MOONDREAMER:第二章~
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第三章 リベン珠
第13話 THE LUST 2/4
ドレミー・スイートとの戦いの最中、いつもの悪癖により変なテンションとなっていた勇美を嗜めた鈴仙。
対して、空気の流れが変になってやるせなくなっていたのはドレミーも同じであった。
「全く、勇美さんはハメを外しすぎですよ……」
そう辛辣な指摘をするドレミーの準備は既に整っていたようである。彼女は見事に炎の馬を乗り、統率を完了していたのだ。
炎の馬は鈴仙の手によりあった暴走状態から一転、非常に落ち着いた雰囲気を見せていた。まるで、心の拠り所を得てその気持ちに力強さを手に入れたかのようである。
「さて、この状況がどういう事か分かりますか?」
馬に騎乗し、どこか威圧的な雰囲気を纏ったドレミーはそう挑発的に二人に言った。
「ええ、分かります。サービスシーンカットという、万死に値する重罪という事がですね!」
……完全には戻ってなかったようだ。
「勇美さん、もう一回幻視調律浴びておきます?」
「……ごめんなさい、調子に乗りました」
勇美は素直に謝っておいた。鈴仙の狂気の瞳はそう何度も浴びてはいけないものだとさすがの彼女とて分かる事だったからだ。
閑話休題。今の状況が何を意味するかは二人にも分かっていたのだ。
「もう、そのお馬さんには狂気の瞳は通用しないという事ですね……」
「そういう事です」
勇美の言葉にドレミーは嬉しそうに返した。物分りが良いという事だけでなく、漸く勇美が真剣になってくれたという事に対してでもあった。
「……参りましたねぇ」
勇美はそう現状を見返して呟く。鈴仙の狂気はとても頼りになるものである。それが今騎乗しているドレミーには通用しない。一体どうしたものか。
勇美がそう考えあぐねている間にも、ドレミーはとうとう行動を始めたのであった。
「ハイヨー!」
そう掛け声を出すと、彼女の馬はそれに応えて嘶き、そして走り始めたのだ。
だが、勇美達には直進しては来なかったの。彼女はその馬捌きで以って、勇美達の周囲をぐるぐると回り始めたのだ。
「あれ、攻撃して来ない?」
勇美はその状況に首を傾げる。一体何故直接向かって来ないのかと。
「甘いですよ勇美さん。体当たりだけがこの馬の得意分野とは思わない事です♪」
言うとドレミーは、走る馬に跨ったその状況で、掲げた手からエネルギー弾の放出をしたのであった。
「「っ!」」
これには二人は息を飲んでしまった。そして、その手があったかと驚愕した。
人型の者の速度からから弾を放つなら、即ちその砲台は人の速度の存在に過ぎないという事である。
だが、こうして馬の速さに乗って放たれるとなれば、その砲台自身が謂わば馬速という事になるのだ。
つまり、この戦法は人型の者だけでは扱えない、立派な人馬一体の攻撃と言えた。厳密にはドレミーは獏であるものの。
故に、鈴仙の狂気の瞳では対処出来ないという事である。エネルギー弾だけなら、人型の者が発射するが故に人の速度で扱われる物に対処出来ると言えよう。
だが、こうして馬の速さで移動しながらとなると、当然相手にするのは馬という事になるのだ。あくまで対処が容易なのは人の速さの者であるという狂気の瞳の盲点を突かれた結果と言えよう。
そして、もう一つの事に二人は気付くのだった。それは、弾幕ごっこの為に広げられたこの空間そのものである。
確かにこれは皆が存分に戦えるスペースの確保の為である。だが、こうしてドレミー自身が馬に乗って戦うに敵う空間の確保があった事も否定出来ないだろう。
実にしたたかな存在だと鈴仙は思った。やはり、夢の中で一番警戒するに値する獏が故だと改めて感じるのだった。
こうして二人はドレミーの技術と策略によって追い詰められていったのだった。
しかし、ただ追い込まれる勇美ではなかった。何せ、彼女もしたたかさでは負けない存在であったからである。
「鈴仙さん、ここは私に任せて下さい」
「勇美さん、何かいい考えがあるの?」
鈴仙は期待を込めて勇美に聞きながら思う。やはりこの子は基本的に頼りないながらもここぞという時に見せてくれる存在だと。そして、ここで彼女は仲間の大切さを改めて実感するのだった。
「ええ、見ていて下さいね♪」
そう言って勇美は得意気に前へと踊り出て、いつも彼女に力を貸してくれる神々に心のメッセージを送った。
