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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第275話「水面に舞う緋き月・前」

 
前書き
続いて緋雪sideです。
優輝達から離脱した直後から始まります。
 

 










「っ……!」

 転移で優輝達から離れた直後、緋雪は放たれた理力を防御して吹き飛ぶ。
 隙を晒したから当然なのだが、ダメージは抑えたようだ。

「ひゃはぁっ!!」

「ッ!!」

 爪の斬撃同士がぶつかり合う。
 魔力と理力、有利なのは理力だが、それを膂力で相殺に持っていく。
 火花が散り、衝撃が辺りに散る。

「くっ……!」

 飛び退き、降ってきた理力の極光を躱す。
 さらに、体を反らし、頭を撃ち貫く軌道の閃光を躱す。
 そのままバク転の要領で地面に手をつき、後ろに跳ぶ。

「シッ……!」

 再び火花と衝撃波が散る。
 緋雪がシャルと爪を振るい、“天使”の挟撃を防いだからだ。

「っづ……!」

 “天使”の数は4。残り二人に追撃された事で、緋雪は吹き飛ばされる。
 即座に体勢を立て直し、転移する。

「ッ……!」

 シャルを弓とし、魔力を矢として放つ。
 放った矢は複数に分かれ、神速で神達へと迫る。

「ははっ!」

「………」

 だが、誰も被弾しない。それどころか、あっさりと弾いて緋雪に迫る。
 そこに連携は存在しない。まさに“狂気的”。
 獲物へ向けて、執着心すら感じるような動きで襲い来る。

「薙ぎ払え、焔閃!!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)

 それらを、緋雪は炎の大剣で薙ぎ払う。
 ……が、神と一人の“天使”は躱してしまう。
 命中した他の“天使”も大したダメージにもなっていない。

「ほらよぉっ!」

 “天使”が緋雪の胸を貫く。
 神も目から上を斬り飛ばし、返す爪で袈裟斬りした。

起動(アンファング)!!」

 直後、その緋雪の体が爆ぜた。
 実は、大剣を振るった時点でダミーの分身を置いて移動していたのだ。

「“Alter Ego・Schöpfung(アルターエゴ・シェプフング)”……!!」

 再び肉薄される前に、緋雪は分身を展開する。
 今までは喜怒哀楽を模していたが、今回は違う。
 三つの魔晶石を核とし、計4体の分身を生み出した。
 性格も本体の緋雪と同じで、強さも従来より上がっている。

「(これで、“天使”を抑える……!)」

 本来ならば、最大14体まで分身を出せた。
 それを4体に抑えたのは、“天使”の数に合わせたからだ。
 分身が多い程、その強さは弱まる。
 そのため、最低限の人数だけに済ませたのだ。

「ッッ……!!」

 そして、真正面から肉薄してきた神の一撃を、シャルをぶつけて受け止める。
 即座にシャルを待機状態に戻し、補助に専念させる。
 手に魔力を回し、神が繰り出してきた追撃の爪を、同じく爪の斬撃で相殺する。

「っ、ぁっ!!」

 獣の如き食らいつきで、神がさらに追撃してくる。
 緋雪は何とかその腕を掴み、それでも噛みついてきた所を膝で蹴り上げる。
 同時に、“天使”が攻撃してくるが、分身が飛び蹴りで吹き飛ばす。

「はぁっ!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)

 蹴り上げられた神は、そのまま体を捻って蹴りを繰り出してくる。
 それを分身が受け止め、緋雪はその分身が相手していた“天使”を炎の大剣で薙ぎ払い、飛び退かせる。

「“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)”!!」

 一瞬。ほんの一瞬の隙を突き、緋雪は“破壊の瞳”を使った。
 空間が爆ぜ、目晦まし且つ引き離しに成功する。
 即座に分身達が“天使”に突貫し、緋雪と神から分断する。
 緋雪自身も爆炎に突っ込み、同じく突き抜けてきた神と拳をぶつけあう。

