MOONDREAMER:第二章~
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第三章 リベン珠
第2話 新たなる友:後編
勇美と宇佐美菫子とで始まったパフォーマンスを兼ねた水の弾幕ごっこ。その勝負の最中、水を超能力で固定するという芸当を見せた菫子は、高らかにスペルカードの宣言をするのだった。
「【流星「スターゲイザー・センゾ」】♪」
その名付けは、実は後に彼女の子孫となる者の能力と、菫子自身がその者の先祖となる事が関係しているのだ。
それが、菫子の超能力により未来予知の形で彼女の思考に作用した訳であるが、無意識の内に行われたが故に彼女自身はその事を知るよしはなかった。
だが、それはそうと菫子の攻撃は施行される事に変わりはないのだ。故に彼女はその為の行動に移るのだった。
彼女は両手を広げると、そこから念動エネルギーを照射し始めたのである。それにより、ライトアップされている事によりネーミングさながらに夜空の星のように瞬いている無数の水、これらがむくむくと蠢き出した。
「?」
それを見ながら勇美は目を見開いた。だが、これから何が起こるのかはおおよそ検討がつくというものである。
「来るっ!」
そう勇美が思うと同時、夜空に浮かんだ水の星々は次々に勇美目掛けて降り注いでいったのだ。それは正に『流星』である。
だが、勇美は慌てなかった。こういう時にぴったりな手段が彼女にはあるというものなのだ。
手始めに勇美は『天宇受売命』と『マーキュリー』の力を借りる。そして、それらの神々の力を受けた勇美の分身は、彼女の脚部へと集約されていったのである。
「【踊符「ダンシングシューズ」】。それでは楽しませて頂きますよ」
足に機械仕掛けの靴を纏った勇美はそう得意気に言って、難なく最初の流星の一撃をその足捌きでかわしたのだ。その着弾点がパシャッとしたたかに弾ける。
「上等な物言いに相応しく、やるじゃないの。でも、それがずっと上手くいくかしら?」
言うと菫子は勇美に指を指して水の兵に迎撃命令を下す。それにより次なる勇猛な兵が勇美目掛けて襲い掛かったのである。
「よっ……と♪」
それも勇美は朝飯前と言わんばかりに見事に回避してみせる。
「やるわね、だけどまだまだいくわよ」
巧みな足捌きを見せる勇美に、やや焦燥しつつも冷静に振る舞いながら菫子は向き合う。そして、更なる指令を水の兵団へと下す。
だが、幾らやっても結果は同じであった。機械の靴に翻弄される事なく勇美は敵の砲撃を舞う木の葉のようにのらりくらりと回避に成功していったのだった。
「いい加減当たりなさ……あ」
そこで菫子は気付いてしまった。──もう既に彼女が仕込んだ水の弾丸は全て撃ち尽くして弾切れの状態となっていたのだったのだ。
「どうやら弾切れのようですね」
「ええ、そのようね」
勇美は菫子に余裕に見せて言いつつも、内心安堵していた。──無事にダンシングシューズの力で相手の攻撃を全てかわし切る事が出来たと。
この力を使ったのは、確か魔理沙との戦いの時であった。だがあの時は途中で彼女の攻撃をかわし切れずにダメージを負ってしまったものである。
だが、今は同じ力を使い、あの時の二の舞にはならなかったという訳なのだ。
つまり、勇美がかつての時よりも上達している事の証なのであった。その事に勇美は気付いて、嬉しさが胸の内に込み上げて来る心持ちとなるのだった。
(でも、今は……)
だが、勇美はここで気を引き締め直す。今は勝負に勝つ事に集中すべきなのだ。故に自分の上達っぷりを噛み締めるのは勝ってからで良いのである。
そう思い、勇美は戦いに向き合うべく、まずは足に装備したダンシングシューズの解除を行ったのだ。
ガチャガチャと音を鳴らして、機械の靴は瞬く間に解除されて消滅してしまった。それを見ながら菫子は言う。
