのだ。
「それで百石だ」
「そ、それが千石になったら」
あや取りはいささかどもりながら言った。
「どうなるか」
「ああ、羽柴殿なんてな」
煉獄はあや取りに応えた、水を飲みつつ言う。
「今や十万石を超えておられ」
「着られている服も絹」
「百姓が絹だぞ」
煉獄は驚く様に言った。
「だからな」
「わし等も」
「絹の服を着られるか」
「それはどうなるか」
「わし等のこれからの努力次第か」
「絹とか考えもしなかったよ」
風は興奮している声で言った。
「飛騨にいた時はね」
「ああ、わし等は服はこれでいいがな」
「そんなね」
「絹を買うなんてな」
「そんなことがね」
「想像も出来ないからな」
「本当にね」
まさにというのだ。
「十石から百石になって」
「千石になんてやんす」
煙も言ってきた。
「果たしてどうなるか」
「目指すか、それにな」
煉獄は笑って言った。
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