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戦国異伝供書

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第百二十一話 耳川の戦いその九

「愚の骨頂であるな」
「全くです」
「織田殿も一向一揆には随分苦しまれましたな」
「それこそ領地のあちこちを回って戦い」
「そして勝たれました」
「どうもあの一揆は引っ掛かるが」
 義久はここでこうも言った。
「どうもな」
「言われてみればそうですな」
「顕如殿もあそこませよと言われなかったとか」
「そもそも顕如殿は織田家に襲われたと言われていましたが」
「織田殿はその様なことはせぬと言われていますし」
「わしはどちらの方も先に仕掛けたとは思えぬ」
 義久は眉を顰めさせて述べた。
「織田殿も顕如殿もな」
「では他の何者かがですか」
「双方を争う様に仕向けた」
「そうだというのですか」
「そうではないか」
 義久は己の疑念を述べた。
「あれは、しかしああした乱が起こったのは事実でな」
「それで、ですな」
「当家でああしたことはせぬ」
「何があっても」
「左様ですな」
「うむ、耶蘇教は認めてもな」
 このことはいいがというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「当家としてはですな」
「神社仏閣は壊さぬ」
「他の教えも認められますな」
「神も仏も敬え」
 義久はこの言葉をここで出した。
「本朝の昔からの教えであろう」
「はい、聖徳太子ですな」
「あの方が言われましたな」
「神も仏も敬い」
「共に信じよと」
「そうじゃ、だから耶蘇教もな」
 この教えもというのだ。
「これからもな」
「信じる」
「そうすればよいですな」
「そして神社仏閣は壊さぬ」
「何があっても」
「それをしろと言えば」
 そう言う者がいればというのだ。
「その時はな」
「その者を罰する」
「そうしますな」
「殿としては」
「そうじゃ、しかし他の教えを認めぬなぞ」
 義久は袖の中で腕を組み難しい顔になって述べた。
「耶蘇教はおかしなことを言うの」
「何でも信じていない者は地獄に落ちるとか」
「そうも言っていますな」
「あのザビエルという者が言っていましたな」
「前にこの薩摩にも来ましたが」
「信じた者は救われてもその先祖が救われないなら」
 それならというのだ。
「意味はないのではないか」
「左様ですな」
「そうなっては」
「そして他の教えを認めないのでは」
「どうにもですな」
「おかしいと思う、しかし大友殿はその教えに溺れられ」
 そうしてというのだ。
「家を乱されておる」
「そしてご領地の政も」
「随分とおかしなことをされていますな」
「そうなってはよくないですな」
「やはり」
「うむ、政はまとめるものである」
 それが政だというのだ。 
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