「ひゃはははははははっ!!」

「くっ……!」

 狂気を伴った連撃を、緋雪は何とか捌く。
 神自身が狂っているためか、反動を知らない力で攻めてくる。
 人間で言えばリミッターの外れた力の行使に、緋雪も押されていた。

「(ここっ!)」

 優輝であれば、既に圧倒していただろう。
 だが、緋雪も何度も導王流を見てきた。
 それを利用し、神の攻撃を捌く。そして、同時にカウンターで顎からかち上げる。

「っづ……、っの!!」

 それでも蹴りが繰り出され、僅かに緋雪は仰け反る。
 負けじと緋雪も回し蹴りを放ち、神を吹き飛ばす。

「効かねぇなぁ!!」

「せぁっ!!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)

 吹き飛んだ直後に、神が再び突貫してくる。
 それに合わせ、緋雪が大剣を繰り出す。

「そこだぁ!」

「ッ……!」

 その大剣を、弾かれるように受け止める事で上に跳躍される。
 そのまま、理力を鞭のように振るい、緋雪に攻撃してくる。
 すぐさま横に避け、追撃もバックステップで躱す。

「ッッ……!!」

「きひっ」

   ―――“Feuerrot Pfeil(フォイアァロート・プファイル)

 さらに追撃に爪の薙ぎと突きが繰り出され、それを緋雪は紙一重で避ける。
 そして、肉薄状態から矢を叩き込んだ。

「……やりづらいなぁ……」

 以前も戦ったことがある相手とはいえ、やはり相性が悪い。
 狂気を伴ったその立ち回りは、獣とも言い難いやりにくさがある。
 加え、前回は手加減していたのか、強くなった今でも拮抗した強さだ。
 さらに“狂気の性質”なだけあって、精神的攻撃はほぼ意味がない。
 “意志”で倒し切るにも、時間がかかるというべき相手だ。

「っと……!」

 魔力弾で弾幕を張っても、切り抜けてくる。
 全て躱すという訳ではない。
 誘導弾などは何回か命中している。
 しかし、神自身が直撃以外は気にしていないようで、ダメージになっていないのだ。

「ふっ……!」

 狙い澄ました連撃で、神の爪撃を相殺する。
 さらに追撃で繰り出された理力のナイフは、炎の大剣で防いだ。

「っ、ぐっ……!」

 そのまま喉を突くように首を掴み、脚を払って倒そうとする。
 だが、同時に蹴りが繰り出され、緋雪は蹴り上げられた。

「このっ……!」

 矢と、残っていた赤と青の魔晶石から魔力弾を放つ。
 苦し紛れの反撃なため、普通なら防がれるが……

「ははははははっ!!」

「(避けない……!)」

 弾き、無視し、神は跳躍する。
 優輝の導王流とはまた違う強行突破だ。

「(なら……!)」

 ならばと、緋雪はシャルを待機状態に戻し、空中で構える。
 魔力を体中に巡らせ、特に四肢に集中させる。

「(カウンターで抉りぬく!!)はぁっ!!!」

 “意志”と共に、拳を振りぬいた。
 タイミングは、跳んできた神が攻撃を振るったその瞬間だ。
 懐に入った一撃なため、確実に命中するだろう。
 他の神が相手ならば、それでも防ぐ者もいる。
 だが、相手は“狂気の性質”。その“性質”通りに食らいついてくる。
 そこに、回避はともかく防御の概念はない。
 それを緋雪もここまでの戦いで既に理解していた。
 だからこそ、確実に命中すると確信して拳を振るったのだ。

「きひっ」

「ッ……!?ぁぐっ!?」

 しかし、それでもまだ()()()()()()
 “狂気”の通り食らいつくのは、攻撃で直撃しても()()()()()
 上半身と下半身が分かたれても、神は理力を緋雪にぶつけてきた。
 最低でも吹き飛ばせると踏んでいた緋雪は、その一撃に叩き落される。

