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ソードアート・オンライン ~白の剣士~

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衝動

緑の稲妻が大地を駆ける…

それと同じく、白銀の閃光も青の軌跡を描いていく…

「クッソ!速ぇなチクショー!」

『まさかこれほどとはな…』

「感心してる場合か、よッ!」

アルモニーの言葉にツッコミを入れるシオン。
シュタイナー覚醒後、状況は完全に五分となった。
シオンが攻めればシュタイナーがそれを躱し切り、またシュタイナーが攻めればシオンが全ていなし切る。
共に有効打を与えられないまま時間だけが過ぎていく…

「完全に硬直状態だな…」

「この場合ってどうなるの?」

「どちらかのスタミナが切れるか…」

「戦況を一瞬にして覆すほどの一撃を繰り出すか…」

前者の場合シュタイナーに、後者の場合シオンに戦況が傾くことを示唆したキリト達。
しかし、今の状況では正直どちらでもあり得てしまう。
いくらスタミナが尋常ではないシュタイナーでもここまでシオンを前にして相当消耗している。
そしてシオンもまた、シュタイナーを相手にことごとく策を潰されている。

「この勝負の鍵はやはり…」

「シオン…」

残された勝利への分岐点は…

「さて、いよいよしんどくなってきたな…」

「もう打ち止めかい?僕はまだまだいけるけど?」

「バカ言え!さっきから振りが鈍ってんのがバレバレなんだよ!」

強気な発言が目立つが、両者共に限界が近かった。
力を込めようにも手が震えてしまう始末。
とてもまともに戦える状態ではなかった。

「いい加減に…」

シュタイナーは一気にシオンの懐に距離を詰め、アッパーカットを打ち込む。

「墜ちろッ!!」

「ッ!ダラァッ!!」

不意を突いた攻撃はシオンの顎を打ち抜いたものの、直後に反撃したシオンの蹴りが側頭部を直撃する。
両者視界が歪む中、それでも動いたのはシュタイナーだった。
シオンの頭を鷲掴みにし、大きく息を吸い込んだ。

