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おっちょこちょいのかよちゃん

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115 千葉に来たハーフ少女

 
前書き
《前回》
 杉山も藤木が失踪したという情報を聞き、驚愕する。そして横浜では孤独な女の子が異世界の人間から喋り、戦いの武器として、さらに友達として接してくれる不思議な人形を託されたのだった!! 

 
 かよ子の父は新聞の夕刊を読んでいると、かよ子をその場に呼んだ。
「かよ子、新聞に藤木君の事が載ってるよ」
「ええ!?」
 かよ子は父に新聞を見せて貰った。見出しは「清水市の小学三年生男子、行方不明」とあった。
「やっぱり藤木君だ・・・!!」
 かよ子は新聞を読む。

【24日夕方頃、静岡県清水市内に住む小学三年生・藤木茂君(9)が行方不明になった。両親は共働きであり、父・(まもる)さんと母・まさえさんが仕事から帰った時、息子の姿がおらず、茂君クラスメイトの家に電話をしたものの、どこの家にも遊びに行ったという連絡はなかったという。静岡県警も最近起きている異世界から来たと名乗る者の襲撃および日本赤軍との関連性も併せて捜索をしている。】

(藤木君・・・。やっぱり、あの時、笹山さんから嫌われたのを気にしていなくなったんだ・・・)
 かよ子は卑怯とはいえクラスメイトの一人がいなくなると少し寂しく感じるのであった。

 千葉県に一人の女子がいた。彼女の名は花沢咲菜(はなざわさきな)・マリエル。変わった名前に聞こえるが実は彼女は日本出身ではない。元はイギリスに住んでおり、10才の頃に父の仕事の関係で日本に来たのである。父は日本人だが、母はイギリス人である。その為、来日当初は日本語は片言ではあり、イギリスと日本のカルチャーショックを受けたりとしたものだが、今はそのような事はなく、日本の生活に慣れており、友達などからは「マリエル」と呼ばれている。高校生になってから好きな男子もできた。ところが高校二年生になったある時、地震のような現象が起きた。
(な、何、これ・・・!?)
 マリエルは日本は地震が多いと聞く。大正時代に起きた関東大震災では多くの命が失われたとも聞いた事がある。だが、その時、「バン!」と爆発する音がした。
「わ、What!?」
 マリエルは見回す。住宅の一角が爆破されている。
(あそこは・・・!!)
 マリエルは向かった。あの方角には自分の好きな男子の家がある。爆破に巻き込まれた人々が数名いた。
「ひ、久水(ひさみず)君・・・!!」
 久水蓮次郎(ひさみずれんじろう)。マリエルが片思いしているクラスメイトの男子であった。彼は爆発に巻き込まれて崩れた塀から何とか避けたところだった。
「ま、マリエルじゃねえか・・・」
「大丈夫なの?」
「あ、ああ・・・。何とか避けられた」
 その時、また別の爆発がした。マリエルと久水のいる付近の電柱が倒れる。マリエルは久水の手を引っ張って電柱から避けた。
「誰が暴れてんのよ!?」
 マリエルは見渡す。と、その時、後ろから攻撃が来るような感触を覚えた。
「久水君、逃げて!」
「おい!」
 マリエルは更に違う方向へと走った。また爆発が来た。もし今の予知夢のような感触がなかったら二人共あの爆発に巻き込まれてお陀仏であったろう。
「一体、何なの・・・?」
 その時、謎の太った女性がその場に立った。
「去れ!悪しき者よ!」
 女性はそう言うと、爆発が止んだ。更にまた別の声が聞こえる。
「チッ、平和の世界の人間か・・・!!」
 男の声だった。
「そこの者、大丈夫であったか?」
「はい・・・、あ、貴女は、一体・・・?」
「そうだな。ブランデー・ナンとでも呼んでくれ。そこのお嬢、見聞の能力(ちから)を持っておるな?」
「ケンブンノチカラ?何それ?」
「たった今、お前さんは己の所に攻撃が来ると予知して爆発から避けたであろう。それこそまさに見聞の能力(ちから)なのだ」
「はあ・・・」
「今、この世界に歪みが生じている。私はその歪みを元に戻す為に活動しているのだ。お主にこれを授けよう」
 ブランデー・ナンがマリエルに渡したものは本だった。
「これは本?」
「お前さんはイングランドの血が流れておるだろう。祖国は四つの国が合わさったものである事を知っておるな?」
「ああ、イングランドの他に、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドね」
 実際、日本で使用される「イギリス」とか「英国」とかいう呼称は現地では通用しない。英語での正式名称は「ユナイテッド・キングダム・オブ・グレート・ブリテン・アンド・ノーザン・アイルランド」、縮めて「UK」と呼ばれるのが一般的である。マリエルはその中でイングランド地区のマンチェスター出身なのだ。
「それはその四つの国の伝承が込められた魔導書だ。これを使えばお前さんは戦える」
「本当に?」
「そうだ。伝承を実体化させる事ができるのだ。ただし、私利私欲に使ってはならないぞ。では」
 ブランデー・ナンはスッと消えた。
「マリエル、その本、どうすんだ?」
「まあ、帰ったら読んでみるわ」

