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MOONDREAMER:第二章~

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第三章 リベン珠
  第6話 遂に現れた存在:後編

 玉兎:清蘭と始まった弾幕勝負。その中で彼女は鈴仙よりも弱いだろうと思われた勇美を狙うという、非情だが勝負においては理に敵った戦法を取るのだった。
 勇美にグイグイと迫る弾丸。だが清蘭は今、些か読み違いをしたかも知れなかった。
「清蘭さん、いい判断ですね。でも、依姫さんから聞いていませんでしたか?」
 得意気に言う勇美。そしてここで彼女は今回の旅の弾幕ごっこで初めて『例のもの』を見せようとしていたのだった。
「そうね、今回は『韋駄天』様に『金山彦命』でお願いします」
「?」
 何を言い出すのだろう。そう清蘭は思わず首を傾げるてしまう。そんな彼女に勇美はその答えを示していく。
 勇美の側に機械仕掛けの小動物が現出したのだ。
「一体何を……?」
「驚くのはまだ早いですよ♪」
 清蘭が目を見張る中、勇美は得意気に言ってのけた。
 その言葉の後、勇美の前に二柱の神のビジョンが現れ、それが機械の生物へと取り込まれていったのである。
 神を取り込んだ勇美の相棒『マックス』は、一旦その場で解体され、金属片と歯車へと変貌して辺りに四散した。
 そして、散り散りになったマックスは各々の場所で新たなる姿へと生まれ変わったのであった。
 それは、小型の人工衛星のような様相であった。その名前を勇美は宣言する。
「【甲翼「シールドエアフォース」】!」
 その宣言をする間にも、清蘭の放った弾丸の群れは刻一刻と勇美へと向かっていたが、当の勇美は全く慌てずに『それら』に指示を出した。
「シールドエアフォース達、向かえ撃って!」
 その主の指示に、その飛行物体は瞬時に従ったのである。それらは一挙に行動を行ったのだ。
 迫って来た清蘭の弾丸の一つを、飛行物体の一つは無駄のない動きで体当たりをして弾き飛ばしたのである。その弾丸は実体ではないが故に体当たりを受けると水のように消し飛んだ。
 その課程を勇美は、さながら流れ作業の如くやってのけていった。相手の弾丸に合わせてこちらも防御に優れた衛星を差し向ける。
 それは、勇美が伊達に今まで幻想郷の少女達との弾幕ごっこで鍛えられてはいないという事であった。そう、勇美の経験は確実に彼女の糧となっていたのである。
 そのように勇美はその実力の一部を清蘭に見せつけ、彼女の攻撃をことごとく防いでいったのだった。
 どうやら清蘭の攻撃はここまでとなったようである。彼女は口惜しげに呟く。
「くっ、ここまでのようね……」
 これにて、清蘭の第一手の『ルナティックガン』を勇美は見事にこなしたという事である。
 これは、依姫が勇美の事を清蘭に伝えていなかったが故に、出鼻を挫く事に成功したとも言えるだろう。つまり、依姫はこういう事態を予期していたとも取れる訳だ。
 第一手を防がれた清蘭は、ここで呟くように言う。
「勇美……あなたのそれ、もしかして神降ろし?」
 清蘭とて依姫の能力については噂に聞いた事があるのだ。それを確認する意味も籠めて彼女は勇美に聞く。勇美もそれを使えるようになったのではと。
「うん、正確には神降ろしを動力として『借りている』って事なんですよね~。神様の力を借りる神降ろしから、更に借りる事となるからその効力は更に弱まってしまいますが……」
「……」
 それを聞いて清蘭は暫し無言で考え込む。
 これは厄介な事であろうと。確かに噂に聞く神降ろしの効力よりも弱まっている感じはあるが、その代わりに勇美とやらの機械を顕現して変幻自在に操る能力の汎用性により対処しづらさが生まれていると清蘭は感じるのだった。
 そして、彼女はこう結論づけるに至ったのである。
(まずは、この子から先に倒さないとね……)
 単純明快な答えであった。要は清蘭の中で勇美は厄介さの優先順位が鈴仙よりも上となったという事であった。
(そうと決まれば、話は早いわね!)