「ッ!?やばっ…!」

何かを察知するも、既に遅かった。
頭を完全に固定され、逃げ場を失ったシオンを襲ったのは…。



「GAHHHHHHHHHHHH!!!!!!」



ゼロ距離の咆哮だった。
衝撃波の如きその爆音をまともに受けたシオンの全感覚が一時的に停止した。
シュタイナーは拳を握り、力を限界まで高める。

「終わりだ…覇王槍拳流《雷神の型(トールスタイル)》」

一点集中したパワーと雷の力、それは以前放たれたものよりも格段に練度が増していた。
放たれる瞬間、辺りには一瞬静寂が訪れた。





紫雷(ブリューナク)…」

紫の閃光がシオン貫き、浮島の湖に着弾すると巨大な爆発なって弾けた。

「君が僕を倒すためにソレを編み出したのと同じように、僕も君のことをずっと考えてきた。勝つための方法を…」

リメインライトの炎に包まれながら、ただ力無く倒れていくシオンを背に語るシュタイナー。
その表情は濡れた髪に隠れて見えないものの、握られた拳は確かに震えていた。

時に殺し合い、

時に卓を囲み、

時に手を取り、背中を預けてきた。

側から見れば歪とも言えるその関係性。
初めは嫌悪したソレもいつしか日常となり、徐々に心地良くなってしまっていた。
そう、自分の罪を忘れてしまうほどに…

「でもダメなんだよ、このままじゃ僕は君たちに依存し続けてしまう…」

言葉を募るほど自分が弱くなるような気がした。

「怖いんだ。この罪を忘れることで自分が自分でなくなってしまうのが…!」

震える声で絞り出した一言、それは紛れもなくシュタイナー自身の本音だった。

「…まだ」

「ッ!」

途切れ掛けの意識の最中で発したシオンの言葉にシュタイナーは身体を震わせた。

「まだ…終わって、ねぇ…」

「どうして…」

「直前でなんとか急所を外せたんでね。なんとか、生きてるって感じだ。おかげで…」

白い炎は徐々にシオンの身体を蝕んでいく。それに比例するように剣の輝きが増す。

「…時間ができた」

腰を低くして居合いの構えに入るシオン。朦朧とする意識は視界に靄をかける。見えるのは己の足元のみ、それでもシュタイナーの位置は不思議とハッキリと感じられた。

『不思議だ、とっくに倒れてても不思議じゃねぇってのに…。この感覚、前にもあったな。SAOでも、ALOでも、GGOでも…酸欠のような視界に靄がかかるような感じ。でも、そんな時は決まって身体がよく動くようになる。無駄な力が抜けて思考がクリアになってなんでもできるような気がしてくる…』

どうしてそんな風になるのかずっと疑問だった。
火事場の馬鹿力的なものだと思っていたがそうじゃない。

「この技は万全の状態で使いたかったんだがなぁ。何せ万全の状態じゃないと俺の身体まで吹っ飛んじまうからな」

「その状態てまだ動くのか?」

シオンはシュタイナーの問いに迷いなく答える。

「お前だってそうだろ?もう既に限界来て焦ってる。だからさっき勝ち急ぐような手段に出た」

「ッ…」

忘れていた、首筋がひりつく様なこの感覚。
心臓の音がやけにうるさく聞こえる。
自分の感覚が研ぎ澄まされていく…
これと似た感覚をつい最近味わった。

エクスキャリバー獲得のための空中要塞攻略戦。
崩壊する空中要塞の中を駆ける一矢。
無数の瓦礫の中でも強く感じることができたあの不思議な感覚。

「ああそうさ、とっくに限界なんか超えてる。それでも戦うんだ、全てを終わらせるために!!」

簡単じゃない。

この世は全て理不尽で出来ている。

それでもなお、進み続けなければならない。

「来い“白の剣士”これが最後の一撃だ」

「いくぞ“クソ野郎”歯ァ喰いしばれッ!!」

二人が踏み込んだのは同時だった。
剣と拳の腕をそれぞれ磨いてきた二人、形は違えども目指した頂は同じだった。

強くなりたい。

ただひたむきに走り続けた2年と少しの夢物語。
その中ではじめて出会った唯一無二の好敵手。

「焔星剣流…」

「覇王槍拳流《雷神の型(トールスタイル)》…」

自分を抑え込んできた日々だった。
これが正しかったのかは今でも分からない。
それでも、これだけは言える。

『君に出会えて良かった』

これで全て終わる、終わらせる。

「聖槍!」

「始ノ太刀!」

超えたいと焦がれ続けた日々だった。
追いつくために、追い越すために。

『上がれ…もっと、もっと…熱くッ!!』

灼熱の如き想いは剣の光となって輝く。
炎は更に燃え上がりやがて白の炎へと色を変える。


“勝ちたい”という“衝動”に“本能”に従え


想いが形を成すように——————

「《雷神の鉄槌(ミョルニル)》ッ!!!」

「烈火“暁”ッ!!!」

雷撃と業火が衝突したその瞬間、その威力を物語るかのような衝撃と熱が遠くのギャラリーにまで及んだ。

「うぉわっ!」

「この威力は!?」

「それに、この熱は!」

「っ…!」

爆発に似たそれは大地を大きく揺らした。
破壊不能オブジェクトの表示はいつまでたっても消えることなく残り続ける。
その中で立つ二人の戦士。

「君の戦う理由はなんだ…?」

いつかの戦いと同じことを問うシュタイナー。

「昔はみんなを守るためって言ってたけど、今回は違う…」

身体に残る倦怠感が大きくなり意識が遠くなっていく中、シオンは答えた。



「友達と明日の予定を立てるためだ…」




それを最後に二人は炎なって消えていった。
その時のシュタイナーの顔は、ほんの少しだけ笑っているようにも見えた————―

 
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