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仮面ライダーディザード ~女子高生は竜の魔法使い~

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epic3 増殖!?植物人間

土曜日午後7時45分、城北駅北にある花屋「きたくら」。
今、店主の北倉 蘭が店のシャッターを降ろし、共同経営者で夫の圭太と共に店内の整理をしていた。

「今日もお客さんの笑顔が見れて、本当によかったね、蘭。」
「そうね、ここ最近世間の景気が悪くて沈みがちだから、少しでも元気を取り戻してもらわなきゃ。」

彼女の願い…それは自身が育てた花で、みんなの笑顔を取り戻してあげたい事。
そのために、彼女は長年の夢であった花屋を数ヶ月前に開いたのである。
しかし、ホムンクルスは彼女の願いをも欲望としてとらえ、踏みにじろうと歩み寄る。

『女よ…。』
「誰?」
「何だ?今の声は。」
『貴様のその欲望、我にささげよ!』
「え、それどういうk…。」

謎の声に蘭は一瞬たじろぎ辺りを見回したが、声はするものの姿が見えない。
目に見えない者への焦りと緊迫感が、次第に蘭を追いつめてゆき。

『問答無用!…もらうぞ、その体!!』
「あぁっ!!…う…うん…。」
「蘭?…蘭!どうした、蘭!」

やがて、何者かの手により蘭の意識は徐々に遠のいてゆき…ついに蘭はホムンクルスに支配されてしまった。
圭太は何があったのか理解できず、おろおろするばかり。

『女の体はいただいた…さらばだ!』
「ら、蘭!らぁぁぁぁぁん!」

そして、圭太の叫びもむなしく、蘭に憑依したホムンクルスは…まるで血のように輝く月夜の中、いずこかへと姿を消した。



翌日の日曜日7時30分。
いつもならまだ寝ているはずのエリカがめずらしく早起きしていた。
そして朝食を作るためにリビングを通りかかった時、テーブルの上に見慣れぬ箱が置いてあるのを見つけた。

「あれ?あの箱…。」

いつ誰から送られてきたのだろうかわからぬその小箱からは、かなりの魔力が発生しているらしくエリカはディスクを起動させると、すでに起きているマギカドラゴンと共に分析を開始した。

「これって、ひょっとしたら…。」
『うん、魔法石だよ。しかもかなり純度の高い物だね。』

この小箱は送り主こそ記されていなかったが、包みに記された刻印からしてサラの親戚か誰かが送ってくれたのだろう。
丁度そこへ大きくあくびをしながらサラが降りてきたので、エリカは事情を説明する事に。

「ふわぁ~、おはよう。」
「あ、先輩…おはようございます。実は、かくかくしかじか。」
「これこれうまうま…なるほど、確かに箱からすごく強力な魔力を感じるわ。ちょっと待って、今箱を開けるから。」

すると、サラは食い入るように小箱をながめ、そしてペーパーナイフを棚から取り出すと、包みをきれいに切り取り箱のふたを開けた。
中に入っていた魔法石はクリムゾン・レッドをした見た目にも美しい逸品であり、そこから放たれる魔力に二人は圧倒されっぱなしであった。

「はぁー、きれいですね!真っ赤な夕日の様で…。それに、魔力も相当の物ですよ!」
「そうね、この魔法石でリングを作ったら…何だかすごいのができそう!」
「えぇ、そうですね。では先に朝食を用意しますので、食べ終わってから…。」
「何だか創造意欲がわいてきた!…私、急いで新しいリングを作るから朝食は入り口の方に置いといて!」
「あ、はい。」

これにはサラもかなり刺激されたらしく魔法石を手にするや錬金の間に入り、新たなリング作りに入った。



それから数十分後、一体のホムンクルスが廃屋にある地下駐車場で巨大なつたをうねらせ、一人魔力をため込んでいた。
見た目は胡蝶蘭(こちょうらん)に似てはいるが、中央にはゲートである仮面をつけた女性…上倉の頭が出ており不気味さをかもし出している。
そしてつた状のムチが両腕にからまり、樹木を思わせる体は細く華奢である。
彼女の名は、グランオーキッド。
ホムンクルスには珍しい植物型である。

『…古代の世界より眠りし悪しき大地の精霊よ。我に宿りて力となれ!』

グランオーキッドは手にした一振りのナイフで自らのつたの一本を切ると、その先端を下にあるコンクリートの地面に突き刺し魔力を送り始めた。
するとどうだろう、突き刺された地面からつたがあふれ出し、一体の人型をした物体を形作っていくではないか。
完成した物体…プラントマンは数分のうちに10体が生まれ、グランオーキッドの命令を待つ。