 決意をした清蘭の判断は的確であった。彼女は次なるスペルを発動する事にしたのであった。ルナティックガンが防がれるなら、次の手を打てばいいという事である。
 彼女は銃を構え直すと、そこに再び弾丸が装填されていく。だが、先程のルナティックガンのそれとは様相が違っていた。
 一頻り装填が終わると、清蘭はそのスペル名を宣言する。
「【凶弾「スピードシューティング」】」
 それに続いて清蘭はその場で二発、三発と続けて引き金を引いたのである。だが、勇美は慌てずにこれもシールドエアフォースで弾き飛ばしてしまおうと構えて待ったのだ。
 だが、ここで勇美は異変に気付くのである。
「?」
 その違和感の正体……。それはいつまで経っても先程清蘭が発射した筈の弾丸がこちらに向かって来ないのである。
 何故かと勇美は首を傾げつつ前方を注意深く確認すると、その正体に気付いたのである。
「弾の動きがゆっくりになってる……」
 それが答えだったのである。先程の弾丸は風を切る速さとは無縁の、まるでスローモーションのようにじりじりと這うようにこちらに進んでいたのだ。
 勇美はそれには当然疑問を持った。これでは『スピード』と銘打っているが、まるで逆で『スロー』とでもいうべきだろう。
 これなら容易に避ける事が出来るだろう。勇美はそう踏んでしまったのだ。だが、それは当然清蘭が望む所であったのだ。
 そうして勇美の動きは目に見えて隙が出てしまったのである。それを逃す清蘭ではなかった。
「そこっ!」
 清蘭がそう掛け声を出すと、それは起こったのだ。
「痛っ!」
 何故か勇美は身体に痛みを覚えてのけぞってしまった。当然彼女は何事かと警戒する。
 そして、見れば先程までスローモーションで動いていた弾丸の一つが忽然と姿を消していたのだ。
 痛みに堪えながら、その事から勇美はある推論を立てたのである。
「……もしかして、そのスローな状態から一気に弾速を速めたのですか?」
「ご名答よ。さすが神降ろしの力を借りるだけの事はあるわね。そう、ご察しの通り、この『スピードシューティング』は弾速を低速から高速に自在に変える事が出来るってワケ」
「……これまた厄介ですね……」
 そう呟く通り、勇美にとって分が悪い事実なのであった。
 自分は今まで、どちらかというと相手の攻撃に合わせて戦略を練っていた。故に、今の清蘭の攻撃は『見て』対応出来ないので勇美にとって難儀なのである。
「う~む……」
 どうしたものかと悩む勇美。そこに掛かって来たのは鈴仙の声であった。
「勇美、これはあなたにとってやり辛い攻撃よ。だからここは私に任せて!」
「鈴仙さん!」
 不意に呼び掛けられて、勇美はハッとしながら返事を返したのである。
 勇美がそうしている間に鈴仙は準備が整ったようだ。後はそれを実行に移すのみである。
「【狂符「幻視調律(ビジョナリーチューニング)」】」
「しまっ……」
 清蘭がそう言い掛けた時には既に遅かったのだった。彼女の感覚は奪われ、そして、彼女が敷いた弾丸の布陣は全て清蘭の方向へと向けられてしまったのである。
「はい、動いていいわよ」
 そう言って鈴仙はパチンと指を鳴らすと清蘭の感覚は元に戻り、そして──彼女の元へと自身が放った弾丸の一斉射撃が行われたのだった。
「うきゃあああっ!」
 清蘭の放った弾丸は全て主へと突撃し、パチパチと激しく爆ぜた。当然清蘭はその痛みに耐えかねて悲鳴をあげてしまう。
 気付けば弾丸の突撃は収まったようだ。思わぬ反撃を受けた清蘭は堪らずに息をあげている。
「はあ……はあ……」
 対して、自分を危機から脱させてくれた鈴仙に勇美は感謝をする。
「鈴仙さん、助かりましたよ。ありがとうございました♪」
「どういたしまして。そして忘れないでね、今回あなたと私は『タッグを組んでいる』って事をね♪」
「えへへ、そうですね」
 そう言い合うと二人はどちらからともなく微笑み合うのだった。
「これは驚いたわね……」
 そんなやり取りをする二人、特に鈴仙を見据え、清蘭はそう実感する。
 それは、鈴仙が誰かと力を合わせている事に対してだった。今までの鈴仙の事を知る清蘭は、鈴仙は誰かとつるむ事を嫌う一匹狼のような性格だと記憶していたからだ。
 それが今こうして誰かと力を合わせて戦っている。そう思うと清蘭は感慨深い気持ちとなるのであった。
『あの鈴仙が……』。その言葉が清蘭の思考を支配していった。そして、その感情は『嬉しさ』だった。
 かつての同僚の成長を感じる事で、そう想い懐く清蘭。そして、こうも思う。──あの勇美とかいう人間には何か見えないものが備わっているのだと。それを清蘭は興味深く思うのだ。
 だから彼女は、この戦いを非常に意味のあるものだと感じた。それが故に、彼女は今こそこのスペルを使うべきだと心に決めるのだった。
 それを知らせる為に、清蘭は二人に向けて口を開く。
「鈴仙、そして勇美。あなた達はとても良いものを見せてくれたわ」
「えっ!? 今私はパンツは穿いてますけど!?」
「あなた何言って……?」
 その瞬間、清蘭は勇美の発言からは要点を得る事が出来ずに頭の中がフリーズしてしまった。そこへ鈴仙が口を挟む。
「勇美、お願いだからやめて!? 私までノーパン趣味だと思われるじゃないの!?」
「いや、それいいものですよ。鈴仙さんも一度体験してみなさいな♪」
「だが断る」
 鈴仙は勇美の仕様もない誘惑をきっぱりと断ったのだった。
「……」
 そして清蘭は不覚にも思ってしまった。自分以外の女性のスカートの中にそのような秘密が内蔵される事の魅力は甘美なものかも知れないと。
(って、そうじゃないって!!)