 マリエルは家に帰ると早速その魔導書を呼んだ。文字はこの世の字とは思えないものだが、彼女にはなぜか読めた。「ウィッティントンと猫」だの「ジャックと豆の木」だのよく知っているような童謡や人魚や幽霊の話もあった。そして自分もよく知るマザー・グースの話もある。
(こんなの本当に現実になるのかしらね・・・?)
 マリエルにはまだ半信半疑だった。

 そして別の日、家を出る際にマリエルは念のためにその魔導書を鞄に仕込んでおいた。そして感じた。またあの爆発が訪れそうな予感が・・・。
(これが、あのブランデー・ナンが言っていた「見聞の能力(ちから)」・・・?)
 そして登校中、電車に乗ろうとして駅に着いた所、後ろで爆音が聞こえた。多くの人が吹き飛ばされている。
(で、出た・・・!!)
 マリエルはその爆発の原因となる人間を目にする事になった。
(あの男が犯人ね・・・!!)
 マリエルはこの本を使ってみようと思った。そして本を開いた。開いたページは「ライオンとユニコーン」の項目であり、そこからライオンとユニコーンが実体化して現れた。二体は男に攻撃した。
「ぐはっ、何だ!?」
「アンタね、昨日の爆発魔は!」
「この小娘、ミハイロ様に楯突く気か!」
 ミハイロは手から爆弾のような物を噴射した。マリエルは避ける。そしてユニコーンがミハイロに体当たりし、ライオンが噛みついた。
「いてえ!この野郎!!」
 ミハイロは噛まれた痛みで苦しがる。
(これだけじゃまだ倒せない・・・!!)
 マリエルはもう一度本を開いた。本から鵞鳥(がちょう)に乗ったおばあさんが現れた。マリエルは彼女こそがマザーグースだと思った。
「留めは私がやるよ。私を呼んでありがとう。お嬢さん」
 マザーグースはそう言って鵞鳥に乗ったままミハイロに向かう。
「行け、我が鵞鳥よ!」
 鵞鳥は口から水を噴射した。強力な水圧だった。
「うおおおお!!てめえ・・・!!」
 ミハイロはその水鉄砲の水圧で腹に穴を開けられた。そして光となって消滅した。
「これでやっつけたのかしら・・・?」
「ああ、そうだとも」
 マザーグースとライオン、ユニコーンが戻って来た。
「あいつはこの世界の人間じゃないからね。殺められると光となって消えるのさ」
 マザーグースは説明した。
「そうなんだ・・・」
「じゃ、私達は戻るよ」
 マザーグースも、彼女に使える鵞鳥も、ライオンも、ユニコーンも本の中に入って行った。
「やったな。花沢咲菜・マリエル」
「ブランデー・ナン・・・」
 いつの間にかブランデー・ナンがマリエルの後ろにいた。
「あの者をライオンとユニコーン、そしてマザー・グースの能力(ちから)を利用して倒すとは素晴らしかった」
「え、ええ、ありがとう・・・」
「だが、これで戦いは終わったわけではない。まだ元の日常を取り戻すには更なる戦いを要するであろう。だが、私はお前さんを信じるよ。この世界の日常を取り戻す存在の一人としてね。では・・・」
 ブランデー・ナンは消えて行った。
「元の日常を取り戻す・・・、か」
 マリエルは驚く通行人の目を気にせずそのまま駅の改札を通り、登校の為に電車に乗るのだった。そして彼女もまた大いなる戦いに身を投じて行く事になる。 
 

 
後書き
次回は・・・
「九州の熱血中学生」
 クリスマスが過ぎ、新年に向けて準備をするかよ子は母に頼まれたお使いの途中、笹山と遭遇する。そして熊本にはサッカーに熱意を持つ中学生男子も異世界の敵と遭遇していたのだった・・・。 
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