「『マーキュリー』様に『ドライアード』様、お願いします」
彼女が想いを送ったのは水の神に、ここにて初めて呼び掛けられる木の精霊だった。
この二つの存在の力が勇美の分身たる機械の『マックス』へと取り込まれて行く。それは彼女の関係者なら見慣れた光景だろう。
だが、ドレミーは当然それを見るのが初めてであったのだ。故にさすがの夢の世界の支配者たる彼女とて驚愕に値するだった。
「……何て珍しい能力ですか。夢の世界でもそうそうお目に掛かれるものではありませんよ」
「しかし」とドレミーは言い、続けた。
「それでもこの今の馬と一体の私の攻撃から逃れられはしないでしょう」
言いながらドレミーは勇美達に再度狙いを定めて、照準を絞るように彼女達を見据えるのだった。それを馬に乗りながらであるから、ドレミーが如何に器用かが伺えるというものだろう。
「では、お覚悟願いますよ!」
そうドレミーは勇ましく言うと、いよいよを以て勇美と鈴仙にその狙いをきっちりと定めたのである。
だが、最早時遅しだったのである。
「もう準備は出来ていますよドレミーさん。【水蔦「ハイドロソーン」】♪」
言って勇美は指とパチンと鳴らせ……はしなかったのだ。やはり勇美では鳴らないのだった。
「ううう……、鳴る人が羨ましいです」
「勇美さん、それは体質だから仕方ないですよ」
項垂れる勇美に、鈴仙はまるで哀れな者を見るかのような眼差しで以て慰めるのだった。
だが、そのようなしょうもないコントが繰り広げられている最中であったが、確実に勇美のスペルは発動されていたのだった。
突如として、透明な見えない床が破損し、そこから無数の触手がせり出して来たのである。しかも、それはただの触手ではなかったのだ。
その触手は、何と水で出来ていたのだ。本来液体で形を持たない水が植物の触手のような形態を取っている。この光景は目を引くものであろう。
そして、それを見たドレミーは勇美が『それを繰り出した』真意を察して驚愕する事となる。
「まさか……!」
「その読みは正しいですよ♪」
そう勇美が言うと同時に、見えない地面を突き破った触手は這うように地を突き進んで行ったのである。そして、狙うは当然ドレミーが駆る赤き炎の馬の足下であった。
「しまっ……!」
ドレミーは馬にそれから逃げるように指示を出し、素早く走り出し触手を振り切るかのように奔走する。
だが、それは無駄な足掻きなのであった。触手は地面を走り、そして当然馬の移動は地を駆けるものなのだ。天馬──ペガサスでもない限り空を飛ぶなんて芸当は出来ないだろう。
激しい水飛沫を上げながら触手は逃げ回る赤馬へと差し迫り、とうとうその身を捉える事に成功するのだった。
火が水を浴びれば……その答えは正に火を見るより明らかであろう。いくら赤馬が夢の世界の炎から生み出されたとは言え炎は炎。故に炎の宿命によりその身をみるみる内に水にかき消されていったのだった。
そして、赤馬は完全にその身を触手の水に飲まれて失われてしまったのである。
「くっ……」
苦悶の声を苦々しく出しながらも、宙で体制を整えるドレミー。その判断力はさすがは夢の世界の支配者を務める者といった所であろうか。
とうとう床に足を付けてしまう事になったドレミー。つまり、俊足の移動手段を失い人型の移動速度に甘んじる事となった訳である。
その好機を逃す勇美ではなかった。
「ドレミーさん、行きますよ。触手達よ、彼女も捉えちゃいなさい♪」
勇美の言葉に呼応するかのように触手はドレミーへと差し迫っていった。だが、ドレミーもそう易々とはやらせはしなかったようだ。
「悪夢の馬は倒されましたが、余り調子に乗らない事ですよ」
そう言いながら彼女は新たなるスペルカードを取り出す。
「【夢符「藍色の愁三重夢」】!」
その宣言の後、彼女は右手を眼前に翳すとそこに藍色の如何にも冷たそうな色のエネルギーが集まっていき、徐々にある形に造り上げられていく。その形は……。
「『銃』……?」
勇美が呟く通り、ドレミーの手には銃の形となったエネルギーが握られていたのだった。
しかも、その銃の見た目は非常に奇抜なものであった。まず、藍色の氷を削り出して彫刻にしたかのような精巧な外観、それに加えて砲門が三つもあるというまずこのような銃は現実では見ないだろういう代物である。
その、如何にも夢の産物といった様相の銃の引き金をドレミーは引いたのである。