 だが、清蘭はその誘惑を間一髪の所で振り切る事に成功した。
 それは本当に紙一重であった。何せ地上の兎に変装の為に裸足で外を歩いていたら、そこはかとなく快感を覚えている自分がいたくらいなのだから。
 それはさておき、清蘭は話を元に戻さねばと意識を集中させながら再び口を開いた。
「まあ……、とにかくあなた達に生まれた関係は素晴らしいから、私も気合いを入れてこの勝負に挑もうと思った、そういう事よ」
 つまり、勇美達の関わりに触発されて清蘭にも火が付いたという事であった。それは、ここから相手は手強くなるという事である。
 しかし、勇美にはそれは本意ではないので彼女はこう言った。
「いえ、なるべくお手柔らかにお願いします」
「いや、これは勇美のようなヘンタイにお灸を添える意味でもあるのよ、このノーパン趣味が☆」
 その台詞を言い切る清蘭は、実に爽やかな笑顔であった。
 そして、勇美は墓穴を掘ってしまったかと思った。思ったが反省はしなかった。何故ならノーパンは彼女にとって正義(ジャスティス)なのだから、譲る気はなかったのである。
 勇美がそのような(不必要な)正義感に打ちひしがれている間に、清蘭は懐から新たなスペルカードを取り出したのだ。
「【怪鳥「サイコイーグルショット」】!!」
 その宣言後、清蘭は両手でしっかりと銃を持ちながら、抜かりなく引き金を引いたのである。
 そして、彼女の銃には青白いエネルギーが瞬く間に収束していったのだ。それはまるで風変わりな色の炎のようであった。
「シュートッ!」
 一頻り収束が終わると清蘭の銃から、それが『形』となって放出された。
「巨大な……ワシ……!?」
 その形は今しがた勇美が指摘した通りに、清蘭が弾丸代わりに放出したのは青白く燃えるような鷲状のエネルギーの塊なのであった。
 それが羽ばたきながらこちらへと向かってくるのである。その様は正に雄々しい鳥そのものだ。
「すごい……」
「ええ、清蘭がこんな事出来たとはね……」
 その光景には二人とも驚いているのだった。そしてこれは厄介だと鈴仙は思っていた。
 弾丸ならば自分の狂気の瞳で軌道を逸らして相手に向ける事は出来るだろう。だが、こうもエネルギーの塊を放出されてはそれも敵わないだろう。
 どうしたものかと思いあぐねる鈴仙。だが、一方で勇美の方は至って落ち着いていた。
「勇美、何か秘策があるのね」
 その相方の様子に気付いた鈴仙はそう勇美に言葉を発したのである。
「ええ、まあ見ていて下さいね♪」
 そう勇美は得意気にのたまったのだ。それには鈴仙も何か心強いものを感じ、それならこの場は勇美に任せられるかと安堵すら覚えるのだった。
 鈴仙のその思いを背に受けながら、勇美はこの状況打破の為の手筈を整えていく。
「『愛宕様』に『金山彦命』よ、今こそその力を合わせて下さい」
 そう言って勇美はマックスに火の神と金属の神の力をブレンドして備え付けていったのである。
 それにより、まずその鋼鉄の体はみるみるうちに変型を遂げていき、気付けば機械の鳥型に変貌していたのだった。
「同じ鳥の形って訳ね、でもこの私の自慢の鷲は止められないわよ!」
 そう言い切る清蘭。それだけこの攻撃には自信があったのだ。何故ならこのスペルは最近編み出したとっておきなのだから。
 対して勇美の方も得意気であった。その理由を彼女は口にする。
「勿論、このままじゃ終わらないよ♪ 続いて愛宕様の力!」
 勇美が言うと、彼女の目の前に顕現している機械の鳥は突如燃え盛ったのである。
「うわっ!」
 これには清蘭は驚愕してしまった。鳥型への変型で終わるかと思われていた矢先にこのようなサプライズが待っていたのだから。