『おぉ、わが愛しき子供達よ。私の話を聞くのだ…。』



キイィィィィ…ン。

その頃、出来上がった朝食を錬金の間に運んでいたエリカは、ホムンクルスの反応を感知したと同時に運んでいた朝食を錬金の間の入り口横に置くと、サラに一声かけホムンクルスのいる場所へと走り出していった。

「先輩、敵が現れました!」
「うん、私も感じた。…敵は魔力からしてかなり手強いと思うわ、気をつけて!」
「はい!」



一方、グランオーキッドは町中にプラントマンを率いて現れていた。
体内にある禍々しいオーラを放出しながら、グランオーキッドは自分の子供…プラントマンに命令を下す。

『さぁ息子達よ、町中を暴れ回りなさい!!』

プラントントマンは町中のあちこちに散っていき、そこで暴力の限りを尽くしていた。
ある一体は信号機をつたでショートさせ、またある一体は通行人をつたで身動きがとれない様にし、更にある一体は車をつたでしばり上げて持ち上げ叩きつけたり…と、やりたい放題であった。

『私のかわいい子供達よ、存分に暴れなさい!!』

すると、プラントマンの一体が何者かの銃撃を受け粉みじんに砕け散る。
誰だ、と反対の方を向くとマシン・アバタールにまたがりディザーソードガンを構えたエリカの姿があった。

「そこまでです!抵抗するのはやめなさい!」
『あれが、竜の魔法使いなのか?…どんな輩かと思えば、まだ子供じゃないか。』
「黙りなさい!…町に危害を加える者は、許すわけにはいきません!!」

エリカはドライバーオンリングでディザードライバーを出し、すかさず左手中指にリングを装着後ドライバーを操作し、左手をふれディザードに変身した。

『オーケィ・ユータッチ・ヘンシーン!…ディザード!プリーズ!!ディーディー、ディーディーディー!!』
「イッツ…ショータイム!!」
『ふん、余裕でいられるのも今のうちよ!さぁ行きなさい子供達、竜の魔法使いを倒すのよ!』

残り9体になったプラントマンがディザードに殺到していくが、ディザードはディザーソードガンをソードモードに組み直し目の前にいた数体を手早く斬りつけて倒し、更にプラントマンが放ったつたも軽くジャンプして避ける。

「…はっ!」
『キシャアァァァァァッ!!』

プラントマンも必死になってつたをからませようとふり回していくが、それもディザーソードガンにより逆に斬りつけられてしまった。

『全く、何をやってんだい!』

グランオーキッドは腕のつたを槍に可変させて振るい回しディザードを何とか足止めしようとしたものの、さすがに剣さばきが早すぎてとらえる事ができない。
いやむしろ、何かをねらっているかの様に振り回しているとしか思えず、グランオーキッドは攻める手をゆるめなかった。
やがて全てのプラントマンが倒され、残るはグランオーキッドのみ。

「さぁ残るは…あなただけです。覚悟はできましたか?」
『それはこっちのセリフさね。まだ何も気がついてないのかい?』
「えっ!?」

ディザードが改めて足元を見るが、そこにあるのはプラントマンの残骸だけで後は何もない。
だが、その残骸こそがくせ者であった。
何と、その中から芽が伸び始め…プラントマンが増えていくではないか。
さすがのディザードも計算外だったのか、次々と増えていくプラントマンにおどろくばかりであった。

「こ、これは!」
『見たか竜の魔法使い。これが私の子供達の力さね!』

そう、プラントマンは体内に種を内蔵しており…何らかの手段で倒される事により種が飛び出し、自己増殖するのである。
その種の数は、一体につき5つ。
つまり、今現在プラントマンは50体いる事になる。

「…なるほど、こういう仕掛けになっていたのですね。」
『そう、私の子供達は優秀よ。あなた以上にね!!さぁ子供達よ、行きなさい!!』

グランオーキッドが右手を上げ進軍を指示するや、プラントマンは自分の腕から作り出した槍や剣を振りかざし再度ディザードにせまる。
が、ディザードはディザーソードガンをガンモードに組み直し、リングを右手中指に装着後手形を開きふれた。

