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戦国異伝供書

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第百二十七話 橙から灰色へその十

 政の後は学問に励んだ、それが彼の日課であり。
 経典だけでなく和漢の様々な書も読んだ、だがその中で側近達に曇った顔でこうしたことを言った。
「近頃本朝に伴天連の者達が来ておるが」
「はい、南蛮から」
「そして来ておりますな」
「そして切支丹を広めていますな」
「その様にしていますな」
「別にその教えはよい」
 これ自体は構わないというのだ。
「しかしな」
「それでもですか」
「法主様はあの者達に思うところがありますか」
「左様ですか」
「うむ、あの者達はどうもな」
 曇った顔のまま言うのだった。
「他の教えを認めぬな」
「その様ですな」
「御仏の教えを否定し」
「また八百万の神も認めませぬ」
「どうやら」
「そうした教えですな」
「それはよくはない」
 顕如ははっきりと言った。
「実際に大友家ではそれで騒動になっておるな」
「主の大友殿が伴天連に改宗され」
「そしてですな」
「そのうえで、ですな」
「大友家の領地では寺や社を壊し」
「それが騒動になっていますな」
「争いはある」
 他の宗派とだ、顕如は言った。
「本朝にもな」
「はい、領地を巡ってです」
「荘園のそれを」
「それで僧兵同士がぶつかることもあります」
「これは古来よりあります」
「本朝でもな、しかしな」
 それでもというのだ。
「他の教えを認めぬなぞな」
「そんな考えはありませぬ」
「日蓮宗はやたら他の宗派に言いますが」
「それでも寺や社は壊しませぬ」
「そこまではしませぬ」
「何でも南蛮では宗派が違うからな」
 それでというのだ。
「殺し合いになるという」
「それだけで、ですか」
「それはおかしいのでは」
「同じ御仏の教えではありませぬか」
「宗派ごとに確かに仲が悪かったりしますが」
「それでも」
「殺し合いなぞじゃ」
 それこそというのだ。
「ないな」
「ですな」
「それは流石に」
「おかしなことです」
「無茶苦茶では」
「本朝は神仏という」
 顕如はこの言葉も出した。
「御仏だけでなくな」
「八百万の神も敬います」
「その様にします」
「だから神仏と言います」
「古来より」
「聖徳太子様からのことである」
 神仏を共に敬う様になったことはというのだ。
「それでいらぬいざかいがなくなっておる」
「ですが、帝は八百万の神の流れを受け継ぐ方にあられ」
「それでいて出家されもします」
「それが本朝であります」
「左様、そこで切支丹以外を認めぬなら」
 それならというのだ。 
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