教師への道を歩む
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ついに就任へ①
堂島さんの運転はお世辞にも丁寧な運転とは言えなかったけど無事に遠月学園には着けた。途中で何度か自分ここで死ぬのかと思ってしまったぐらい。本当に次からは堂島さんだけは迎えに来させないでくださいと総帥に言おうと心に決めた。
そして今は遠月の校門を潜り総帥が待っている場所まで向かっている。後ろには堂島さんがいるからか生徒たちからの視線が痛い。今は春休みに入っているけど生徒が一人も居ない訳でもない。なにか用で来てたり料理を上達させるためにとかで来てたりする。
「堂島さん」
「何だ?」
「さっきも言いましたけどサングラスは外してもらえませんか?」
空港の時も思ったけどこのサングラスで見られたら人は後退ってしまうぐらい怖い。僕は堂島さんだと分かっているけど分からなかったら怖くて後退ってしまうと思う。
「何でだ?これは案外、気に入っているんだが」
「いや、気に入っているのは良いんですけどそのサングラスの性でさっきから生徒が逃げて行っているのが分かりますか?」
「いや、只急いでいるだけだろう」
この人はこれだから面倒だ。自分が今、避けられている事実自体が分かっていないから。元々、鈍感なところもあるけどここまで鈍感だと何とも言えない。
「はぁ~...もうそれで良いですよ。これ以上言ったとしても結果は変わらなそうですしね。そう言えば、何で堂島さんは付いて来ているんですか?一応、僕も遠月の卒業生だから場所ぐらい分かっていますよ。それに堂島さんは遠月リゾートの総料理長何ですからあんまり長い間、ここにいるのはまずいんじゃないですか?」
遠月リゾートの中でもTOPの料理人が抜けた穴は絶対に大きいはずだ。早く戻ってあげた方が良いんじゃないか。
「大丈夫だ。今日は一日休暇を取ってるしな。俺も総帥に会って行きたいからな」
そんなやり取りをしているうちに総帥のいる場所に着いてしまった。その場所とは理事長室である。
四度ほどノックをし、中から「入れ」という声が聞こえ理事長室に入った。理事長室の中は勿論、綺麗に整頓されていた。そして如何にも高そうな椅子に座っているのが総帥。
外見もさほど変化が無い感じだった。
「相変わらず変わらないね、総帥。一応、お土産を空港で買って来たからどうぞ」
僕は右手に持っているお土産を総帥へ渡した。こういう時に空港で買ったと言っておかないと、後でこれ日本で買っただろうと言われるのは面倒だから先に言っておいた方が良いだろう。
「悪いな。.....って日本で買って来たんか!!フランスに行くと言うから頼んだのに..」
「総帥。悪いね。お土産を買うのを忘れてた。だから空港で買って来た」
総帥は少し残念そうな顔をしていたが少し経つと吹っ切れたのかいつもの顔に戻っていった。まあ、フランスに行くときにフランスでお土産を買ってくるって言っちゃったからな。
「それで堂島は何でこの場に居るのだ?」
「総帥の顔を拝見しに」
「嘘を付け。まあ、いいわ。それでは改めて芹野桜。君を遠月学園は歓迎する」
総帥は片手をこちらに差し伸ばしながら言った。
「ありがとうございます。これから精一杯頑張らせていただきます」
僕も片手を総帥の手と合わせた。
「それでも良く決心を固めてくれた。お主ならずっと断り続けると思っておったが」
「あんなにしつこく言ってきたらOKするしかないでしょ。それに自分がぶつかっている壁を壊すにはもう一度この場所に来なくちゃならないと思ったから引き受けたまでですよ」
遠月学園に居た頃も何度も壁にぶつかってきたけどここで色々と壁をぶち壊してきた。だからこの場ならもう一度...という想いを胸に僕はここに来た。
「でも、お主が来てくれてよかったぞ。別にうちの学園は教師の不足が起こっている訳ではないが、腕の良い料理人が何人いたとしても損になる事はないからのう。それにお主の悩みを断ち切れると良いのう」
「そうですね......」
「それでお主が担当する料理は「和食」だ」
「まあ、妥当でしょうね。僕の得意料理は和食ですからね」
乾に和食なら教えた事もあるから大丈夫だろう。
「本当は今日のうちに担当のクラスの話とかをしようと思ったが、お主もここに来てまだそんなに時間が経っておらんし堅苦しい話は後日に回すから学校を見て回ってきたらどうだ?お主が居ない間に変わったところもあるからのう」
確かにこれからこの学校で働くうえで知らない場所とかがあるのは不便になるかもしれない。なら今のうちに少しでも見ておいた方が良いかもしれないな。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
そう言って僕は理事長室を出た。その後は昔と変わっているところがないか校舎を見て回っていた。変わったところもあるけど変わっていないところもあったし色々とあった。そして第一調理室を見て出ようとした時に誰かが入ってくるのが分かった。誰かと思ってそっちに目線を映したが僕が来たのは今日が初めてなので誰かが分かる訳も無く見ていた。
「あれ...新しい先生か?」
入ってきた二人のうちに赤い髪の女子が僕の事を指差しながら言った。
「..うん。四月から和食の担当になる芹野桜です。よろしく!」
「.....芹野桜」
「司、知ってるのか?」
「多分、「無席の無冠」って呼ばれてましたか?」
おい、まだ残ってるのか。
「...まあ、そうかな」
「何だよ。司、何知ってるんだ?」
「少し前に昔の遠月について調べた事があったんだけどその時に見た事がある気がする。確か79期生の卒業生の中の一人で在学中は一度も十傑に入る事は無かった。だけど在学中の食戟の回数は350回。歴代最多でありその中での勝利の回数は349回、敗北の回数は1回という記録をたたき出した。対戦相手の中には元十傑だったり後に十傑になる人だったり様々だけどそれでも敗北したのは一回だけ。その一回の敗北を与えたのは四宮小次郎シェフだった。だが、後に四宮シェフと食戟を行った時は勝利を収めており四宮シェフとの対戦成績は3勝1敗という記録で終わった。だから学生たちは畏怖を込めて彼の事をこう呼んだ。「無席の無冠」。四宮シェフとの食戟に一度は敗北しているから本人は決してこの名前を認めなかったみたいだけど。だけど349勝しているのは歴史的にあり得ない。だから今でも知る人ぞ知る料理人なんだ」
長ったらしい説明をしてくれたけどそんな感じで書かれているんだ。そんな大した事をやった感じはしないんだけどな。それに少し大げさにしすぎている気がする。
「そんな大した人間じゃないさ。それはちょっと大袈裟な気がしますよ」
「こいつそんな凄い人なのか!!そうは見れないけど」
この赤髪かなり失礼だな。後輩にこんなに言われたことないぞ。遠慮知らずとはまさにこの事を言うんだな。
「...さすがに失礼だな。確かにそうは見えないかもしれないけど....」
案外、気にしているんだよな。他人から言われるのは初めてだけど自分では何度も思った事あるんだよな。
「..それより、これからよろしくお願いします!桜先生」
「まあ、よろしく!.....えーと君の名前は?」
「僕の名前は司瑛士。現第一席です。そしてこっちにいるのが現第二席の小林竜胆です」
「よろしくな~」
最初に出会った生徒が第一席と第二席だとはな。運命かね。
「...よろしくな」
それから少し会話をして司たちとは分かれた。
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