レーヴァティン
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第百九十三話 武蔵入りその十二
「足せばいい、無理はしないことだ」
「ですか、無礼になりますが」
「それでもですか」
「いいですか」
「俺は只の将軍だ」
それに過ぎないという言葉だった。
「神でも何でもない、だからだ」
「それで、ですか」
「横を通ってもですか」
「仕事を止める必要がない」
「そうですか」
「仕事をしているのならな」
それならというのだ。
「いい、仕事の方が大事だ」
「ですか」
「そのまま田畑の仕事なり商いをですね」
「続けていいですね」
「見るのは構わないが」
それも一向にというのだ。
「しかしだ」
「それでもですか」
「仕事をすべきですか」
「上様が横を通られても」
「それでも」
「そして俺を見なかったり頭を下げなかったといってだ」
仕事をしていてというのだ。
「罰することもな」
「されないですか」
「それもされないですか」
「そうなのですか」
「それもしない、そんな法は定めていないしな」
これは最初からしていない。
「いいな」
「わかりました」
「ではその様にしていきます」
「我々も」
「その様に」
「ではな、武蔵に入るぞ」
これよりと言ってだ、そうしてだった。
英雄は仲間達にそれに多くの供の者を連れて武蔵に入った、その間横を通る者達に仕事はさせ続けた。自分よりもそちらを優先しろと言って。
第百九十三話 完
2021・1・8
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