「勇美のその能力、かなり珍しいわね」
「菫子さんの力こそ、幻想郷で暮らしているとかなり珍しいって気付かされますね。だから、この勝負が楽しいんですよね」
「楽しい……か」
人との関わりの中で自分がそのように言われるのは久方ぶり、いや、もしかしたら初めてかも知れない。菫子はそう思いながら感慨に耽るのだった。
これにより、ますます友達を作るのも悪くないと想い至る菫子であった。自分との関わりにより喜んでくれる者を前にして嫌な気持ちになる人はそう多くはないだろう。
そして、自分達の勝負を見に集まってくれている人達にも期待に応えなくてはならないだろう。故に菫子はここで決心するのだった。
「勇美、この勝負みんなが楽しいものにしましょうね♪」
「望む所ですよ菫子さん♪」
ここに二人の気持ちは一緒になったようだ。だが別に一つにする必要はないのだ。それは楽しみ方は各々が気の赴くままに行えば良いのだから。
その想いを胸に菫子は次なる行動に出る。
「にとりさん、次の水お願いね♪」
「あいよ!」
菫子の申し出にもにとりは嫌そうな態度は一切見せずに快く承諾する。彼女とて二人が展開していくショーには心踊るものがあったのだ。
そして、にとりは自身の能力にて新たな水を生成して打ち出し、菫子へと提供する。それを菫子は超能力で受け止めて再び空中へと固定した。
「これだけあれば十分ね」
そう呟き菫子は満足気な態度を見せる。その様子は何やら企んでいるかのようであった。
「何をする気ですか?」
そんな菫子の様子を、当然勇美は訝る。対して菫子はさらりと答えて見せた。
「いや、何。ここは『目には目を』と思っただけよ」
「?」
未だ要点を見せない菫子に、勇美は思わず首を傾げてしまう。一体この人は何を企んでいるのだろうか?
勇美がそう思っている中で、とうとう菫子は行動を起こした。彼女は懐からある物を取り出したのである。
「それは……」
思わず勇美はそう呟くが、それ自体は彼女自身にも見覚えがあったのだ。それを勇美は口にする。
「3Dプリンターで造った銃ですね?」
「ご名答よ♪」
正解を言い当てた勇美に、菫子はご満悦といった様相で以て返した。
菫子が今取り出した代物。それはネットに掲載された銃の設計図を元に立体的に形をプリントする装置で、あろうことか本物の銃のように機能させる事が出来る道具であった。それが実際に社会的問題になったのだが、その話題はここでは置いておく。
その銃を菫子が先日の都市伝説騒動での戦いにて使用していた事は勇美にも知れ渡っていたのであるが、実際にその目で見るのは初めてなのであった。
問題は何故菫子はそれを今このタイミングで取り出したかという事である。その疑問に彼女は答えていった。
「さっきも言ったように目には目をって事よ。あなたが銃を使うなら私も銃を使うまでって事よ」
「成る程」
その菫子の主張に勇美も納得したようだ。だが、ここで彼女は気付いてはいけない事に気付いてしまったようである。
「でも、それって銃刀法違反になりますよね。あ……だとしたら私もそもそも……」
「それは気にしては駄目よ」
それ以上は踏み入れてはいけない領域だと危惧した菫子はそこでストップを入れておいた。ここから先に歩を進めてしまえば、思考の泥沼に足を絡められてしまうだろう。
「それに、あなたのお師匠様も平然と刀を所持しているでしょう? 今更だと思うわよ」
「あ、言われてみれば……」
そもそも問題を追求すればそこにも行き着く訳である。故に勇美はこれ以上の詮索をするのを止める事にした。
「気にしない事にします。……それは外界出身の者として大問題でしょうけどね」
「うん、それがいいわよ」
そこまでで二人は、考えるのを止めたのであった。
「それで菫子さん。都市伝説の時のようにそれで攻撃するのですか?」
