ただひたすら走り
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「もう一つ凄いの手に入れてみるか」
「三百勝ですか」
「いってみるか」
鈴木のその目を見て問うた。
「そうしてみるか」
「まだ走って」
「どないや」
「やってみます」
鈴木も西本の目を見て答えた。
「それなら」
「そや、辛いけどな」
「まだ走ることですね」
「そうするんや、これまでずっと走ってきたしな」
入団以来そうしてきたからというのだ。
「あと少しな」
「そうしてみます」
「そういうことでな」
「三百勝ですか」
「到達してみるんや」
こう言ってだ、西本は鈴木にさらに走る様に言い。
三百勝を目指させた、そして鈴木はまだ走り続け。
そして遂にだ、三百勝を達成した。鈴木はその時に周りに言った。
「走ってきたからや」
「だからやな」
「三百勝達成出来た」
「そやねんな」
「そや、プロ野球選手として成功出来て」
そしてというのだ。
「優勝も出来てな」
「三百勝出来た」
「全部走ってきたから」
「それでか」
「そや、ほんまにずっと走ってきたからや」
それで鍛えてきたからだというのだ。
「それでや、それでな」
「そのことを忘れんな」
「三百勝達成しても」
「それでもやな」
「そや、そうするわ」
こう言ってだ、鈴木はまた走った。彼は引退するまで走り続けた。
鈴木啓示が練習の時誰よりも走ったことは球史に残っている、そして三百勝を達成出来たことも走ってきたからだと自分でも言っていることも。
走ることがスポーツでどれだけ大事か、そのことは言うまでもないが鈴木はそれを証明してみせたと言えるだろう。日本のプロ野球史に残る逸話の一つである。
ただひたすら走り 完
2020・12・14
ページ上へ戻る