「喰らいなさい、『スリー・フリーズ』」
掛け声と共にドレミーの銃の三つの銃口から一気に冷気の籠もった光線が絞り出されていった。藍色に凍えるその光線はこの夢の世界の空間の外観もあって、非常に幻想的であった。
その光線が向かった先は、当然のようにドレミーに迫っていた水の触手であった。
「簡単な問題いきますよ。火は水で消えますが、水は冷気に当てるとどうなるでしょうか?」
「……」
ドレミーの質問提議に勇美は無言を貫くものの、彼女にもその答えは簡単に分かるのだった。ただこのタイミングでその手段を容易く用意されてしまった事に言葉を詰まらせていたのである。
勇美が答えるまでもなく、三本の冷凍光線は見事に水の触手に当たった。後はご察しの通りであろう。
辺りにピキピキと軋むような、割れるような音が響く。そう、見事に水の触手は氷に包まれてその身を固めてしまったのだった。
「どうですか、このスリー・フリーズのお味は?」
「ええ、正直言って参りました」
ドレミーの挑発的な物言いにも、勇美は正直に今の自分の気持ちを表した。
さっきまでは炎を操っていたと思えば、今度は氷か。そう思いながら勇美は彼女の『読書仲間』へと想いを馳せていた。このような状況に対応する為に、もっと彼女とも弾幕ごっこをしておくべきだったかと些か後悔するのだった。
だが、後悔先に立たずといったものだろう。そう勇美は思い直す事にし、今のキャパシティの中でドレミーに打ち勝つ事を考えるのだった。
それに勇美には今、鈴仙という仲間がいて戦っているのは彼女一人ではないのだ。だから、勝算というものは必ずあるだろう。
そう勇美が思っている中、ドレミーは言う。
「さて、あなたの出方も封じた所ですし、次に行かせてもらいましょう」
言うと彼女は今しがた生成した氷の銃を解体して、元の藍色の冷気に戻し再び無へと還したのだった。
「あれ? それで攻撃して来ないんですか?」
今こそ追撃の絶好の機会だというのに。勇美はその事に首を傾げる。
「それでもいいのですが、ちょっと面白いものをお見せしましょうと思いましてね……」
何やら意味ありげな言葉を紡ぎながら、ドレミーはクスリと奥ゆかしく笑みを湛えていた。
「その前に、っと」
ドレミーがそう言って両手を広げると、彼女は光に包まれたのである。そして光が収まると、そこには『元』の姿のドレミーが存在していたのだった。
即ち、あのお色気ネグリジェ姿のドレミーが再誕していたという事である。
「ドレミーぃさぁぁぁん♪」
当然これには歓喜しない勇美ではなかったのだった。一度失われた物が再びその手に戻って来る事、人が最も喜びを感じる概念の一つであろう。
「元の姿に戻ってくれたんですねぇぇぇー!!」
勇美のその鬼気迫る程の勢いにも、ドレミーは動じずに言う。
「ええ、まあ。夢の世界の住人という事もあって、私にはこの姿がおあつらえ向きですからね」
それはさておき、とドレミーは続ける。
「こうして馴染む姿に戻った事ですし……次行きますよ」
言ってドレミーはまたしてもその開いた胸元からスペルカードを取り出したのだ。何気に彼女自身、先程のカウガール姿は窮屈であり、こうして開放的な格好の方が馴染むようである。
その行為が勇美にいらぬ刺激を与えてしまっているのだが、それはドレミーの天然か故意犯かどちらであろうか。
それはともあれ、彼女は取り出した新たなスペルカードの宣言をする。
「【夢符「刈安色の迷夢」】」
すると、突如として周りの空気が変わったのである。何が起こるのかと身構える二人。
次の瞬間、地面がムクムクと蠢くと、そこから一気に草が出現したのである。
それにより凍り付いた水の触手は瞬く間に砕けてしまったのだった。その光景に勇美は、不謹慎ながらも目を奪われてしまう。
「綺麗……」
勇美は思わずそう呟いた。草の息吹きにより砕けた氷がキラキラと宙を舞う様は、正に芸術的であったからだ。
「美しさを追求する弾幕ごっこですからね……所謂ファンサービスさせて頂きましたよ」
「えっ!? ドレミーさんってそんな『相手に希望を見出ださせて、それを完膚なきまで打ち砕く』ような事が趣味だったんですかぁ!?」
「いや、そのファンサービスではありませんから安心しなさい」
そのファンサービスは余りにも狭義的な意味だとドレミーはツッコミを入れておいた。
「さて、お喋りはこの辺にしておきましょう。──周りを見てご覧なさい」
「「!」」