「っづ……!」

 即座に体勢を立て直し、着地。
 さらにバク転の要領で飛び退き、追撃に降ってきた理力の棘を躱す。

「痛くも痒くもねぇなぁおい!」

「ホント、普通の物理攻撃じゃ効かないんだから……!」

 繰り出される針のような弾幕を、緋雪は防御魔法でやり過ごす。
 一撃一撃が障壁一枚を軽々貫くが、障壁が破壊される訳ではない。
 そこで、多重に張る事で勢いを削いで防いでいた。

「(今まで戦ったことのないタイプの相手。倒すには、効き目がある程の“意志”を連続で叩き込まなくちゃいけない。……となると、問題は……)」

 緋雪の思考を中断させるかのように、転移で後ろに回り込まれる。
 神だけではない、分身が相手していた“天使”も隙を突いて転移してきていた。

「ッ……!!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)
   ―――“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)

 即座に後ろを薙ぎ払うように炎の大剣を振るう。
 それにより、神の攻撃を相殺。反動で飛び退く。
 さらに“破壊の瞳”で空間を爆破させ、空間を断裂させる。
 その断裂を壁とする事で、“天使”達の攻撃を防いだ。

「そこっ!!」

「叩き込んで!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)
   ―――“Tod Kanone(トートカノーネ)

 直後、緋雪の分身達も追いついてくる。
 同時に炎の大剣を順番に振るい、さらに砲撃魔法も叩き込んだ。
 分身一人一人が全力で放つ事で、大きな爆発を引き起こす。

「ッ……“Feuerrot Pfeil Komet(フォイアァロート・プファイル・コメート)”!!」

 そこへ、緋雪が彗星の如き矢を撃ち込んだ。
 規模と威力からしても、効き目があるはずの魔法だ。
 躱されたとしても、これで混戦及び集中狙いは回避したはずだ。

「(……そう、思い通りにはいかない、か!)」

 だが、それでも神と“天使”達は緋雪本人を狙う。
 身体が欠損していようと、それに構わずに緋雪へと食らいつく。

「させない!」

 そこへ、再び分身が手助けをする。
 “天使”の一体を、分身の一人がチェーンバインドで捕獲する。
 そのまま力任せに引き寄せ、殴り飛ばした。

「穿て!神槍!」

   ―――“Gungnir(グングニル)

「切り裂け!焔閃!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)

「射貫け!」

   ―――“Tod Kanone(トートカノーネ)

 残り三体の内一体が投擲された槍に貫かれ、もう一体が炎の大剣で切り裂かれる。
 最後の一体も砲撃魔法によって吹き飛び、残るは神だけとなる。

「ッ……!」

 身体欠損によりボロボロだとは思えない程の膂力で神は爪とナイフを振るう。
 それを、緋雪は炎の大剣で受け止める。

「“呪黒剣”!!」

 同時に、足元に仕掛けておいた霊術を発動。
 黒い霊力の大剣で、神を貫いた。

「がぁあああああっ!!」

「っ、ああもう!」

 それでも、上半身だけとなって神は緋雪に食らいつく。
 幸い、“天使”達は既に分身達が押しやってくれた。
 そのため、冷静に攻撃に対処する事が出来た。
 振るわれた攻撃を左腕を犠牲に受け止め、残った右腕で全力で殴りぬく。

「(っ、ギロチン!?)」

 吹き飛ばした直後、緋雪を挟むように理力で構成されたギロチンの刃が迫る。
 それを跳躍して躱した直後、上半身と下半身が切断された。

「(不可視の刃……!)」

 追撃を躱すために転移で離脱する。
 同時に“意志”で即座に体を再生させる。

「(単純な戦闘じゃ埒が明かない……!)」

 緋雪のあらゆる攻撃を神は掻い潜るように突破してくる。
 優輝とはまた違う、まさに捨て身の突貫だ。
 単純な戦闘だけでも、傷は与えられる。
 だが、それだけでは“領域”を削る事は出来ない。

