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戦国異伝供書

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第百二十五話 誘い出しその五

「沖田畷では迂闊に進めませぬ」
「そうですな」
「あの沼は慣れておらぬと」
「中々進めぬ場所ですな」
「はい」
 そうした場所だというのだ。
「ですから伏兵を置き」
「そしてですね」
「そのうえで戦えば」 
 まさにというのだ。
「まさにです」
「寡兵でもですな」
「有利に戦えますが柵をもうけ」
「そして繁みや海にも伏兵を置き」
「然るべき時に攻めれば」
 そうすればとだ、義久に話した。
「勝てまする」
「そうですな」
「では」
「はい、その様にして戦い」
 そしてというのだ。
「勝ちましょうぞ」
「そのこと島津殿にお任せします」
「采配のことは」
「もうそれで、それがしでは」
 有馬は自分で言った。
「とてもです」
「考えられませぬか」
「到底、ですから」 
 それでというのだ。
「ここはです」
「それがしに采配を委ねて」
「以後もです」
 この戦の後もというのだ。
「島津家に入りたいですが」
「そうして頂けますか」
「そうして宜しいでしょうか」
「そこまで言われるなら、ただ有馬殿は家臣ではなく」
 島津家に入ってもというのだ。
「客分ということで」
「遇して下さいますか」
「これからは、では」
「これからは」
「その様に」
「さすれば、龍造寺家は間もなく来るので」 
 それでとだ、義久はさらに言った。
「陣を敷き」
「後で伏兵を配して」
「そしてです」
 そのうえでというのだ。
「迎え撃ちましょうぞ」
「それでは」
 有馬は強い声で頷いた、そうして戦に勝とうと共に勝ち栗と打ち鮑そして昆布を口にした。そのうえで。
 陣を敷いた、その中でだった。
 龍造寺家の大軍を待ち受けたがここでだった。義久は龍造寺軍の動きを聞いて思わず眉を顰めさせて言った。
「馬鹿な、龍造寺殿ご自身がか」
「はい、強く言われて」
 報を届ける斥候が答えた。
「総大将でありますが」
「先陣を務められてか」
「ご自身が乗られる輿を先に出され」
 軍勢のそれにというのだ。
「進まれています」
「そしてここにもか」
「迫られています」
 そうだというのだ。
「この沖田畷に」
「信じられぬのう」 
 義久は斥候の話を聞いて難しい顔で言った。
「それは」
「全くです」
「総大将ご自身が先陣なぞ」
「普通はしませぬ」
 義久、歳久、家久も口々に言ってきた。 
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