そう言われて勇美と鈴仙は気付いたのだった。この領域全体が高くそびえる草々で覆われてしまっていたのだ。
「どうですか? この迷夢のお味は?」
「すごく……高いです……」
「またそういう事いいますか!?」
どうしてこの人間の発想はこうも卑猥な話題に行き着くのか。ドレミーは呆れるしかなかった。
「ごめんなさいね、この子いつもこうなんですよ……」
取り敢えず鈴仙は、申し訳なさそうに謝っておく事にした。
「あなた……色々苦労しているのね……」
ドレミーは鈴仙に同情しておく事にした。そんな彼女の目には心なしか鈴仙の耳のしわしわくしゃくしゃ加減がより一層深く見えたのだった。
それはさておき、今の現状へと話を戻そう。勇美達の周囲を囲んだ高い草々。正にそれは『迷路』のようにそびえ立っているのだった。
加えて、ドレミーの姿は見事にその中へと潜り込んでしまっていた。彼女はこのスペルを謂わば自然のバリケードとして利用したという事であった。
そして、この迷路性を利用して、相手が行き先を迷っている内に草の中から攻撃するというのがドレミーの狙いだろう。
しかも火、氷に続いて今度は草か。いよいよ以て彼女の器用さには警戒しないといけないだろうと二人は思うのだった。
「これは……非常に厄介ですねぇ……」
その事を考慮してそう呟く勇美と、傍らにいる鈴仙の表情には……何故か笑みが浮かんでいたのだった。
「……何がおかしいのですか?」
その異様な光景に、ドレミーはそう聞かずにはいられなかったのである。それが、『負ける』側になる台詞であるのだが。
動揺するドレミーに対して、勇美は丁寧に答えていく。
「ドレミーさん、弾幕ごっこっていうのはですね、テレビゲームとは違うのですよ♪」
それは勇美の言う通りであろう。実際に戦う者はコンピューターを介してではなく、生身と生身でぶつかり合うのだから。ちなみに『原作』の弾幕ごっこはそのビデオゲームだというツッコミはここでは野暮というものだろう。
一頻りそう相手を窘めるように言葉を紡いだ勇美であったが、その具体的な答えを言動で示すのだった。
「鈴仙さん、何だかあなたにはこの旅の戦いで私のサポートばかりさせてしまって申し訳ないのですけど、今回もお願いしますね」
「いいえ、気にしないで下さい。私の狂気の瞳って、元々サポート向きですからね」
謙遜して言う勇美に対して、鈴仙はそれも仕方ないだろうと大らかな気持ちでして答えた。
「そう言ってもらえると肩の荷が降りるってものですよ。では、やりましょうか♪」
言うと勇美は、まず次なる神降ろしを行う。
「では、まず祗園様お願いします」
そう勇美が言うと、彼女の周りに力溢れる荒ぶる英雄神の力が集まってくる。
後は、鈴仙の出番である。
「鈴仙さん、続けてお願いしますよ」
「はい、任されました」
その息の合った掛け声の後、鈴仙は念じながらその瞳を閉じたのだった。そう、鈴瑚と戦った時勇美と力を合わせたあの瞬間と同じ行為をしたのである。
鈴仙のその行為が終わると、勇美の手にはある物が握られていたのだった。
それは、機械の柄を媒体として形成された目に焼き付くような赤で構成された光の刃であった。
「【繋符「ルナティックブレード」】ですよ」
勇美は今しがた出来上がったその剣の名前を口にする。そして、それを見ていたドレミーの脳裏に嫌な予感がよぎる。
「あなた、何を……。まさか!?」
「ドレミーさん、多分その予想は正解ですよ♪」
草に隠れているが、恐らく動揺の表情を見せているだろうドレミーに対して、勇美は意気揚々と言ってのけた。
勇美の準備は出来た。後は行動に移すのみであろう。そして勇美は迷わずその足を踏み込んだのである。
目指すは忌まわしく視界を遮るように生えた草の迷路の壁。そこへ目掛けて勇美はその赤き剣を振り翳すのだった。
「はあああっ!」
最初の内は人間の肉体故に、その精度には限界があった勇美。だが、彼女は今までの弾幕ごっこの鍛練により自分の肉体は鍛えられ、勿論人間の範疇ではあるがその精度は研ぎ澄まされているのだった。
故に、無駄のない動きで勇美はその『草刈り』を行っていく事が出来たのである。彼女の第一の振りは見事に草を捉えて、綺麗に刈り込んでいった。
「やはりそう来ますか!」
ドレミーはそう言いながら、驚きつつも納得している様子であった。
そう、これが勇美が取った戦法であり、弾幕ごっこがビデオゲームでない事の証明であり、非常に理に敵った攻撃と言えるであろう。