気持ちを改めて勇美は話題を変え、菫子にそう聞く。それに対して出た菫子の解答は勇美の予想していたものとは少し違っていた。
「勿論これを使うけど、今回はちょっと使い方が違うわね。そもそも普通に使うなら水なんていらない訳だし」
「確かに」
勇美は素直にそう思った。普通に『3Dプリンターガン』として使うなら、にとりから水の提供を要求したりはしないだろう。
「勇美も薄々分かってるんじゃないの? じゃあいくわよ!」
そう菫子が言い切ると彼女は銃口を勇美に向けたのである。だが、そのまま引き金を引く事はなかった。
彼女は銃を持っていない空いた手で、念力を発動したのである。そして、その行き先は──当然の如く、宙に固定してあった水の塊へであった。
その力を受けて水はスライムのようにプルプルと震えると、そこから一部の水が引き抜かれていったのである。後は想像に難くないだろう。
それに合わせて菫子はプリンターガンのホルダーを外したのである。そして水はその中に収まっていったのだった。
「成る程、実弾代わりに水を込めたって事ですね」
「そう、理解が早くていいわね」
勇美の指摘に答えた菫子は、後は相手の要望に応えるだけだろう。実は彼女にとってこの試みは初めての事であるが、不思議と彼女には迷いはなかった。これも超能力の賜物かも知れない。
「【水術「ウォーターガン」】」
その宣言と共に菫子はとうとう引き金を引いた。それにより直線上に圧縮された水圧がレーザーのように勇美を襲ったのだ。
「これは……」
勇美はそう呟くとすぐに体を動かしてそれをかわしたのである。
間一髪で水のレーザーを避けた勇美。そして彼女がいた場所にその攻撃が注ぎ込まれた。
激しく弾ける音と土煙が巻き起った事が、この攻撃が強烈な威力を誇っていたのを物語っていた。
そして、水撃は止み音と土煙も収まったようだ。その後の光景を見て勇美は息を飲んだ。
そこには規模が小さいながらも穴が堀り込まれていたのだった。それも底がすぐには分からない程深く刻まれているようである。
今しがたその恐るべき水撃を放った菫子は胸を張ってこう言った。
「あなたの判断、見事ね。これにプレアデスブレットで相殺しようとしなかったのは懸命ね」
「ええ、とてもじゃないけど撃ち合えるような威力じゃないってすぐに分かりましたから」
菫子の言葉に、勇美は冷や汗を流しながらそう答えながらも、その判断力を見せた自分を内心褒めるのだった。これも伊達に幻想郷で弾幕ごっこで渡り合ってきてはいないが故にだと。
勇美は今そのように焦燥と喜びが入り混じった複雑な感情となっていた訳だが、その相手となっている菫子の方も実は内心取り乱していたのだった。
それは、このウォーターガンの威力がここまでになるとは思ってはいなかったからである。さすがは自然の産物である水の力か。後、自分の超能力の効力にも改めて驚かされたのである。
だが、そのように考えを巡らせている事を菫子はおくびにも出してはいなかった。それは伊達に都市伝説騒動にて幻想郷の者達とためを張ってきてはいないが故の気丈さである。
だから、菫子はあくまで強きで以てこう言う。
「いつまでも避けられるとは思わない事ね。次は当てるわよ」
そう言いながら銃口を勇美に向ける菫子は、まるで言外に「言い訳は地獄で聞く」と語っているかのようであった。弾幕ごっこだから殺す事はないのだけど。
「……」
そんな菫子に対して勇美は無言で向き合った。そして自分の持つ銃を菫子へと向けたのだ。
「血迷ったかしら? その銃の弾で相殺出来ないって事は今分かったでしょう? これはあなたの判断ミスね」
そう言った菫子は無慈悲にその引き金を引いたのだった。そして再び発射される水の直射。
その直進は容赦なく勇美へと向かっていた。このままでは彼女はその牙の餌食となってしまうだろう。星の弾丸では打ち消す事が出来ないのだから。
