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もう一つの"木ノ葉崩し"

作者:ぬんすち
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第一話―忍び寄る影

「……何と言った?」

「十億両。」

「ふざけるな!!」

あまりに突拍子もないその男の返答に,思わず机を叩く。

「十億だと!?大名を護衛するエリートでも,相場は数千両。大名暗殺の成功報酬でさえ二億~三億がせいぜいだ。それを,たった一人の人間に対して十億など出せるものか!!」

早口でまくし立てるのは,滝隠れの里の初代里長・ヒマツである。
※本作オリジナルキャラクター

「人間……?違うな,ヤツは……。この俺が,"忍の神"の首を取ってやろうというのだ。十億で済むなら安いほどだ。」

金には決して妥協しない,その男の名は角都。生来の驚異的な身体能力とそれを更に強化する土遁忍術を併せ持ち,ここ滝隠れの里においては右に出る者がいないほどの体術使いである。数多もの暗殺任務をことごとく成功させてきた実績がある一方,自らが提示した成功報酬の支払いが約束されない限りは絶対に動かないその男に,ヒマツも手を焼いていた。角都の眼中にあるのはただ金のみ,里長や上層部への敬意など欠片も持ち合わせてはいないのだ。

「たとえ"忍の神"といえど,今はマダラとの戦いで傷付き昏睡状態と聞く。それを暗殺するのに,十億も必要だというのか!?」

「あくまで払えぬと言うのなら,俺は降りる。この任務は誰か別の者にでも与えると良い。」

「ヒマツ様,おやめください。」

近くでやり取りを聞いていたヒマツの側近が,ヒマツにヒソヒソと耳打ちをする。

「ヒマツ様,この角都が報酬額を妥協したことなど,これまでただの一度でもございましょうか。確かに十億両などあまりに高額,その上態度も無礼です。しかしながら彼の暗殺の腕前は本物,我が里随一といっても差し支えないほどの手練れでございます。ここは一先ず,言葉の上だけでも条件を飲むと約束しておき,実際の報酬については任務から戻った後でまた考えればようございましょう。」

「むっ……それもそうだな……。」

ヒマツは,角都の方へ向き直る。

「よかろう,角都。十億両用意するゆえ,木ノ葉隠れの火影・千手柱間を暗殺せよ!」


~~~~~


バッ!バッ!

「「くたばれ!!」」

ツノを生やした二人の大男が同時に飛びかかってくる。一方の左肩には"金",もう一方の右肩には"銀"の文字だ。

バチチチッ……!

「!?」

「!!」

ガッ!ガッ!

しかし,色黒のその男は,椅子に座ったまま全身に雷を纏ったかと思うと,いとも容易く二人の攻撃を受け止める。

「チッ……!」

「クソッ!」

「相変わらず血の気の多い奴らよ。金角,銀角。」

男はそのまま,二人を放り投げて退ける。この男,雷の国・雲隠れの里初代雷影にして夜月一族の長,エー。雷遁チャクラの鎧と併用して八門遁甲・第六景門まで開くことができ,当時としては柱間,マダラの両名を含めても忍界最強の体術使い,加えて千手扉間に次ぐ忍界No.2のスピードの持ち主であった。九尾チャクラを持つ金銀兄弟さえも力づくで抑えつけて従わせ,里を創設した人物である。
※原作648話にて登場。能力の設定は本作オリジナル。

「オレ達はまだ,てめえに自由を奪われた恨み忘れてねえからな!"里"なんて窮屈な場所に閉じ込めやがってよ,銀角!」

「おうよ金角!てめえはいつかオレ達がぶっ倒す!子の代に至るまで覚悟してやがれ!」

"雲に二つの光あり"と謳われる,二人の忍・金角と銀角。伝説上の人物・六道仙人の末裔とも言われ,圧倒的なチャクラ量で国々を荒らし暴れ回っていた。しかし,夜月一族との戦いに敗れたことでやむなく服従し,以降は雲隠れの里が誇る凶悪な弾丸として多くの国で恐れられる存在となる。

「そう言うがよ,お前らにはちゃんと定期的に任務を与えて,里の外で暴れ回って発散する機会をやってるだろうよ。」

「ふざけるな!任務だと?決められた場所で決められた暴れ方しかできねえで何が楽しい,なあ銀角!」

「おうよ金角!てめえの言いなりにされてんのも気に食わねえ!都合の良い忍具みたいに扱いやがってよ!」

雷影の弁明を聞いてなお,兄弟は不満をあらわにして騒ぎ立てる。

「まあそう言うなよ。不満が募っているところ悪いがよ,今日お前らを呼んだのはまた任務を与えてやろうと思ってよ。」

「「おい聞いてたのかオレ達の話!!」」

「なあに心配するなよ,今回ばかりは本当に思う存分暴れていいからよ。なにせ今回は俺らと同じ五大国,木ノ葉隠れの里が標的だからよ。」

「……!木ノ葉……!」

「……あの火の国の……。」

エーの言葉に,さしもの金銀兄弟にも緊張が走った様子だ。

「相手にとって不足はねーだろーよ。…………,ぶっ潰してこい。」

そして二人の様子を見たエーもまた,突然口調を改め,静かに,しかし荒々しく,命を下すのであった。

しばしの沈黙の後,金銀兄弟は……



ニッ……!



自由の身であったかつてのような,不敵な笑みを浮かべ部屋を出た。

一人になった雷影は,静かにため息をつく。

(全く,最高の遊び場とでも言いたそうな表情だったな,恐ろしい奴らよ。心配なのは俺の死後……俺だからこそ抑えつけられるあの凶器どもを,俺の跡を継ぐ次の"エー"が制御し切れるかどうか……。『子の代まで覚悟しろ』とはよく言ったものよ。ことによると雲隠れは……,二代で滅びるかもな。) 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます!
滝隠れの里長・ヒマツの名前は,アニメオリジナルストーリーに登場したシブキ(=飛沫)の読み方を変えたものとなっております。
角都,この当時39歳です。
角都は禁術・地怨虞をまだ体得しておらず,金銀兄弟は六道仙人の五つの宝具をまだ所持していません。奇しくも両者,後のクーデターor里抜け時に盗んでいった能力という点で共通しているのが面白いですね。 
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