「それじゃあ行くよ。【機翼「メタルフェニックス」】!」
 万を持して行われた勇美のスペルカード宣言。それを合図に炎を纏った機械の鳥は一気に加速を付けて突撃していった。
 その先には、当然清蘭の放った青きエネルギーの鷲である。
「だけど、このサイコイーグルに打ち勝つ事は出来るかな!」
 清蘭は不死鳥を真正面から受け止める気だ。そして赤と青の炎の鳥が激しくぶつかり合ったのである。
 その間、互いにぶつかり合うエネルギーが激しく、文字通り火花を散らしていたのだった。
 そして、そのぶつかり合いの決着は意外に早く済んだのである。
「うそ……私のサイコイーグルが……」
「今よメタルフェニックス。敵を盛大にぶち抜いちゃってぇー!!」
 勇美のその掛け声に応えるように、不死鳥は一層激しく燃え上がり羽ばたくと、その勢いのまま青き鷲を貫いたのだった。
 そして鷲は砕け散り、その中を掻い潜るかのように不死鳥が本体の清蘭目掛けて突貫してきた。
「うわあっ……!!」
 驚きの声を上げると共に、清蘭は勢いそのままに向かって来たメタルフェニックスに弾き飛ばされてしまったのだった。そして彼女は地面に倒れ伏せてしまった。
 その後、役目を終えた機械の不死鳥はその場でかき消えてしまう。後に残ったのは倒れてうずくまる清蘭だけであった。
 暫くして彼女はダメージで重く感じる体を起こしながら呟いた。
「何で私がやられているの……?」
 それは即ち清蘭の敗北宣言であった。つまり、勇美と鈴仙はこの旅始まってから初の弾幕ごっこに勝利したという事だった。

◇ ◇ ◇

「大したものね鈴仙、今のあなたには迷いはなかったわ」
 痛みに耐えながら体を起こした清蘭はそうしみじみと言った。
 その言葉を聞きながら鈴仙は思っていた。──そう、今までの自分には迷いがあった。それは月から逃げて来た自責の念である。
 だが、それも今では完全ではないものの払拭出来た。だから、こう言っておかねばならないだろう。
「そう、だから私は今胸を張って『地上の兎』になったって言い切れるわ」
 それが鈴仙の答えであった。その答えはきっとかつての主である依姫も望む事であろう。
「……立派になったわね、鈴仙。それと勇美も。さっきのは凄かったわ」
「えへへ、依姫さんと神様の力のお陰ですよ♪」
 清蘭に言われて、勇美は照れ臭くなってそう答えておいた。
 ここに二人と清蘭の間にどこか友情染みたものが芽生えていた。だが、『これは仕事』なのだ。清蘭はその長い耳を立てるとある行動をしようとし始めたのだ。
 それは、玉兎同士がテレパシーで情報交換をする手段なのだ。今正に清蘭はそれを行おうとしていた。
『メーデーメーデー緊急事態発せっ……!!』
「ちょいまち!」
 だが、それを勇美に阻止されてしまった。がしっとその兎耳を強かに握られてしまったのだ。
「ちょっ……何すんの?」
「仲間に知らせるのはいいんだけど、その前にお願いを聞いて欲しいなって」
「……」
 何か理不尽な目に遭っているような気がしながらも、清蘭はその考えを押し込める事にした。
 何故なら自分は幻想郷で白黒付ける為の決闘方法である弾幕ごっこに負けたのだ。ここは郷に従うのがルールというものだろう。
「何かしら? 要件はてっとり早く言いなさい」
「うん、私達が勝ったって事で、私にもその料理をご馳走して欲しいかなって」
 この人はヘンタイな上に食いしん坊なのか。そう打ちひしがれながら清蘭は頭を抱えるのだった。 
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