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戦国異伝供書

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第百二十三話 耳川の戦いその六

「ならばな」
「我等はですな」
「そこを衝いて」
「そしてそのうえで」
「全力で戦いますな」
「そうする、では飯じゃ」
 義久は自ら大飯を食った、それに弟達も家臣達も兵達も倣った。薩摩隼人達の食いっぷりは実に見事だった。
 そして実際に早く寝て夜が暗いうちに起きた、すると弟達は川の向こう岸の方を見て強い声で言った。
「音がしますな」
「兵達が動く音が」
「やはり兵の数も万を超えますと」
「音が凄いですな」
「例え静かにしているつもりでも」
「聞こえますな」
「そうであるな、というか隠す気もなくな」
 義久もその音を聞いて言う。
「攻めて来るつもりであるな」
「攻める気の御仁達は」
「自らの兵達を率いて」
「その様にしてきていますな」
「そうであるな、しかしな」
 それでもとだ、義久は言った。
「そこがじゃ」
「まさにですな」
「我等の狙い目であり」
「そこを衝きますな」
「そうする、では我等は飯を食う」
 その様にするというのだ。
「具足はもう着けたしな」
「ですな、しかし薩摩者達は起きるのも具足を着けるのも速いです」
 義弘はここでこのことを言った。
「実に」
「そうであるな」
「はい、これも戦ですな」
「戦は干戈を交えるだけではない」
「如何に速く動くかもで」
「これも薩摩隼人の強さじゃ」
 すぐに起きることも具足を着けることが速いこともというのだ。
「実によい、ではな」
「これよりですな」
「干し飯を食うぞ」
「そして飯をすぐに食ってですな」
「陣を整えてな」
「日の出と共に敵が川を渡って来るので」
「戦うぞ」
「数は互角ですが」
 歳久はまだ向こう岸の方を見ている、敵がいるそちらを。
「しかし」
「我等はその数を遥かに覆す」
「そうしたことをしていますな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「今もな」
「そのうえでこれより戦に挑む」
「ならわかるな」
「はい、大いに攻めることが出来ます」
「薩摩隼人の攻め思う存分見せるぞ」
「そうしましょうぞ」
「干し飯は中々でござる」
 家久はもう飯を食っている、そのうえでの言葉だ。
「よくまずいと天下では言われますが」
「それがな」
「我等にとってはどの様なものも馳走」
「薩摩者は戦の場で食うのならばな」
「はい、どういったものもです」
 まさにというのだ。
「馳走なので」
「美味いのう」
「まずい筈と天下で言われる干し飯も」
「だからな」
 それでというのだ。
「思う存分食うぞ」
「さすれば」
「朝もな」
「そして食って水も飲み」
「思う存分戦おう」
 こう言ってだった。
 義久も干し飯を食った、そうして。 
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