雪女郎に背を
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第二章
「目鼻立ちがはっきりしておらず」
「そして雪の降る時にですか」
「そうです、雪の滑りやすい時の崖道で」
「背中を見せるとですね」
「谷底に突き落としてきます」
「実に剣呑でありますな」
「実際に死んだ人もいまして」
神主は西郷に顔を曇らせてこのことを話した。
「正直困っています」
「わかりました、ではわしが早速です」
西郷はここまで聞いて神主に答えた。
「その雪女郎が出る場所に行って」
「そしてですか」
「退治してきます」
「よいのですか?」
「ははは、妖怪退治をしたいと思っていました」
神主に対してもこう言った。
「ですから」
「赴かれますか」
「そして」
そのうえでというのだ。
「退治してきます」
「そうされますか」
「これより」
「そういえば貴方は江戸いえ東京の方で随分知られているとか」
「柔道というものをしていまして」
そちらでとだ、西郷は神主に答えた。
「嘉納治五郎先生の下で修業を積んでいます」
「それで、ですか」
「腕に自信はあります」
まさにというのだ。
「ですから」
「その雪女郎もですか」
「退治してきましょう」
「ではお願い出来ますか、実は」
「人を脅かす妖怪をですな」
「誰か何とかして欲しいとです」
その様にというのだ。
「皆願っていまいて」
「では丁度いいですな」
「お願いします」
こう話してだ、そしてだった。
西郷は神主に雪女郎が出るという崖道に一人赴いた、道に着いたのは夜だったがそこには彼以外にいない。
だが後ろから気配がした、それでだった。
西郷は屈んだ、そうして後ろから来た何かをだった。
その一撃をかわしてからだった、身体を上げた時にその腕を掴み。
一気に前の崖の方まで投げた、見ればその着物も髪の毛もまっすぐな女であった。
女は崖に絶叫と共に落ちていった、そして崖の中に幾度もぶつかり遂に底に落ちた。その底に落ちた姿を月とそれに照らされた雪の光で見ると。
目鼻立ちがはっきりしていなかった、その女が動かなくなっていた。西郷はそれを見届けるとその場を去った。
それで神社に戻り神主にことの次第を話した、すると神主は西郷に話した。
「実は貴方が行かれた後で調べたのですが」
「あの雪女郎についてですか」
「はい、元は人だったそうです」
「そうでしたか」
「それがです」
その人がというのだ。
「誤って崖に落ち」
「あの崖にですか」
「その魂が雪に閉じ込められたとか」
「それで出られなくなりましたか」
「この辺りの古い書にそう書いてありました」
「そうでしたか」
「貴方が退治してくれましたが」
それでもとだ、神主は西郷に話した。
「霊のことなので」
「退治してもですか」
「また出て来るやも知れませぬので」
それでというのだ。
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