「(……だったら)」

 ならば、その戦法を変えるしかない。

「シャル!」

〈わかりました。ご武運を、お嬢様〉

 シャルを待機形態に戻し、完全に支援特化にさせる。
 そして、飛んできた攻撃を受け止め、四肢をついて着地する。

「(こっちも、食らいつく!!)」

 直後、弾丸のように緋雪は飛び出した。

「ぁあああああああっ!!」

「っ、くひっ……!」

 咆哮を上げ、突貫するままに魔力で生成した炎の大剣を振るう。
 神もそれに真っ向から立ち向かい、お互いに弾かれる。

「ッッ!!」

「はっはぁっ!!」

 衝撃で大剣は砕け散り、神の片腕が吹き飛ぶ。
 だが、緋雪の両手も限界を超えた力を振るったため、筋が切れ血が出る。

「まだ、まだぁっ!」

「そうこなくちゃなぁっ!」

 その上で、さらに一歩踏み込む。
 ここからは、緋雪も防御を捨てて挑みかかる。
 振るわれるナイフが、頬を切り裂く。
 それを無視し、緋雪も爪で喉を切り裂いた。

「ッ、の、はぁっ!!」

 互いに攻撃を振るう度、身体を抉り飛ばす。
 その傍から再生し、元に戻る。

「(本能のみの動きと理性を伴った動き、優れているなら……)」

 防御を捨ててはいるが、緋雪は理性も捨てた訳ではない。
 効果的な反撃。それを見極め、掌底を顎に当てる。

「ぎっ……!」

「っえぇい!!」

 それでもなお、神は反撃してくる。
 ……が、それを食らってでも、緋雪は追撃の肘鉄を鳩尾に叩き込んだ。

「ッッ!!」

 吹き飛んだ神を追うように踏み込み……同時に転移する。

「ふッ!!」

 背後に回り、魔力の斬撃を繰り出し、再び転移。
 振りぬいた腕を引き戻す形で、返しの刃を正面から叩き込む。

「ひはっ!」

「ッ、らぁっ!!」

 それを受けても、神は反撃してくる。
 その反撃が直撃し、理力の刃で緋雪は細きれになる。
 即座に転移で上を取り、再生しつつ血を媒体に魔力の槍を大量に生成する。

「ッ!?(ここで転移……!)」

 だが、それらを突き刺す前に、神が転移する。
 全く想定していなかった訳ではないが、それでも対処が間に合わない。
 防御だけは間に合わせ、そのまま地面に叩きつけられる。

「はっははははははははははははははははははははははは!!!」

「っ、っづ、ッ……!」

 乱打、乱打、乱打。
 理力による衝撃の連打が緋雪を襲う。
 転移で逃げようも、それも理力で差し押さえられ、完全にマウントを取られる。
 一撃一撃が緋雪の体を抉り飛ばし、傷つけ、陥没させる。

「(“意志”を直接折る事をこの神はしてこない。マウントを取ってもこれなら、“狂気の性質”が原因と見ていいかな。自身すら狂気を持っているから、“意志”を込めた攻撃が不得手……!)」

 そのために、心を折るために直接戦闘でマウントを取ってくる。
 そう緋雪は結論付ける。
 無論、ただ嬲られるだけでは、今更緋雪の心をは折れない。

「(……なら、唯一私を倒すには“狂気”しかない。……なるほど、根競べだね)」

 体を打ちのめされながらも、緋雪は冷静に思考する。
 要は、神は“狂気”を通して緋雪の“意志”を折ろうとしているのだ。
 この戦闘は、最早表向きなものに過ぎない。

「(……受けて立つ)」

 片腕が千切れ飛ぶ。
 同時に、もう片方の腕を神の肩に突き刺した。

「―――爆ぜろ!」

   ―――“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)

 その状態で、突き刺した手で“破壊の瞳”を握り潰す。
 神の肩が爆散し、僅かに攻撃が緩む。

「はぁっ!!」

 気合一閃。再生させた腕で首を斬り飛ばす。
 魔力と霊力を纏わせ、直撃時に敢えて反発させる事で強烈な爆破を引き起こした。
 先ほどの“破壊の瞳”と合わせ、これで両腕が使えなくなってしまう。
 ……が、即座に神を蹴り飛ばす事でその場から抜け出す。