そう、あくまで『星の弾丸』では……である。
「ふんっ!」
突如勇美は掛け声をあげると、それは起こったのだった。
彼女が持つプレアデスガンは一瞬にして分解されたのだ。しかも、その中には先程よりも立派なライフルのような風貌の銃が存在していたのである。
「ええっ!?」
これにはさしもの菫子とて驚愕してしまったのである。何せ一瞬にして相手が持つ銃が豹変したのだから。
そして、その隙を見せたのが菫子にとって命取りであった。それを勇美が見逃す訳がなかったからだ。
「『火雷神』の力にて敵を撃ち抜け! 【銃電「トールガン」】!!」
宣言と共に勇美の新生銃の引き金は引かれ、そこから電撃が激しくほとばしったのである。そして、それが向かった先は菫子が放った水の直進であった。
電気が進む速度は当然水よりも速い。そして、電気が水に接触すればどうなるかは察しの通りであろう。
「しまっ……!」
菫子がそう反応した時には既に遅かったのである。勇美の放った電撃は水の線を伝って、一気に本体である菫子へと向かったのだから。
咄嗟に彼女は超能力を防御の為に向ける。だが、完全には防げはしなかったようだ。
「くぅっ……」
そしてかき消し切れなかった電撃は、確実に菫子を包んだのだった。その後電流は止んだ。
その様子を見届けた勇美は、確認するように言葉を発する。
「……続けますか菫子さん?」
「いいえ……私の負けだわ」
この瞬間に夜の芸術の勝負は雌雄を決したのであった。
◇ ◇ ◇
その後、二人は人里の上白沢亭に身を移していた。時刻はもう夜中となっていたから、これからそれぞれの住まいに帰るのは危険だからだ。
ましてや菫子の住まいは外の世界に存在するのだ。今からそこを目指して夜の幻想郷を行くのは自殺行為というものであろう。
そして、相部屋となっていた二人は、就寝前に先程の勝負の事で話に華を咲かせていたのだった。
「あー、それにしても他の人の力を借りて戦うのって骨が折れるわね」
それが今回の、にとりから水を供給してもらいながら戦った菫子の率直な感想であった。
「それを今までやってきた勇美はやっぱり凄いわね」
そして、依姫の神降ろしの力を借りて今まで戦ってきた勇美に感心を示した。
「うーん、今までずっとそうしてきたから自分では余り実感出来ないんだけど……やっぱり凄いのかな?」
「ええ、そうよ。慣れってのは恐いわね」
あっけらかんと言ってのける勇美に、菫子は些か戦慄すら覚えそうになった。
「でも、ありがとうございました。今回はにとりさんとあなたのお陰で里のみんなは喜んでくれましたよ」
「それは光栄ね。でも、変則的な弾幕ごっこだったとはいえ、出来れば勝ちたかったわね」
それが菫子の本音であった。いくらパフォーマンスとはいえ、れっきとした弾幕ごっこ、それに勝ちたいとは当然思うのだ。菫子とて幻想少女として箔が着いてきたという事だろう。
「しかし、一瞬で銃の形態を変型させるなんて……あれ反則よ?」
「それ、最近出来るようになったんですよね。修行の成果が出たって事ですかね~」
勇美はしみじみと呟くように言った。中々自分では気付けない事だが、確実に腕をあげていっているのだろうと思いながら。
そして、菫子は今まで友達を作らなかった身だ。故にこうも誰かを褒める事はなかったのだ。つまり、それは自分は良い友達を作る事に成功したのだと実感するのだった。
こうして勇美と菫子は互いに無二の親友となるのだった。
このように勇美は依姫がいない今も一所懸命に幻想郷で励んでいたのである。そうしてもっともっと幻想郷にて色々なものを吸収していきたいと感じるのだ。
だが、そう優雅に構えていられない事態が起こっていたのだった。
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