『カモン・タッチング・シューティング・ゴー!…ライトニング・シューティング・ストライク!!』
「これで、どうです!」

ライトニング・バレットが発動し、目の前にいるプラントマンに命中、そのことごとくをなぎ倒していく。
しかし、命中したのは20体程…しかも最悪な事に残りのプラントマンはディザードの背後に素早く回りこんでいたため、死角から攻撃されダメージを受けてしまったのだ。

『キシャアァァァァァ!!』
「きゃあっ?!…くうっ。」

大したダメージではなかったものの、やはり数で押されてはディザードの方が分が悪い。
状況をつかんだマギカドラゴンは無理をせず退却するようディザードに提言するが、彼女としては早めにプラントマンを倒してグランオーキッドを倒したいため、引く事ができなかった。

『エリカちゃん、ここは一旦引いて体制を立て直そう。このままだと魔力切れで身動きがとれなくなる恐れが!』
「ですが、ホムンクルスにつかまっているあの人はどうします?」

そう、実はディザードにはもう一つ引けない理由があったのだ。
なぜなら、戦闘中にグランオーキッドの花の中央にいる上倉から出る、かすかな思念波を感じとっていたのだ。



誰か、助けて…私を救って…。

そして植物を…花を悪用する怪物を、倒して…。



その心の声を聞いてしまっては、彼女としても引くに引けないのである。
マギカドラゴンとしても、彼女の思念波を受けた以上何とかしなくては…と思っていたが、状況が状況なだけにまず一旦退却し体制を整えなければ、ホムンクルスにつかまっている彼女を助け出すどころか逆に自らのピンチを招いてしまう。
何より、リングがまだ完成していない事もあり、なおさら無理をさせる訳にはいかなかったのである。

『確かにわからなくもないけど、リングが完成してからでも遅くはないよ。…彼女なら大丈夫、まだ生体反応はあるから。』
「では、せめて…せめて一矢だけは報わせて下さい。退けるだけならできるはず…!」
『わかった、そこまで言うなら後はまかせるよ。ただし彼女だけは傷つけないでね。』
「大丈夫、絶対にあの人を傷つけたりはしませんから。」

が、グランオーキッドはディザードがとまどっているスキを突いて右手を高々と上げ、何かを指示していた。

『今です、子供達よ!力を合わせて合体しなさい!!』
『『『キシャアァァァァァッ!!』』』
「!?…一体何を?」

するとどうだろう、3体のプラントマンが互いにからみ合って融合し巨大な植物人間に姿を変えていたのだ。
その体躯はあまりにも巨大すぎて、ディザードも思わず見上げる程だ。

「あぁっ!!」
『こんな裏技があったとは…。』
『あっはっは、私の子供達もなかなかやるだろう?…さぁ、行きなさい!そして町を破壊するんだ!』

オォォォォ…ン。

その巨大植物人間…プラントマン・ギガは町を破壊しようと、その巨体をゆっくりと動かし進軍する。
新手が現れたのを見てディザードは被害の拡大を防ぐべく、リングを変更しディザードライバーの手形を操作しリングをふれさせた。

「Pちゃん、お願い!」
『フェニックース!プリーズ!!』


魔法陣が空中に現れ、中からミニフェニックスが勢いよく降下しディザードの横に並んではばたく。
ディザードはミニフェニックスに「町に向かった巨大植物人間を止めて!」と命じ、ミニフェニックスもディザードを助けるべく町を破壊しようとしているプラントマン・ギガに向かって飛び立っていき、火炎弾で攻撃を開始した。

「これで足止めができれば…。」
『ふん、無駄な事を。…まぁいい、私の子供とあなたの小鳥。どちらが強いか、見ものさね。』
「Pちゃんは強いです、負けるはずがありません!」

ディザードはディザードライバーを操作し、左手中指にリングを装着後手形にふれナイトスタイルに変身するや電光石火でプラントマンの頭上を踏みつけながらグランオーキッドに迫っていた。
もちろん、途中で右手中指のリングも新しく変更したのは言うまでもない。

『ナイト!プリーズ!…セイバーセイバー、セイヤーセイヤーセイヤー!!』
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
『ギイィィィィィィッ!!?』