「ですが……」
だが、そう易々と相手に攻撃を許すドレミーではなかった。彼女は草の中からエネルギー弾を放ったのである。
そう、相手が弾幕ごっこがビデオゲームでない事に固執するならこちらもそれに応えるのみなのである。自分も相手にこれは単なる草刈りゲームではない事を教えるまでである。
だが、そのドレミーの機転に対して、勇美は至って落ち着いていた。
「私がそう来ないと思ったのですか?」
そう言いながら勇美はドレミーが放った弾を悠々とかわしたのである。それは勇美の驚くべき程の集中力と言えるだろう。
そして勇美はただ避けるだけではなかった。弾をかわしたその勢いのままに彼女は次なる斬撃を別の草へと繰り出したのである。
またしても草は引き千切れ、鼻を刺激する爽やかな香りを放ちながら無へと還っていった。
「やりますね、でもまぐれはそう何度もありませんよ!」
その勇美の奮闘に意表を突かれつつも、ドレミーは冷静に向き合いながら言う。
そして、再び彼女は弾撃を放ったのである。
「まぐれかどうか、その目で確かめてみて下さいね♪」
そう言って勇美は自分に迫って来た弾を、何の造作もないと言わんばかりに軽々と回避してみせた。そして、またしてもその行為の後に草を刈り込んでいったのだ。
この勇美の事のこなしっぷりは、正に彼女がまぐれでの会心劇を見せてはいなかった事の証明なのであった。
そして、一頻り草を刈り込んだ勇美は今が決める時だと勢いづいて言った。
「さて、草も粗方刈り込んだ事だし……てやっ!」
掛け声を上げて勇美は、剣を携えた状態である一点の草を狙ったのである。それは他でもない……。
「しまっ……!」
ドレミーがそう言い掛けた時には既に遅かったのだ。勇美が飛び出していった草の中には、正に彼女がいたからである。
「はあっ!」
そして、勇美は勇ましく手に持った仲間の力を借りた赤き光の剣にてとうとうドレミーのいるだろう茂みへと振りかざしたのだった。
瞬間、バサリと草が刈られる小気味の良い音がする。これでドレミーをやったのだろうか?
「……」
いや、無言になり違和感を覚える勇美のその態度が事を物語っていたのだった。──それはつまり、『手応えがなかった』という事である。
「どういう事……」
その勇美の呟きが辺りに響きながら、草の刈られた場所が開けて視界が見えて来たのだった。そこにあった光景を見て勇美は驚いた。
「ドレミーさん、そんな事が出来たんですね……」
驚きながらも彼女は敵が今しがたこなした対処に感心もしたのだ。
ドレミーがした事……、それは彼女の前方を満遍なくスライムのようなゼリー状の半透明の物体が覆い、勇美の剣戟を余す事なく包み込ませていたのだった。
「これで、追撃のチャンスは奪われたって事ですねぇ……」
そう言って勇美は敵の反撃に備える為にも、折角見出したドレミーから距離を取って体勢を整えたのであった。
「折角の止めのチャンスを奪ってしまって申し訳ないですね、そして距離を取ったのは英断ですよ」
もしこのまま斬り込んで来たなら、『これ』で絡め取ってしまおうという算段だったとドレミーは正直に勇美に打ち明けたのである。
「ああ、怖いですねぇ。でも、それって一体何なんですか?」
「いい質問ですね、それではお教えしましょう」
そう言ってドレミーは好奇心旺盛に積極的に授業に喰い付く生徒を相手にする教師のような心持ちで説明する。
「これは、生き物が見る『夢』のエネルギー体そのものですよ。私は夢の世界の支配者故に当然それも取り扱う事が出来るというものです」
「分かったような、分からないような、ですね」
勇美はポリポリと頬を掻きながらそう正直に打ち明けた。聞いて原理は分かったものの、それを当然のように操ってしまうドレミーの手腕には実感が沸かないのだった。
その言葉を聞きながら、勇美はチラリと相方の方を一瞥しながら言った。
「ごめんなさいね鈴仙さん、折角あなたの協力して作った攻撃をしておきながら決定打に出来なくて」
「いえ、勇美さんは気にしないで下さい。今回が駄目でも、まだ次のチャンスはあるんですから。その為には私は幾らでも力を貸しますよ」
「ありがとうございます、とても心強いですよ♪」
やっぱりこの兎さんと組んでいると、とても頼りになる。そう勇美は改めて思うのだった。
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