「心を蝕む葛藤や悲しみ、憎しみ、そして恐怖。それらが狂気となる。……なら!それらを克服し、乗り越えた今なら!決して“狂気”に囚われない!!」

 転移で間合いを取り、声を張り上げる。
 同時に、極光を放ち、近寄らせない。
 否、その前に“準備”を終える。

「さぁ、さぁ、さぁ!人を滅ぼす人の業を御覧じろ!これこそが我が身!我が心!いざ水面に映し出せ、緋色月!!」

   ―――“清澄の緋色月(Frisch Rotmonat)-フリッシュロートモーナット-”

 神の爪が目の前まで迫った瞬間、緋雪から炎が噴き出す。
 その炎は辺りを塗り替えるように広がり、同時に魔力放出で神を吹き飛ばした。

「これが、私の新しい……ううん、本当の心象風景!」

 それは、今まで緋雪が使ってきた固有結界とは違う風景だった。
 空を覆っていた紅い暗雲はなく、星々が輝く夜空が広がっている。
 赤い月はそのままだが、その明かりは大地を見守る優しさに満ちていた。
 そして、血のように赤い水面は、空を反射する程の美しき水面へと変わっている。

「っ………」

 その固有結界を見て、神は僅かに怪訝そうにする。
 以前見た光景と違っていたからだろう。

「ッッ!」

 緋雪は、その隙を見逃さない。
 転移と縮地で肉薄し、掌底を放つ。
 直後、その移動時の衝撃波で水面に波紋が広がる。

「がっ!?」

 その波紋が神の足元を通った瞬間、衝撃が神を打ちのめす。

「はぁああああああっ!!」

 反撃を許さない猛攻を、緋雪は仕掛ける。
 波紋を利用した衝撃波、上空の星を媒体にした流れ星の如き攻撃。
 そして、緋雪自身の攻撃によって、反撃すら相殺して神を打ちのめす。

「(結界によって“天使”とも分断した。これで、分身がやられようと、私さえ勝てば勝利になる……!)」

 掌底をめり込ませ、その反動で折れ曲がった上半身をかち上げる。
 間髪入れずに転移し、蹴りでその体を吹き飛ばす。

「がぁっ!!!」

 獣のように着地し、すぐさま緋雪へと襲い掛かる神。
 別段、緋雪の身体能力が上がった訳ではないが、今はその動きが良く視えた。

「シッ!!」

 カウンターばりに繰り出される手刀の一突き。
 肩が抉り取られる代わりに、緋雪も下顎と喉を抉りぬく。
 そして、追従する波紋で神を吹き飛ばした。

「っ……なぜだ、なぜだァ!」

「………」

 一方的……とまではいかないが、精神性においては、緋雪が上となっていた。
 全く揺らぐ事のない“意志”に、神が痺れを切らしたのだろう。
 何より、以前はあったはずの“狂気”が緋雪から感じられなかった。

「お前は“狂気”を持っていたはずだァ!それを……それを……どこへやったァ!?」

「……言ったはずだよ。克服したって。乗り越えたって……!」

 シャルを展開し、魔力と霊力を纏わせる。
 普段の炎の大剣とはまた違う大剣を展開する。
 霊魔相乗に応じた、白く輝く刀身に赤と青の螺旋が纏う。

「人は、命は成長する!その度に何かを乗り越える!弱さを、恐怖を!そして、乗り越える度に、強くなる!」

「ッ……!」

「もう、私は狂気に囚われない!!」

 そして、その大剣を横一閃に降りぬいた。

「討ち()て、輝閃(きせん)!!」

〈“Lævateinn Überwindung(レーヴァテイン・ユヴァヴィンド)”〉

 白き刀身が、神を切り裂いた。
 さらに、赤と青の螺旋の光が神を引き裂く。
 明確な“意志”が直撃した今、“狂気の性質”とは言え無傷ではない。
 むしろ、神によっては今ので倒せただろう。