そして、渡り終え着地すると同時に右手を展開済みのディザーソードガンの手形にふれ魔法を発動させ、グランオーキッドを横一文字に斬る。

『ソニック!プリーズ!!』
「これで、どうです!?」
『がはあぁぁぁぁぁっ!!?』

胴体の真ん中からザックリと斬られ、ひざを突くグランオーキッドにさすがのプラントマン達も動揺の色を隠せず、すぐに彼女の近くへと集まってきていた。
ソニックリングは衝撃波を飛ばす以外にも、刃に付加する事で振動を直接相手にたたき込み、切れ味を増す使い方もあるのだ。
が、グランオーキッドの体は衝撃波をもはね返す程に頑丈なのだろう…数秒後にゆっくりと立ち上がるや、『みんな、引き返すよ!』の怒声と共にディザードをにらみつけ、プラントマンを率いて退却していった。
ちなみに、プラントマン・ギガとミニフェニックスとの戦いは、火炎弾のみで押していたミニフェニックスが最終的に勝ち、プラントマン・ギガは完全に燃え尽きて大量の灰になっていた。

「結局、あの人を助ける事ができませんでしたね…。」
『まぁ、仕方がないよ。…僕達もミニフェニックスを回収して館に帰ろう、リングが完成しているかもしれないし。』

ディザードはミニフェニックスを呼び戻し魔法陣に収納すると、変身を解除しエリカに戻り現場を後にしようとしていた。
が、ある男に声かけられた事により、エリカは一瞬足を止めた。
そう、蘭の夫の圭太である。

「あのー、すいません。」
「!?…はい?」
「あなたが噂の竜の魔法使い…ですか?」
「え…あ、はいそうです。」

エリカはいきなり声をかけられたため少しびっくりしていたが、落ち着きを取り戻すと素直に対応した。

「そうですか、あなたが…私は、城北駅の近くで花屋をやっている北倉と言います。」
「北倉…あの有名な花屋さんですか!?」
「はい。実はさっきの戦いを遠くから見ていたのですが、あの怪物の頭部が何となく私の妻に似てたので、まさかと思って…。」
「あのホムンクルスと、何か関係があるのですね?」
「ええ、実は…。」

圭太は、昨夜店内で起こった出来事を事細かにエリカに話した。
彼の話を聞く度に、エリカはグランオーキッドから聞こえていた思念波の事を思い出す。

「…なるほどそうですか、あのホムンクルスに奥さんがつかまっているのですね。」
「お願いします、竜の魔法使いさん。私の妻を…蘭を、助け出して下さい!」
「蘭さんと言うのですか、素敵な名前ですね。…実は私も先程の戦いで、蘭さんの助けを求める声を聞きました。私にまかせて下さい、何とかしてみましょう。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

何としてでも蘭さんを助けて、圭太さんの元に帰してあげたい…エリカの気持ちはますます加速していくばかりであった。



そして時間は過ぎ…午後6時27分。
エリカはキッチンでサラの好物であるチキンのクリーム煮を作っていた。
彼女の料理の腕はプロ級であり、本気を出せばフルコースまでやすやすと作ってしまう程である。
エリカはクリームの味見をし、塩とコショウで調整してからさらに味見する。

「うん、あとはブロッコリーを加えてひと煮立ちするだけで完成です。」
『本当にいい香りだね。これならサラちゃんも喜ぶよ。』
「ふふっ、ありがとう…マック。」

とそこへ、いいタイミングでサラが二階から降りてきて、出来上がった料理を見て驚きの声をあげていた。
なぜなら、エリカはクリーム煮だけでなくシーザーサラダにオニオンスープまで、ついでに作っていたのだから。

「あ、先輩。ちょうど夕ご飯が出来上がりました。」
「えっ、これ…エリカちゃんが作ったの!?すごーい!」
「あ、はい。早く席に着きましょう、クリーム煮が冷めてしまいますよ。」
「そうね、ではいただきましょう。」



夕飯を終え、二人がリビングでくつろいでいた時…サラはポケットから出来上がったばかりのリングを二つ取り出し、エリカにそれを渡した。
一つ目のリングには口から火を吐くドラゴンが彫られており、二つ目には交差する二振りの斧と中型のシールドが彫られていた。

「あ、そうだ。エリカちゃん、今朝作ったリングが完成したわ、これよ。」
「これが新しいリングですか…何だか燃えるような力が湧いてきます!」
「それは『ブレイズ』、新しい属性のリングよ。斧が交差しているリングが『ルーク』、重装甲が売りのスタイルに変身できるの。使いこなせば心強いわ!」
「先輩…ありがとうございます!」

これで蘭さんを助け出せる…エリカは新しい二つのリングを手に、改めて誓うのであった。


 
 

 
後書き
次回、epic4「聖火…願いを炎に託して」 
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