戦国異伝供書
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第百二十七話 橙から灰色へその一
第百二十七話 橙から灰色へ
義久は全て話してから笑って言った。
「いや、今でこそ笑えますが」
「あの時はですか」
「まさに残念無念」
浅井長政に笑って答えた。
「その気持ちでした」
「そうでしたか」
「あの時上様が思わぬ速さで岩屋城まで来られ」
信長、彼がというのだ。
「瞬く間に我等を蹴散らしてです」
「高橋殿を救われましたな」
「そうされてです」
「島津殿もですか」
「これは終わったと」
その様にというのだ。
「思い」
「そしてですか」
「観念してです」
残念そして無念と思いつつだ。
「降った次第です」
「そして天下の政に入られましたか」
「左様です、ただ本能寺でことが起こった時は」
義久はこの時のことも話した。
「実はこれといってです」
「驚かれることはなかった」
「上様ならばです」
「難を乗り越えられる」
「そうされるとです」
その様にというのだ。
「確信しておりました」
「そうでしたか」
「はい」
こう長政に答えた。
「そして天下を乱す者がいても」
「倒されると」
「信じており」
「動されず」
「あの者達との戦にも入りました」
魔界衆とのそれにもというのだ。
「左様でした」
「そうでしたか」
「所詮あの者達は闇に蠢く者達、王道を知りませぬ」
「天下のそれを」
「それでどうして勝てるのか」
こう言うのだった。
「闇で蠢き企むだけの者達が表に出て堂々と戦えば」
「どうということはない」
「上様が勝たれることは道理でした」
「それでは」
「あの戦の時もです」
魔界衆との壇ノ浦での決戦の時もというのだ。
「全くです」
「負けるとはですか」
「思っていませんでした」
「そうでしたか」
「はい」
そうだと言うのだった。
「我々は」
「といいますと」
「弟達もです」
義久は自分の後ろに控える三人の弟達、義弘と歳久と家久も見て長政に話した。そこには確かなものがあった。
「闇の者達は闇の中では強いですが」
「光の当たる場所では」
「あの者達の世界ではないので」
光の当たる場所つまり自分達の世界はというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「あの者達の戦が出来ぬので」
「我等が勝つとですか」
「確信していました」
「そうでしたか」
「はい、あの時は」
義久の言葉は確かなもののままだった、その声の色で言うのだった。
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