「(っ―――生きてる)」

「………」

 倒れ伏した状態から、ゆっくりと起き上がる神。
 その表情には、確かに笑みが浮かべられていた。

「(まだ、何かある……!?)」

 相手は神界の神だ。今まで倒してきた神も、その“性質”の全てを見た訳じゃない。
 そのため、何か隠し玉があっても緋雪は驚かない。

「………くひっ」

「ッ―――!?」

 だが、“ソレ”は想定外だった。

「くひ、くひひひ、げひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「っ、う、ぁ……!?」

 “ぐじゅる”“ぐじゅる”と、ナニカが神から展開される。
 ソレを見て、緋雪は息を呑み、冷や汗を流した。

「ひゃひゃひゃひゃ!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「ッ………!」

 元々、神界の神が人型を取っているのは、その方が活動しやすいからだ。
 ……裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

「これ、は……ッ!?」

 冒涜的な見た目をした“触手”が、神の体を突き破り、展開される。
 さらに、体の周りをチロチロと形容しがたき炎や光などが瞬く。

「っ、ぅ、ぐっ……!?」

縺薙%縺九i縺ッ(ここからは)

 それを見て、緋雪は猛烈な吐き気を覚える。
 直後、それは違うと認識した。

譛ャ豌励〒陦後°縺帙※繧ゅi縺(本気で行かせてもらう)

「(こっちの“狂気”、か……!)」

 これは“狂気”だ。
 冒涜的で、形容しがたき存在を見た際、正気を削られる。
 その正気を失えば、“発狂”する。
 そういった“狂気”を、この神は実現しているのだ。

「ぁ、ぐ……!」

 相手は“狂気の性質”。
 ……その“性質”が、どうして無から狂気を生み出せないと思ったのだろうか。

「ぁ、ぁぁ……!?」

 未だ経験した事のない感覚。
 それ故に、緋雪は対処できずに立ち尽くすしかなかった。



















 
 

 
後書き
Alter Ego・Schöpfung(アルターエゴ・シェプフング)(新Ver)…今までの喜怒哀楽を模した分身も可能だが、魔晶石を核とする事で本体の性格そのままに、最大14体まで分身を出す事が可能となった。ただし、14体の場合は本体の1割の力しか持たない。分身が少ない程、本体の強さに迫る。1体だけならば、本体とほとんど変わらない。今回は四分の三程の強さとなっている。

Feuerrot Pfeil(フォイアァロート・プファイル)…“緋色の矢”。緋雪の汎用的な単発魔法。複数放つ事も出来るが、白兵戦では威力の高い単発を使う事が多い。

Tod Kanone(トートカノーネ)…“死神の大砲”。緋雪の汎用的な砲撃魔法。普通の直射型砲撃魔法だが、発射点を動かす事で薙ぎ払う事も出来る。

Feuerrot Pfeil Komet(フォイアァロート・プファイル・コメート)…上述の単発魔法を昇華させたもの。彗星(コメート)とあるように、砲撃魔法と遜色ない規模と威力を誇る。

Gungnir(グングニル)…157話以来の登場なので再掲。Lævateinn(レーヴァテイン)の槍バージョンのようなもの。速度、貫通力などに特化している。

清澄の緋色月(Frisch Rotmonat)-フリッシュロートモーナット-…狂気を克服した事で変化した緋雪の固有結界。ルビは“爽やか(Frisch)”、“赤月(Rot Monat)”から。結界内の景色も変わっており(本文参照)、効果も相手に狂気を伝播させるものから、それらのデバフを無効化するモノへと変わっている。他にも、結界内の存在を利用した追加効果も出せる。

Lævateinn Überwindung(レーヴァテイン・ユヴァヴィンド)…霊魔相乗をレーヴァテインで行う事で発動する、討ち克つための剣。ユヴァヴィンドは克服のドイツ語(くそ雑魚リスニング)。


ここに来て、クトゥルフ要素を出していくという。尤も、関わっているのはSAN値直葬してくる部分だけです。本人とかは本文には出ません。……一応、神界からの侵攻を防ぐため、外宇宙で戦ってたりしますが(余談)。 
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