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戦国異伝供書

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第百二十五話 誘い出しその九

「龍造寺殿の御首を挙げられました」
「そうなったか」
「今こちらにです」
「その御首がか」
「送られています」
「わかった」
 義久は確かな声で答えた。
「その者には褒美は思いのままじゃ」
「取らせますか」
「うむ」
 まさにというのだ。
「そのことを約束する」
「それでは」
「そしてじゃ」
「はい、このことをですな」
「今叫ぶぞ」
「龍造寺殿の御首を挙げたことを」
「この戦勝った」 
 義久は確信を以て言い切った、戦の喧騒が響くその中で。見れば倒されていっているのは龍造寺家の者達だけだ。
「これでな」
「総大将の御首を挙げたからには」
「これでじゃ」
 まさにというのだ。
「よいな」
「では」
「そしてその叫びで龍造寺家の軍勢が動きを止めれば」
「そこで、ですな」
「さらに攻める」
 そうするというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
 旗本だけでなく他の者達もだった。
 大いに叫んだ、隆信の首を挙げたと。実際に彼の首は討ち取った者が義久の横で高々と掲げた。その首を見てだった。
 島津家そして有馬家の者達は大歓声を挙げ龍造寺家の者達は強張り蒼白になった。そしてその瞬間にだった。
 島津家と有馬家の軍勢は義久の命に従い攻めた、それでだった。
 主を討たれた龍造寺家の軍勢は散々に打ち破られ多くの者が討ち取られた。その首は何千にも及び。
 義久はその首達を見回して言った。
「耳川の時もかなりであったが」
「今もですな」
「討ち取った首が多いですな」
「かなりですな」
「全くじゃ」
 こう家臣達に話した。
「ここまで多くの首があるとはな」
「龍造寺殿だけでなくです」
「龍造寺家の多くの名のある御仁がおられます」
「流石に鍋島殿はおられませぬが」
「それでもです」
「これだけ多くの者を討ち取ったならな」
 それならというのだ。
「龍造寺家は傾く」
「左様ですな」
「それは間違いありませぬ」
「龍造寺殿もですし」
「主立った御仁達にです」
「何千もの兵もとなると」
「大友家と同じくな」
 まさにというのだ。
「もう傾く」
「ですな、ではです」
「もう龍造寺家も敵ではないですな」
「最早」
「この家も」
「そうなった、では討ち取った者達はな」 
 その彼等はというと。
「しかと弔うのじゃ」
「ですな」
「戦は終わりました」
「それならばです」
「敵であろうとも葬る」
「そうして供養も忘れぬ」
「それが武士ですな」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。 
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